「助け合わない職場」は生産性が低い

“現場に丸投げ”の働き方改革が続いた結果、「助け合わない職場」が急増しています。

多くのビジネスパーソンは、「自分の仕事をいかに早く終わらせるか」という点だけを意識するようになっているのではないでしょうか。悪く言えば「他の人の仕事が遅れていても、それはその人の責任であり、私とは関係のないこと」と思っているのです。

しかし、こうした「助け合わない職場」では、チームの生産性は頭打ちになってしまいます。

どんなに忙しい職場でも、その瞬間にメンバー全員が揃ってキャパシティオーバーになることはほとんどありません。Aさんが自分の時間に対して120%の仕事を抱えていて、Bさんの仕事が80%なら、オーバーしている20%をBさんが引き受ければ、お互いが持ち時間を100%使い切ることができます。

誰かが大変な時は負荷を分散し、全員の稼働率を100%にすれば、メンバーは時間内で仕事が終わる上に、チームの生産性も最大化します。これがチームにとってベストな状態ではないでしょうか。

自社で「ほぼノー残業」を実現できた理由

私の会社が運営する英語学習サポート事業「トライズ」では、毎朝行なう「朝会」(朝の定例会)で、メンバーがその日の自分のスケジュールを発表します。

そして、もし残業になりそうな人がいれば、手が空いている人に仕事を割り振ります。

「今日は午後3時から30分手が空くので、会議のセッティングは私がやっておきます」

「午後4時からのアポがキャンセルになったので、私が代わりにお客様に対応します」

こんなふうにサッと手を上げて、他の人の仕事を引き受けるのがごく当たり前の光景になっています。

また朝会は、個人で解決できないことがあれば、全員で知恵を出し合って解決する場にもなっています。

「お客様からこんな相談があったのですが、どう対応すべきか迷っています」

誰かがそんな課題を報告すると、他の誰かが「それなら過去に似た事例があるので、こう答えるといいですよ」とすぐに教えてくれるので、一人で考え込んで余計な時間を使わずに済みます。

このように、チーム全員の時間と知恵を平準化し、できるかぎり100%使い切ることで、チーム全体の仕事を効率よく進めることができるのです。

おかげで私の会社では、ほぼ「残業ゼロ」を実現しました。

昨年度のトライズの各センターの残業時間は平均で月に4.08時間。月の稼働日が20日として、1日に12分ほど残業することもあるという程度で、実質的にはほぼノー残業です。

繰り返しになりますが、本当の働き方改革とは、個人の努力に依存するのではなく、こうして仕事の仕組みやリソースの配分を変えることで解決すべき問題なのです。

「プロマネ」仕事術で組織を変えよう

とはいえ、「うちの会社の経営陣は何もしてくれない」と愚痴を言っても仕方ありません。

この状況を変えるには、誰かが組織を動かすしかないのです。

その役割に適任なのが、ミドル世代です。

中間管理職層は、経営者からも現場の末端からもリアルな情報を得られる立場にいます。

現場の声を経営に反映させるつなぎ役となり、組織全体のオペレーションを改善できる力を持っているポジションなのです。

「そう言われても、目の前に積み上がった仕事をこなすだけで精一杯で、組織を変えるなんて余力はない」と思う人も多いかもしれません。

私自身もまさにミドル世代であり、ソフトバンク時代は孫社長と現場のプロジェクト・メンバーとの間で苦労した経験があるので、その気持ちはよくわかります。

しかし、上から無理な目標達成を押し付けられた結果、最も大きな負担を強いられて心身をすり減らしているのはミドル世代のはずです。だからこそ、自分自身が働きやすい環境を作り、仲間たちと一緒にやりがいを持って仕事ができるようにするためにも、組織を変えるという意識を持ってもらいたいのです。

組織を変えると言っても、いきなり大きな改革をしろと言っているのではありません。

上司やクライアントとのコミュニケーションを工夫することで鶴の一声を防いだり、了承待ちの時間や作業の二度手間が発生しないよう段取りを工夫したりと、できることはたくさんあります。そのためのノウハウを、拙著『孫社長の締め切りをすべて守った 最速!「プロマネ」仕事術』で紹介していますので、よろしければお読みください。

三木雄信(みき・たけのぶ)トライオン〔株〕代表取締役社長
1972年、福岡県生まれ。東京大学経済学部卒業。三菱地所㈱を経て、ソフトバンク㈱に入社。27歳で同社社長室長に就任。孫正義氏の下で「Yahoo!BB事業」など担当する。 英会話は大の苦手だったが、ソフトバンク入社後に猛勉強。仕事に必要な英語だけを集中的に学習する独自のやり方で「通訳なしで交渉ができるレベル」の英語をわずか1年でマスター。2006年にはジャパン・フラッグシップ・プロジェクト㈱を設立し、同社代表取締役社長に就任。同年、子会社のトライオン㈱を設立し、2013年に英会話スクール事業に進出。2015年にはコーチング英会話『TORAIZ(トライズ)』を開始し、日本の英語教育を抜本的に変えていくことを目指している。2017年1月には、『海外経験ゼロでも仕事が忙しくでも 英語は1年でマスターできる』(PHPビジネス新書)を上梓。近著に『孫社長にたたきこまれた すごい「数値化」仕事術』(PHP研究所)がある。(『THE21オンライン』2018年9月号より)

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