12月3日の東京株式市場では、前日に行われた米中首脳会談で、米国が年明けに予定していた中国への追加関税を90日間猶予することで合意したことが好感され、日経平均は2万2574円の高値を付けた。一方、同日の米国債券市場では2年物国債利回りが5年物を11年半ぶりに逆転し、指標として注目される10年物国債と2年物国債の利回り差も2007年6月以来の低水準となった。
2000年代以降では2000年前半と2005年末以降に長短金利の逆転(逆イールド)が生じ、どちらの場合もその後、IT バブルの崩壊やリーマン・ショックなどによって米景気は後退に陥ったことから、4日の東京市場では米国の景気後退懸念が強まり、日経平均が538円安と急反落した。その後、米国の要請を受けてカナダ当局が中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の副会長を逮捕したことや、米国のナバロ大統領補佐官やライトハイザー米通商代表部(USTR)代表が、米中貿易協議が期限内に合意出来なかった場合は追加関税に踏み切る考えを示したことなども株安要因となった。
さらに、19日に新規上場したソフトバンク <9434> が公募価格割れしたことに加えて、同日の米国市場でFOMC(米連邦公開市場委員会)の結果を受けてNYダウが3月下旬につけた年初来安値を下回ったことも嫌気されると、翌20日の日経平均は595円安と急落して2万392円の安値を付け、3月下旬に付けた年初来安値を下回った。
日経平均は短期的に戻りを試す可能性も
東京証券取引所と大阪取引所が発表した12月第2週(12月10~14日)の投資部門別株式売買状況によると、海外投資家は日本株を現物・先物合計で2週連続で売り越した。この結果、年初来の累計売越額は現物が約5兆3600億円、先物が約7兆1700億円、現物・先物合計では約12兆5300億円と過去10年で最大となっている。
日銀のETF(上場投資信託)買い入れが11日に初めて年間6兆円に達したことから、海外投資家の現物売りは日銀のETF買いによって吸収されているが、海外投資家の先物売りが日本株の下落要因になっているといえる。
一方、海外投資家の先物売買と連動する裁定買い残株数は18日に2016年9月以来の低水準となり、20日には日経平均の今期予想PER(日本経済新聞朝刊掲載値)が11.45倍とアベノミクス相場がスタートした2012年11月以降で最も低くなった。日本株は需給面や割安感からみて売られ過ぎと考えられ、日経平均は短期的に戻りを試す可能性もあろう。
年末年始にかけては原油、英国のEU離脱問題、米中貿易協議に注意
OPEC(石油輸出国機構)とOPEC非加盟の主要産油国は12月7日、2019年1月から日量120万バレル減産することで合意した。しかし、今回の減産合意は国別の減産割り当てを明示していないことから、減産が合意通りには実行されないとの懸念が残った。その後、世界景気の減速による石油需要の減退懸念に加えて、米国とロシアの堅調な原油生産見通しが広がると、20日のNY原油先物価格は一時1バレル45.67ドルと2017年8月以来の安値を付けた。
2015年12月のOPEC総会では減産が見送られた結果、2016年2月にかけて原油安が続き、オイルマネーによる株売りによって世界的に株安が進んだこともあり、今回も原油価格の動向には注意が必要だ。
一方、英国のメイ首相は17日の議会演説で、英国のEU(欧州連合)離脱案の採決を2019年1月14日の週に行う意向を表明したが、承認されるメドは立っていない。その結果、英議会ではEU離脱計画を見直してEU残留を目指す勢力が広がっており、EU残留派は2回目の国民投票の可能性も視野に入れているという。
また、ムニューシン米財務長官は18日、中国との貿易協議を2019年1月に開く方向で調整していると明らかにした。年末から年初にかけての株式市場は原油価格の動向に加えて、英国のEU離脱問題や米中貿易協議の動向に一喜一憂する可能性もあろう。
来年のポイントは「米国の景気減速vs日本の企業業績」
FRBが12月19日のFOMCで追加利上げを決める一方、2019年の想定利上げペースを従来の3回から2回に引き下げ、2020年までに利上げを停止する考えも示唆した背景は米国の景気減速がある。
リーマン・ショック以降、米国景気拡大の原動力は雇用と個人消費の好循環だったと考えられる。しかし、2009年10月に10.0%まで上昇した米国の失業率は2018年11月に3.7%と1969年以来およそ半世紀ぶりという歴史的な低水準となり、2019年にかけて下げ止まる可能性がある。失業率の下げ止まりは雇用及び個人消費の減速を通じて米国の景気減速要因となろう。
一方、大和証券エクイティ調査部の集計によると、金融を除く主要上場企業200社の経常利益は1ドル=110円、1ユーロ=130円を前提に、2018年度が9.8増、2019年度も7.9%増と増益見通しとなっている。その結果、2019年度の日経平均のEPS(1株利益)は1948円と予想され、PER(株価収益率)が13倍台半ばまで上昇すれば日経平均は2万6000円を超えると試算している。米国の景気が減速しても日本の企業業績が堅調なら、2019年の株高も不可能ではないといえる。
野間口毅(のまぐち・つよし)
1988年東京大学大学院工学系研究科修了後、大和証券に入社。アナリスト業務を5年間経験した後、株式ストラテジストに転向。大和総研などを経て現在は大和証券投資情報部に所属。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定証券アナリスト。