築いてきた資産を子どもや孫に遺したい――。これまで大切に守ってきた資産について、こうした思いを持つ方は少なくないでしょう。先祖から受け継いだ土地や建物、美術品。あるいはご自身が懸命に働いて築いてきた資産。このような大切な資産を、大事な家族にできるだけ継承したいと思うのは自然なことです。

しかし、資産を引き継ぐにあたって課題となるのが相続税です。富裕層は資産規模が大きいことが多く、相続税負担も大きいケースが多いですが、そんな富裕層ならではの相続税対策も存在します。相続税の基礎知識や計算方法と合わせて知っておきましょう。

相続財産とは

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(写真=shigemi okano/Shutterstock.com)

相続財産とは、被相続人が亡くなった時点で所有していた財産のことです。預貯金に加え、土地・家屋などの不動産、貴金属、骨とう品、自動車、有価証券、ゴルフ会員権なども該当します。さらに著作権や特許権、損害賠償請求権、賃借権も相続財産となります。同時に被相続人に借金があった場合は、この借金も相続の対象になります。

相続税の最高税率は55%

相続税の税率は最高で55%です。相続税の計算手順は、まず民法に定められた「法定相続分」により遺産が分割されたと仮定して相続税の総額を計算します。そして次に、相続税の総額を実際の相続割合により按分して、各相続人の相続税額を計算します。相続人が税額控除の適用を受けられる場合には、税額控除分を控除します。

相続税は、超過累進税率が適用されます。税率は、法定相続分に応ずる取得金額が1,000万円以下で10%、3,000万円以下で15%(控除額50万円)、5,000万円以下で20%(同200万円)、1億円以下で30%(700万円)、2億円以下で40%(同1,700万円)、3億円以下で45%(同2,700万円)、6億円以下で50%(同4,200万円)、6億円超で55%(同7,200万円)となっています。

不動産の購入、中でもタワーマンションで節税

このように、資産が多いほど税負担が重くなることが分かります。これをふまえて、富裕層の相続税対策として挙げられるのが不動産の購入です。

不動産は、現金よりも相続税の評価額が低いという特徴があります。資産を現金で保有している場合、相続税の評価額はその現金の金額と同じになります。1億円の現金を保有している場合、1億円分すべてが相続税評価額となります。しかし、不動産の場合はその評価額が1億円よりも一般的に低くなります。

不動産の中でも、タワーマンションの購入は特に節税効果が高いとして話題になっています。タワーマンションの保有は一種のステータスとして見られることが多いのですが、節税メリットもある一石二鳥の方法として知られるようになってきました。

タワーマンションはその土地の上に多数の部屋が存在するため、1部屋あたりの土地の所有面積が少なく算出されます。そのため評価額が下がり、相続税が低くなるわけです。同時に物件を賃貸向けに使用することで、さらに評価額が下がります。

ただし相続が発生する数ヵ月前などにタワーマンションの区分物件を購入したり、相続発生後すぐにこれを売ったりする場合、税務署の確認が入ることもあります。

「子どもの教育への投資」と贈与税の関係

相続税対策を検討する中で、富裕層の中には子どもの教育への投資を考える人もいます。教育目的の資金を生前贈与する場合は贈与税がかからないことが、その理由の一つです。

国税庁のホームページでは、贈与税がかからない資金として「夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産」とした上で、「通常必要と認められるもの ここでいう生活費は、その人にとって通常の日常生活に必要な費用をいい、また、教育費とは、学費や教材費、文具費などをいいます」と説明しています。

一方で、「贈与税がかからない財産は、生活費や教育費として必要な都度直接これらに充てるためのものに限られます」とも言及しています。その上で生活費や教育費の名目で贈与を受けた場合であっても、それを預金したり、株式や不動産などの購入資金にしたりしている場合には贈与税が課税されると説明しています。そのため、あくまで教育資金でなければ対象とならないことは覚えておくべきです。

こうした中、富裕層は子どもたちに高い教育を受けさせようと、質の高い教育機関選びに真剣です。子どもを評判の良い私立の学校に通わせるために受験をさせるケースもよくありますし、中には早くから海外留学に目を向けている富裕層もいます。

相続税の仕組みを理解して適切な相続税対策を

お金があることによって生じる相続税という悩み。まずは相続税の仕組みを理解し、相続税対策としてどんな選択肢があるのかを知ることが大切です。子どもの教育をはじめ、家族の未来にとってなにが最良の選択になるのかを冷静に判断したいものです。(岡本一道、金融・経済ジャーナリスト / d.folio