またしても巡り合った偶然の機会
2018年1月に立命館アジア太平洋大学(以下、APU)学長に就任した出口氏。保険業界から教育界へ、という未知の分野への転身に至った経緯もまた、「偶然の機会」だった。
「昨年の夏に行なわれた、わが国の大学では珍しい学長候補者公募に際し、どなたかが推薦してくださったのがきっかけです。それがなければおそらく今も、業務委託契約をしていたライフネット生命の仕事を続けていたことでしょう。『川の流れ』がまた、新たな道を拓いたのです。
ライフネット生命もAPUも『若い組織』という点で共通しています。APUもいわばベンチャー大学です。ベンチャーへの挑戦に、10年前と同じように高揚感を覚えています」
創業から10年、ライフネット生命は売上げ100億円、営業キャッシュフロー40億円の企業に成長した。「ネット生保として基盤ができたこと」と「ちょうど10年はキリが良い節目だから」と、昨年6月に、一切の役職を辞退して取締役を退任。たまたまそのタイミングで舞い込んだ学長推挙の話だった。
「最初は自分が選ばれるとはまったく思っていませんでした。APUは、学生の出身国・地域数がおよそ90、6,000名いる在学生のうち、留学生の割合は半数の3,000名。そんなダイバーシティあふれる“若者の国連”とも言える大学だけあって、学長の公募条件も、ドクター保持者、英語ペラペラなどで、僕が選ばれる確率はゼロだと思っていたんです」
そんな中での学長への抜擢。大学の学長を公募で選ぶというのは、4年制の私立大学では日本初。そして教職員と卒業生からなる学長候補者選考委員会は、10人のうち外国人4名、女性3名という顔ぶれだったという。
「そのチャレンジ精神と日本企業にはあまり見られないダイバーシティにあふれたガバナンスの考え方。そして何よりAPUで学んだ人が自ら行動して世界を変える──多様な価値観を尊重し合う人々が世界で活躍し、自由と平和を世界にもたらさんという『APU2030ビジョン』に惹かれました。
今後は、学長として教員・学生の学びの環境を整えるべく、しっかりした財政基盤を確立していきたい。元気なかぎりやっていこうと思っています」