TikTok を手掛けるのは中国ByteDance

TikTok
(画像=PIXTA)

ショート動画配信アプリ「TikTok(ティックトック)」が日本で若者中心に支持を集めている。テレビ、新聞等で多く取り上げられており、実際に使ったことがなくてもご存知の方は多いだろう。日本経済新聞社がまとめた2018年の「日経MJヒット商品番付」では、堂々「西の横綱」に選ばれた。「インスタ映え」という言葉が「2017ユーキャン新語・流行語大賞」に選ばれた写真共有アプリ「インスタグラム」に続く注目の存在となっている。

TikTokを手掛けるのは中国のユニコーン(1)企業、2012年創業のByteDanceである。同社のニュースアプリ、Toutiao (今日頭条)は中国で多くのユーザーを抱えている。同社のプラットフォームは、AIを活用し、利用者それぞれが関心を持ちそうなコンテンツを提供するようになっているそうだ(2)。この11月には、未上場の企業ながら、日本のソフトバンクグループなどの投資家から30億ドル(1ドル112円換算で約3,360億円)という巨額の資金調達を実施したと報じられた(3)。その際につけられた評価額(企業価値)は、750億ドル(約8.4兆円)とも言われ、世界最大級のユニコーンとなった。

もしかしたら、中国企業の製品だと知らずに使っているユーザーも多いかもしれない。日本でTikTokがリリースされたのが2017年の夏である。素直に「面白い」と受け入れられた結果、わずか1年程度で多くの日本の若者の心を鷲づかみにした。ユーザーが1日に何度も起動するアプリになれば、ビジネスの可能性はより広がっていく。メディアとしての広告価値は高まり、メッセージアプリのLINEのように違った領域に横展開していく可能性もあろう。

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(1)一般に、創業10年以内で企業価値が10億ドル以上(1ドル=112円換算で1120億円)の未上場ベンチャー企業を指す。
(2)ByteDance ウェブサイトによる。https://bytedance.com/ai/
(3)Bloomberg”Bytedance Is Said to Secure Funding at Record $75 Billion Value”(2018年10月26日)
https://www.bloomberg.com/news/articles/2018-10-26/bytedance-is-said-to-secure-funding-at-record-75-billion-value

世界では革新的なベンチャーが生まれ、巨額の資金を集めて突き進んでいる

TikTokのヒットからは、(1)中国で世界最大級のユニコーンが生まれている(=破壊的なイノベーションは米国のシリコンバレーだけで起きているわけではない)、(2)2012年に創業した中国IT企業の製品が、日本であっと言う間に身近な存在になりつつある(=海外の若いハイテク企業が、一気に日本の市場を席巻する可能性がある)、という客観的な事実を改めて認識させられる。TikTokは動画配信アプリであったが、同じようなことが人工知能や自動運転技術の分野で起きないとも限らない。

世界中でユニコーンと呼ばれる巨大ベンチャーが生まれている(図表1、2)。評価額(企業価値)が大きいということは、それだけ巨額の資金を集めて事業拡大に投下しているということを意味する。優秀な人材や魅力的な技術をかき集め、研究開発やマーケティングに巨額の資金を投下し、有望な会社を買収する。国や業種の壁を越えて、新たな市場の獲得を目指している。こうしたイノベーション競争の中で、日本は立ち回っていかなくてはならない。

TikTok
(画像=ニッセイ基礎研究所)

こうした世界の潮流や危機意識を踏まえて策定されたのが日本の成長戦略でありベンチャー支援策である。日本のとるべき方策については、政府の有識者会議「第四次産業革命に向けたリスクマネー供給に関する研究会」でも議論されてきた。その「取りまとめ」(4)では、明日のリーディング産業を作るためのリスクマネーが日本に足りない中、産業革新投資機構(JIC)が「日本を代表する投資機関としてグローバルに認知されるものに成長し、日本におけるリスクマネー供給機能の強化に向け、中心的な役割を担うことが期待される。」と言及している。この取りまとめこそ、先日辞任を表明したJICの田中正明社長が「バイブル」と呼んでいたものだ。そのJICは、ベンチャー支援策の一つの柱であったが、取締役9名の辞任を受け、出直しを図ることとなった。

起業家が少ない、リスクマネーが少ないと言われてきた日本だが、少しずつベンチャー・エコシステム(生態系)が育ちつつある。大企業がオープンイノベーションを求めてベンチャーとの連携を増やしている。リスクマネーも米中と圧倒的な差はあるが増えており、日本にも画期的なベンチャーが生まれてきている。ベンチャーが次々と生まれるエコシステムが「テイクオフ」するまで、あと一押し必要だ。世界的なイノベーション競争の中、あと数年で「決着」がついてしまう可能性もある。残された時間が多いわけではない。産官学を挙げた取組みが必要だ。

ベンチャー投資に携わったことのある身として、TikTokのヒット、そしてJICの問題には、改めて深く考えさせられた。これを機に、日本のベンチャー・エコシステムをどう育てていくのか、政府のベンチャー支援策がどうあるべきか、官民ファンドはどうあるべきか等について、前向きな議論が進むことを期待したい。

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(4)経済産業省 「第四次産業革命に向けたリスクマネー供給に関する研究会-取りまとめ」
http://www.meti.go.jp/report/whitepaper/data/20180629001.html

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中村洋介(なかむら ようすけ)
ニッセイ基礎研究所 総合政策研究部 主任研究員・経済研究部兼任

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