(本記事は、大村大次郎氏の著書『知ってはいけない 金持ち 悪の法則』悟空出版、2018年12月7日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

富裕層にだけ大減税が繰り返されている

(画像=GaudiLab/Shutterstock.com)

金持ちがやっていることは、国税を丸め込んで税金を負けさせるだけではない。税金制度そのものを、自分たちに有利なものに直させているのだ。わかりやすく言えば、金持ちの税金だけが安くなるように、政治家に働きかけているのである。

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ほとんどの日本国民が知らない間に、高額所得者の税金はこの30年間で大幅に下げられてきた。信じがたい話かもしれないが、ピーク時に比べて40%も減税されてきたのである。

バブル崩壊後の日本は景気が低迷し、それに少子高齢化も進んだため、我々は消費税の増税や社会保険料の負担増に苦しんできた。「だったら当然、富裕層の税金も上がっているんだろう」と思っている人が多いだろう。

しかし、そうではないのだ。実は富裕層の税金は、ずっと下がりっぱなしなのである。その減税の内容を説明しよう。

所得が1億円の場合の税率
1980年 所得税75% 住民税13% 合計88%
2015年 所得税45% 住民税10% 合計55%

このように所得が1億円の人の場合、1980年では所得税率は75%だった。しかし86年には70%に、87年には60%、89年には50%、そして現在は45%にまで下げられたのである。そればかりではない。住民税の税率も、ピーク時には18%だったが、いまでは10%となっている。

このため、最高額で26.7兆円もあった所得税の税収は、2009年には12.6兆円にまで激減している。国は、税源不足を喧伝して消費税の増税などを計画しているが、そのいっぽうで、富裕層の税金は半減させているのだ。

なぜなら、富裕層による政治への働きかけが大きくモノを言っているからだ。金持ちは圧力団体を使って、政治献金をちらつかせることで、税制を自分たちに有利なように導いてきたのである。

日本の金持ちは欧米の半分も払っていない

こう反論をする人もなかにはいるだろう。

「日本の金持ちの税金は元が高いのだから、減税されてもいいはずだ──」

たしかに日本の富裕層が払っている税金の「名目上の税率」は、他の欧米諸国に比べて高い。

しかし、そこにはさまざまな抜け穴があって、実質的な負担税率は驚くほど低くなっている。

むしろ、日本の富裕層は「先進国で最も税金を払っていない」と言えるのだ。

先進国では個人所得税の大半を高額所得者が負担している。

国民全体の所得税負担率が低いということは、すなわち「高額所得者の負担率が低い」ということに等しい。

つまり、日本の富裕層は、先進国の富裕層に比べて断トツで税負担率が低いということなのである。

日本の富裕層は、名目の税率は高くなってはいるけれど、実際に負担している額は非常に低い。それはなぜか。日本の税制では、富裕層に関してさまざまな抜け穴があるからだ。

開業医が税金の上で非常に優遇されていることはすでに述べたが、開業医以外の富裕層にも、ちゃっかり抜け穴が用意されているのである。

投資家の納税額はサラリーマンの平均以下

富裕層が潜り抜ける税金の抜け穴で、最も目につくのが「配当金」である。

株をたくさん保有している金持ちは、多額の配当金を得ている。しかし、この配当金に課せられる税金も実は非常に安いのである。

普通、国民の税金は所得に比例して税率が上がるようになっている。これは「累進課税」と呼ばれるシステムだ。

たとえば、サラリーマンや個人事業などの収入があった場合、所得の合計額が195万円以下ならば所得税と住民税合わせて税率は15%で済むが、1800万円以上あった場合は50%となる。

収入が多い人ほど、税負担が大きくなる仕組みである。

しかし、株主への配当金だけは、その累進課税から除外されているのだ。

つまり、配当の場合は、どれだけ金額が高くても一定の税率で済むのだ。数十万円の収入しかない人も、数十億円の稼ぎがある人も同じ税率で済むのだ。

しかも、その税率は著しく低い。

実は、株の配当や売買による収入について、所得税はわずか15.315%(復興特別税含む)しかかからない。何億、何十億の配当をもらっていても、たったそれだけである。

これは、平均的な年収のサラリーマンに対する税率と変わらない。

上場企業の株を3%以上保有する大口株主の場合は、20.42%となるが、上場企業の株を個人で3%以上持っているというケースはあまりない。そうならないように、一族で株の保有を分散するからである。

また、たとえ3%以上持っていたとしても、わずか20%程度の所得税で済むのだ。

しかも、住民税は5%しかかからない。

上場企業の株を3%以上保有する大口株主の場合は、普通の人と同じように10%となるが、それ以外の株主、投資家は5%で済むのだ。

住民税は、通常は一律10%かかる。サラリーマン1年生でも10%の住民税を払っているのだ。

にもかかわらず、投資家だけが半額の5%とは……税制面でも、金持ちは優遇制度の恩恵を受けまくっているのだ。

世界の非常識がまかり通る日本

日本がここへきて格差社会になったのは、この投資家優遇が大きな要因だと言える。

考えてみてほしい。毎日、額に汗して働いているサラリーマンの平均税率が15%程度であるいっぽう、株を持っているだけで何千万円、何億円も収入がある人の税率も、同じく15%なのだ。

しかも、住民税に至っては、サラリーマンが一律10%なのに対し、配当所得者は半額の5%なのである。

これで格差社会ができないはずはない。

こんなに投資家を優遇している国は、先進国では日本だけである。

イギリス、アメリカ、フランス、ドイツなどを見ても、配当所得は金額によって税率が上がる仕組みになっており、日本の数倍の高さである。

アメリカは、現在のところ時限的な優遇措置をとっているので、最高税率が14%となっているが、本来は50%の税率が課せられている。またアメリカでは、住民税が資産に応じて課されるため、必然的に大口投資家のような資産家は多額の税金を払わなければならない。

住民税が5%で済むということはないのだ。

まさに、日本は世界の非常識がまかり通る「金持ちに優しい国」なのである。

大村大次郎(Ohmura Ohjirou)
大阪府出身。国税局で10年間、主に法人税担当調査官として勤務し、退職後、経営コンサルタント、フリーライターとなる。執筆、ラジオ出演、テレビ番組の監修など幅広く活躍中。『税金を払わずに生きてゆく逃税術』(悟空出版)、『あらゆる領収書は経費で落とせる』(中公新書クラレ)など著書多数。また、経済史の研究家でもあり、別のペンネームで30冊を超える著作を発表している。

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