シンカー:既に前年度の決算がまとまりつつある中での夏の内閣府の中長期の経済財政に関する試算での財政赤字と、12月の国民経済計算年次推計で判明した結果を比較すれば、財政政策が政府が想定するより緩和的(景気刺激的)であったのか、緊縮的(景気抑制的)であったのか判断できる。試算より赤字が大きければ緩和的、赤字が小さければ緊縮的である。アベノミクスによるデフレ完全脱却への方針が本格的に動き出した2013年度からみてみると、その差(内閣府試算―国民経済年次推計結果)は、2013年度+1.1%、2014年度+1.6%、2015年度+1.4%、2016年度+1.3%であった。毎年GDP比1%程度、財政政策は想定より緊縮的になっていたことが分かる。財政政策があまりにも緊縮的で、デフレ完全脱却の動きは阻害されてしまったと考えられる。2%の物価目標の達成を含め、デフレ完全脱却が遅れているのは、日銀の金融政策ではなく、むしろ緊縮的な財政政策に責任があると言える。
報道される国家予算の一般会計の収支だけでは、特別会計や地方政府が入っておらず、それらの間の資金の動きの影響も見えにくいため、一般政府全体の財政赤字の状況は分からない。
ようやく3月に年度が終わった後の12月に国民経済計算年次推計でまとめられて、一般政府全体の財政収支の赤字がわかることになる。
2017年度の結果は、この12月に公表される。
一方、内閣府の中長期の経済財政に関する試算が毎年夏に改定される。
夏には前年度は終わっており、その決算も税収の状況を含めまとまりつつあるため、前年度の一般政府の財政赤字はかなりの精度で試算できると考えても不思議ではない。
この内閣府の試算と、12月に国民経済計算年次推計で判明した結果を比較すれば、財政政策が政府が想定するより緩和的(景気刺激的)であったのか、緊縮的(景気抑制的)であったのか判断できる。
試算より赤字が大きければ緩和的、赤字が小さければ緊縮的である。
アベノミクスによるデフレ完全脱却への方針が本格的に動き出した2013年度からみてみる。
夏の内閣府の一般政府の財政赤字の推計(GDP比)は現実的な成長前提のベースラインケースで、2013年度-8.3%、2014年度-6.5%、2015年度-4.7%、2016年度-4.7%であった。
一方、12月に国民経済計算年次推計で判明した結果(当初の発表から改定があったとしても財政の決算に大きな変化はないため影響は小さいと判断する)は、2013年度-7.2%、2014年度-4.9%、2015年度-3.3%、2016年度-3.4%であり、財政は明確に改善トレンドにある。
その差(内閣府試算―国民経済年次推計結果)は、2013年度+1.1%、2014年度+1.6%、2015年度+1.4%、2016年度+1.3%であった。
毎年GDP比1%程度、財政政策は想定より緊縮的(景気抑制的)になっていたことが分かる。
特に消費税率引き上げのあった2014年度の緊縮の度合いは、+1.6%(8.6兆円程度)と極めて強かった。
財政政策があまりにも緊縮的で、デフレ完全脱却の動きは阻害されてしまったと考えられる。
2%の物価目標の達成を含め、デフレ完全脱却が遅れているのは、日銀の金融政策ではなく、むしろ緊縮的な財政政策に責任があると言える。
この夏の内閣府の試算では2017年度の一般政府の財政赤字は-4.0%となっている。
国民経済計算年次推計で示される実物取引の裏側にある金融取引でみた財政赤字を、日銀資金循環統計でみると、2017年度の財政赤字は-2.7%となり、2016年度の-3.1%から更に改善していることが既に分かっている。
この夏の内閣府の試算では2017年度の財政赤字は2016年度の-3.4%から拡大(悪化)すると想定されているが、実際には縮小(改善)している可能性が高い。
そうなると、2017年度まで1%程度の想定より緊縮的(景気抑制的)な財政運営がなされていたことになる。
これほど財政政策が緊縮的であればデフレ完全脱却が遅れるのも不思議ではないだろう。
図)夏の内閣府の中長期の経済財政に関する試算での財政赤字と、12月の国民経済計算年次推計で判明した結果
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司