「コードを書ける」「アイデアを形にできる」といった技術者という顔も持った人物が、「世界を席巻する巨大企業の創業者である」という例は決して少なくありません。日本でも技術者が起業・独立するケースが目立つようになってきています。いま経営者の属性が少しずつ変化しつつある背景には、どういった時代の変化があるのでしょうか。

音声付き自動翻訳機を19歳で発明した孫正義氏

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(写真=Tatiana Frank/Shutterstock.com)

人工知能(AI)やロボティクス、通信インフラ、金融テクノロジーなどIT技術の日進月歩です。2016年10月に設立された投資ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」は10兆円規模の運用額を誇ります。次世代技術・サービスを手掛ける新興テクノロジースタートアップから大手まで、日本を含む世界のさまざまな企業に出資を続け、多くの成功例を生み出しているのです。

ファンド設立から2018年10月で2年。「未来を切り拓く」というキーワードも掲げ、この巨大ファンドを率いているのがソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏です。孫氏は、なぜここまで技術の最先端にコミットし続けることができ、数々の先端事業のスケールアップに成功してきたのでしょうか。

そのヒントが2018年6月20日に語った「電子辞書のアイデアのベースともいえる音声付き自動翻訳機を19歳で初めて発明した」という孫氏の言葉にあらわれています。第38回定時株主総会の場で、孫氏は2,323人の株主の前でこう語りました。経営者、投資家、そしてエンジニアである孫氏。技術に対する目が利くのには、こうした過去の経験が少なからず影響しているのでしょう。

少年時代にプログラミングスキルを身に付けたイーロン・マスク氏

エンジニアとしての顔を持つ経営者は孫氏だけではありません。アメリカの電気自動車(EV)大手テスラ・モーターズを最高経営責任者(CEO)として率いるイーロン・マスク氏もその一人です。少年時代にコンピュータを使ってプログラミングの知識を身に付け、商業ソフトウェアの販売まで行ったマスク氏。

今では自動車の電動化や自動運転化、そしてAI関連企業も設立し、世界の注目を一身に集める21世紀を席巻する起業家・経営者となりました。マスク氏が手掛ける自動運転の分野でも、センサーの開発やAI開発で技術者が起業し、事業を拡大している例は枚挙に暇がありません。

多様化する資金調達方法や支援スキーム

日本でもここ数年、技術を持った人物が経営者となってスタートアップを興す動きが加速しています。こうした潮流の背景には、優れた技術力を持ったエンジニアや、場合によっては先見の明を持った学生が、独立や起業という選択肢を選びやすくなったという時代の変化があります。そして、それは言い換えれば、資金調達方法や支援スキームが多様化したことであるともいえるでしょう。

その多様化を象徴するものの一つが、自治体や大手企業などが取り組む「アクセラレータープログラム」です。新たな事業創出やベンチャーとの連携を深めることを目的として優れたアイデアに資金を拠出し、経営支援も行うなどする中長期スキームのプロジェクトです。

ベンチャーキャピタル(VC)や銀行などの金融機関による投資・融資に加え、こうしたプログラムの存在が、アイデアや技術をベースに事業化をしやすい時代をつくる後押しになったといっても過言ではないでしょう。

「ものづくり大国」日本を継承、昇華していくために

「自らコンピュータに対峙してコードを書ける」「アイデアを形にするスキルを有している」などの「武器」を携えて、手元の資金がなくても起業している人もいます。そして、成功への第一歩を踏み出しやすくなった時代が、まさにこの現代です。ITやAI、自動運転、ロボティクスなど、次世代テクノロジーの開発を加速させている底流には、こうした起業を取り巻くパラダイムシフトがあるといえるのではないでしょうか。

昭和の時代に「ものづくり大国」「技術大国」としての世界における立ち位置を確固たるものにした日本には、すでにさまざまなイノベーションの「種」が数多くあります。新たな時代へ向けて、その種を芽吹かせるのは、日本の誇る技術力に裏打ちされた「未来を信じる力」なのではないでしょうか。(提供:Wealth Lounge


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