創業して間もない企業に資金を提供する個人投資家をエンジェルと呼ぶ。我が国ではそのような投資を行った人に対して税制優遇を行う「エンジェル税制」という制度が設けられている。

エンジェル税制は、ベンチャー企業への投資を促進すべく、平成9年(1997年)の税制改正によって鳴り物入りで始まったが、現在、積極的に活用されているという話はあまり聞かない。それでは実際のところ、エンジェル税制はどのように運用されているのだろうか。また、どのようなメリットが得られるのか。本稿では、エンジェル税制の魅力について迫ってみる。

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(写真=PIXTA)

投資した時点と売却した時点で優遇措置がある

語弊を恐れずに言うと、創業して間もない企業に投資するのはリスクが高い。それでも、ベンチャーへの投資を促進しなければ、日本経済の成長も期待できない。そのため、投資家に対しては十分な優遇策が必要だ。そのような発想のもと、ベンチャー企業投資促進税制(すなわちエンジェル税制)は創設されるに至った。

この税制では投資した時点と売却した時点の両方で優遇措置が受けられるようになっている。まずは、投資した時点での優遇措置を確認してみよう。具体的には、投資時点で次の優遇措置Aと優遇措置Bのいずれかを選択して適用することができる。

・優遇措置A
投資時点での優遇措置の1つ目は、ベンチャー企業への投資額から2,000円を控除した金額が、その年の所得金額から控除できるというものだ。これは、ふるさと納税と同様、寄付金控除の特例という位置づけだ。

ただし、控除できる金額には所得金額の40%か1,000万円のいずれか低い方までという制限がある。また、創業(設立)3年未満で一定の要件を満たしたベンチャー企業への投資のみが対象となる。

・優遇措置B
投資時点での優遇措置の2つ目は、ベンチャー企業への投資額全額を、その年の他の株式譲渡益から控除できるというものだ。つまり、保有していた株式を売却して譲渡益が発生していても、ベンチャー企業に投資すれば、その投資額の分だけ譲渡益を帳消しにできることを意味する。

ただし、創業(設立)10年未満で一定の要件を満たしたベンチャー企業への投資のみが対象となる。なお、優遇措置Bの方には控除対象となる投資額の上限などはない。

売却時点で認められている優遇措置とは?

エンジェル税制では、売却時点にも優遇措置が設けられている。まず、未上場のベンチャー企業の株式を売却することによって損失が生じた場合、その年の他の株式譲渡益と通算できるというものだ。次いで、その年に通算しきれなかった損失は、翌年以降3年にわたって繰り越して通算できる。

ただし、投資時点で優遇措置Aあるいは優遇措置Bを受けていた場合は、その際の控除対象金額を取得価額から差し引いて売却損失を計算する。つまり、その分、売却損失は小さくなるという訳だ。

エンジェル税制が認められる企業の要件が重要

以上のように、エンジェル税制はかなり優遇された内容である。では、なぜ大きく活用されていないのか。それは上述のように創業間もない企業への投資はリスクが高いことと、そして投資しようと考えているベンチャー企業が、実際にエンジェル税制の要件を満たしているのかという2つの問題があるからだ。これは創業者・投資家、双方にとって課題となっているといえよう。

投資先となるベンチャー企業がエンジェル税制の要件に合致しているかどうかは関東経済産業局が作成している「エンジェル税制要件判定シート」などを活用することで判断できる。また、エンジェル税制の対象になることについて、事前確認を受けたベンチャー企業の一覧を中小企業庁のHPで閲覧することも可能だ。

エンジェル税制は導入されて久しい制度であるが、税制改正を経て少しずつ使い勝手の良いものになってきている。特に、すでに他の投資で株式譲渡益が出ている場合、優遇措置Bを活用することで税負担の軽減を図ることは活用に価する。事業経営や投資先の一つとして、ベンチャー企業を通じたエンジェル税制の活用を選択肢の一つとしてみるのはどうだろうか。