丸投げせずに「ノー残業」を実現するには?

生産性
(画像=THE21オンライン)

ソフトバンク社長室長時代、孫社長のもとで数々のプロジェクトを手がけたことで知られる三木雄信氏。独立後は、自身の会社を経営しながら数多くの企業で社外取締役や顧問を務めてきたが、ここ最近、「助け合わない職場」が急増しているという。

チームプレーが売りだった日本企業で、「自分の仕事をいかに早く終わらせるか」ばかりに集中し、同僚や他の部門の仕事をフォローしない社員が増えているのはなぜか──。新刊『孫社長の締め切りをすべて守った 最速!「プロマネ」仕事術』が話題の三木氏に、その原因と対策を解説してもらった。

個人の残業削減努力には限界がある

私は現在の働き方改革に違和感を覚えています。

「より短い時間で、より高い生産性を目指す」という方向性は間違っていません。

問題は、そのやり方です。多くの企業がやっていることは、はっきり言って現場への丸投げです。「生産性を30%アップしろ」「残業を50%削減しろ」などと目標だけ与えて、「実現する方法は自分たちで考えろ」と社員たちに押し付けている。これが現在の働き方改革です。

しかし、個人の努力には限界があります。

いくら個人がパソコンの入力作業を2倍のスピードでできるようになっても、そもそも与えられている業務量がその人のキャパシティの5倍だったら、何の解決にもなりません。

この場合なら、入力作業を担当する人数を増やすとか、業務の一部を外注に出すといった対応をしない限り、個人が限界まで努力しても目標の達成は不可能です。

つまり個人単位ではなく、組織単位でオペレーションを改善するのが、本当の意味での働き方改革であるはずです。

そして、それをやれるのは現場ではなく経営陣です。上の人間が変わらなければ、本当の働き方改革は実現しない。それが私の考えです。

コールセンターの責任者時代の大失敗

私が確信を持ってそう言えるのは、過去に自分自身が同じような過ちをおかした苦い経験があるからです。

ソフトバンク時代にコールセンターの運営を任されていた私は、ある時、孫社長から大幅なコスト削減を命じられました。

コストを下げるには、オペレーターとお客様が会話するトークタイムを短くすることが必須です。そこで1件当たりのトークタイムの平均値を計測すると、8分30秒という数字が出ました。

そこで私は「この時間を短縮すればいいだろう」と安易に考え、現場のマネジャーたちに「トークタイムを1分短縮して、平均7分30秒以内に収めるように」と指示を出したのです。

ところが、これが大失敗でした。

なぜなら、指示を受けたオペレーターたちは目標時間内に話を終わらせようとして、ものすごい早口で話すようになったからです。なかには、7分30秒を超えると電話を切ってしまうオペレーターまで出てきました。

当然、顧客からは「話の途中で切られた」「早口で、何を言っているかわからない」といったクレームが殺到して、全体のコール数はかえって増えてしまいました。

「上の人間が現場の努力だけに頼って問題を解決しようとするとどうなるか」の悪いお手本みたいな話です。

ようやく自分の間違いに気づいた私は、組織全体のオペレーションの改善に着手しました。

個人の努力だけではどうにもならないのだから、この場合の解決策はただ一つ。「オペレーターが長く会話しなくてもいい体制を作ること」です。

まずはマニュアルを見直し、会話を長引かせる要素を排除しました。

それまでは、「住所」「氏名」「年齢」「性別」など多数の項目をいちいち相手に聞いて本人確認をしていたのですが、コンプライアンス部門に確認したところ、そのうちいくつかは不要とわかったので、項目から削除しました。

さらに、お客様のモデムの状況をコールセンターから遠隔で確認できるツールを導入し、質問しなくても相手のモデム状況を把握できるようにしました。

これは、会話が長引きやすいコールの内容を調査した結果、大半を占めていたのが「モデムの状況確認」だと判明したからです。お客様のモデムの状況を確認するには、「点滅しているランプはありますか」「何番目のランプですか」「赤ですか、緑ですか」などと多数の質問をしなくてはいけないため、やりとりに時間がかかっていました。

ツールの導入後はこの会話がすべて不要になり、トークタイムは大幅に短縮されました。

その結果、コールセンターのコストも大きく減らすことができたのです。

私はこの経験から、仕事の生産性を高めるには、マネジメント側の人間が組織全体の業務量やリソース配分などを適正にコントロールすることが不可欠だと痛感しました。