ジョブズやキヤノンのトップが語る「数に強い人の本質」とは?

数字,永野裕之
(画像=The 21 online)

「数字に強い人が成功する」「ビジネスマンは数字力を磨くべき」などとよく言われるが、そもそも「数に強い」とはどういうことなのか。東大、JAXAを経て人気数学塾塾長を務める永野裕之氏は、数字の中にあるストーリーを見つけ出し、行動につなげることこそが「数に強い人」だと主張する。詳しくうかがった。

名経営者が語った「定量化の本質」とは?

キヤノンの御手洗冨士夫会長の言葉を引用させてください。これはある雑誌のインタビューで語られた言葉です。

「目標を数字で表現すると、その数字の実現に何をどうすればいいのか、誰がどのような筋書きでどのような仕事をし、それにはどんな場面が必要なのか、方法論としての物語が浮かび上がってくる。……数字なき物語も、物語なき数字も意味はなく、実行も達成もできないでしょう。数字とその実現を約束する物語を示すことで、経営計画の信憑性を高め、市場や株主からの信頼性を確保する。数字力が言葉に信の力を与える」

ここには定量化することの意義が見事にまとめられています。数字は物語を伴って初めて意味を持つのです。そして定量化による「物語」はいつも、比較や変化を表す数字から始まります。

朝、猫がキャットフードを食べたという事実を「午前8時に体重4㎏の猫が50gのキャットフード食べた」と定量化できたとしても、これだけではほとんど何の意味もありません。

午前8時という時刻がいつもと同じなのかどうか、あるいは40gのキャットフードを何分ぐらいで食べきったのかという比較や変化がわかってはじめて、「いつもより1時間遅く朝ご飯をあげたところ、わずか1分で食べ切ってしまった…」というような物語が始まるのです。そしてそこから「とてもお腹を空かせていたのだろう」という仮説が立ち、「お腹を壊すといけないからご飯はできるだけ決まった時間にあげることにしよう」というアクションにも繋がります。

そうです。定量化の真の目的は仮説を組み立て、さらにアクションにまで繋げていくことなのです。比較や変化を示す数字が物語の幕開きなら、アクションこそが物語のエンディングです。

平均点や標準偏差と組み合わせ、点数の「意味」を見つける

正確性と厳密さが求められるビジネスシーンにおいては数字が大変重要であるとはいえ、数字は使いさえすればいいというものではありません。ただ並べられただけの数字は単なる値に過ぎないからです。

私は職業柄、いろいろな生徒からテストの答案を見せてもらうことがありますが、たとえばそれが62点だった場合、「62」という数字だけでは何も感じられませんし、何も語れません。平均が50点である場合と平均が70点である場合とでは、62点の意味は大きく変わってきます。ですから私は必ず平均点が何点だったかを尋ねます。

また最近の学校は平均点だけでなく標準偏差(平均からのばらつきを示す統計量。標準偏差が大きいとばらつきも大きい)や、クラスや学年全体の得点分布がわかるヒストグラム(棒グラフ)等を資料として配ってくれるところも少なくないので、そういったデータがわかる場合は、それらの数字とも組み合わせて考えます。そうやってはじめて62点という点数が持っている本当の意味が見えてきます。

数値の変化から「ストーリー」を導き出そう

もちろん、過去の点数を知っている場合は、そこからどのように変化したのかもじっくり検討します。仮に前回も今回も平均を下回ってしまったとしましょう。でも、前回より平均に近くなっていたり、あるいは平均からの差は同じでも、標準偏差が前回よりも今回の方が大きかったりする場合には、成長が認められます(たとえば標準偏差〈ばらつき〉が10点のテストで平均マイナス15点の場合は、落ちこぼれだと言わざるを得ませんが、標準偏差20点のテストにおける平均マイナス15点は落ちこぼれというわけではありません)から、その頑張りは褒めてあげるべきです。ある生徒の前回と今回の成績が、

前回:60点(平均70点・標準偏差10点)
今回:62点(平均70点・標準偏差15点)

だった場合、その生徒が「今回も平均に届きませんでした」と悲嘆にくれていたとしても、これらの数字を使って、「でも、前回より標準偏差が大きくなっている中、平均からの差も縮まっているわけだから、実質的には上向いているよ。この調子で頑張ろう!」という希望のストーリーを語ることができます。

「愛の価格」は280万円!?

数字から物語を引き出す好例を1つ紹介しましょう。アクサ生命が25?44歳までの働く女性600人を対象に行った調査報告(2010年)なのですが、そこには

結婚相手に求める理想の年収:平均約552.2万円
愛する人に求める年収:約270.5万円

というデータが示してあり、その後に

その差額281.7万円が『愛の価格』といえるかもしれません。

とまとめてあります。

この世で最もプライスレスであると言っても過言ではない愛の価格をこのように決めてしまうことについての反論はもちろんあると思いますが、結婚相手に求める理想の年収と愛する人に求める年収の両方を調べることで、その差額から「愛の価格」は281.7万円であるとする「物語」は、大変興味深いと私は思いました。この物語を知れば読者の皆さんにとっても「552.2」という数字と「270.5」という数字は、無味乾燥な単なる値ではなくなったことでしょう。

数字を読むときも、数字の意味を考えるときも、数字を作るときも、数字が本来持っている物語を紡ぎ出そうとする努力を決して忘れてはいけません。

この点についてはスティーブ・ジョブズ氏も「ただ数字を見るのではなく、覆いの下をのぞいて、アイディアと人間の質を評価するのだ」と言っています。

(出典:『東大→JAXA→人気数学塾塾長が書いた数に強くなる本』)

永野裕之(ながの・ひろゆき)「永野数学塾」塾長
1974年、東京生まれ。暁星高等学校を経て東京大学理学部地球惑星物理学科卒。同大学院宇宙科学研究所(現JAXA)中退。レストラン経営、ウィーン国立音大への留学を経て、現在は個別指導塾・永野数学塾(大人の数学塾)の塾長を務める。これまでにNHK、日本経済新聞、プレジデント、プレジデントファミリー他、テレビ・ビジネス誌などから多数の取材を受け、週刊東洋経済では「数学に強い塾」として全国3校掲載の1つに選ばれた。プロの指揮者でもある(元東邦音楽大学講師)。著書に『東大教授の父が教えてくれた頭がよくなる勉強法』『数に強くなる本』(PHPエディターズ・グループ)、『大人のための数学勉強法』(ダイヤモンド社)など多数。(『The 21 online』2018年05月30日 公開)

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