過去最少の出生数を記録

 厚生労働省が2018年6月1日に発表した「平成29年人口動態統計月報年計(概数)」によれば、2017年の出生数は946,060人で過去最少を記録した。合計特殊出生率も1.43であり、前年(1.44)より低下した。20代から30代の若者の人口減少や女性の就業率の高まりに加え、未婚化、晩婚化、晩産化の傾向が続いていることもあり、なかなか少子化に歯止めがかからない。

 こうした流れを変えることの一つは、出産しても働き続けることができると若者が実感できるほど、育児と仕事との両立がしやすい社会づくりであると思われる。これまでも、保育所整備のための企業主導型保育の推進や、柔軟な働き方が可能になるための短時間勤務制度や在宅勤務制度など、様々な取り組みが行われている。その成果もあり、出産後も継続就業する女性は増えているが、少子化傾向に変化が見られない。

2017年10月施行の改正育児・介護休業法

 このような中、さらに育児と仕事との両立支援を図るために、2017年3月に改正育児・介護休業法が公布され、2017年10月1日に施行された。

 主な改正点の一つは、最長2歳まで育児休業の再延長が可能になったことである。これまでの育児休業期間は最長1歳6か月までであったが、保育所に入所できないなど、休業が特に必要と認められる場合に、子どもが2歳になる日まで育児休業ができるようになった。育児休業期間中に受給できる育児休業給付金も2歳までとなる。これにより、子どもの預け先となる保育所を確保し、利用するタイミングに余裕ができるので、職場復帰がしやすくなると思われる。

 また、もう一つの主な改正点は、年次有給休暇や育児休業制度、子どもの看護のための休暇制度といった法で定める休業・休暇制度以外に、「育児目的で利用できる休暇制度」を企業が設けることを努力義務としたことである。

 具体的に育児目的の休暇制度として考えられているものは、「配偶者の出産休暇」や「子どもの学校行事に参加するための休暇」、「育児にも利用できるファミリーフレンドリー休暇などの多目的休暇」などである。また、失効した年次有給休暇を積み立てて、「育児目的で利用できる休暇」として利用できるようにするなど、各企業の自由な創意工夫により設置できるものである。

育児目的で利用できる休暇制度の導入状況

 実際に、育児目的で利用できる休暇制度を設置している事業所は、2016年度では17.1%である(図表1)。育児・介護休業法の改正前ということもあり、全体の2割にも満たない。

 事業所規模別にみると、500人以上の規模では42.5%であるが、5~29人では16.3%であり、事業所規模が大きいほど導入割合が高い。一般に、事業所規模が大きい方が各種制度の導入が進みやすい傾向はあるが、他方、規模が小さい事業所では、育児を必要とする年代の従業員がいない、あるいは少ないため進んでいない可能性もある。従業員の年齢構成によって、必要とされる制度は異なる点に留意が必要である。

育児目的で利用できる休暇制度の努力義務化
(画像=第一生命経済研究所)

育児目的で利用できる休暇制度の利用状況

 次に、育児目的で利用できる休暇制度を設置している事業所における、同制度を利用した人の割合を性別にみると、女性は26.7%、男性は35.9%である(図表2)。

 女性の方が男性よりも少ないのは、女性の場合、出産の際には産前産後の休暇があり、産後休暇の後は育児休業制度を利用している人が多いことが考えられる。その他、子どもの学校行事などは年次有給休暇を活用して休んでいる人が多いため、同制度の利用者が相対的に少ないと思われる。これに対して男性の場合は、育児休業制度を利用する代わりに、妻の出産時などに、この育児目的の休暇制度を利用している人が多いのかもしれない。

 事業所規模別にみると、男性の場合は事業所規模にかかわらず3~4割の人が利用しており、事業所規模による利用者割合の差はあまり大きくないが、女性の場合は事業所規模が小さいほど利用者割合が高い。これについても、年次有給休暇との関連があると思われる。厚生労働省「平成29年就労条件総合調査の概況」(2017年)をみても、 年次有給休暇は規模が小さい事業所ほど取得率が低い傾向がある(図表省略)。女性の場合、規模が大きい事業所に勤めている人は、有給休暇を取得することで代替しているのかもしれない。男性の場合は、女性よりも年次有給休暇の取得率が低く(上記厚生労働省調査より)、女性以上に有給休暇の取得にためらいがある人が多い。しかし、「育児のため」という目的が明確な休暇制度があれば、事業所規模にかかわらず、職場の理解が得られやすいために休みやすいのかもしれない。

育児目的で利用できる休暇制度の努力義務化
(画像=第一生命経済研究所)

男女ともに育児と仕事との両立がしやすい社会づくりのために

 このように、育児目的で利用できる休暇制度は、特に男性の場合、事業所規模にかかわらず一定の割合で取得している傾向がみられる。こうした休暇制度を導入することは、企業が従業員に対して育児目的で休暇を利用できるという明確なメッセージを発信することにつながる。このような休暇制度を多くの企業が独自に創意工夫して設けることで、男性が育児参加しやすくなると思われる。

 今回の育児・介護休業法の改正により、保育所がもっと利用しやすくなり、また育児のために休暇を取得しやすくなれば、男女ともに育児と仕事との両立がしやすい社会に一歩近づくことが期待できる。こうした社会の実現に向け、今後、企業が独自に育児のための休暇制度をどのように展開するか注目したい。

主席研究員 的場 康子
(ライフデザイン研究部 まとば やすこ)