(本記事は、大村大次郎氏の著書『知ってはいけない 金持ち 悪の法則』悟空出版、2018年12月7日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

なぜ農家に金持ちが多いのか?

知ってはいけない 金持ち 悪の法則
(画像=kazuhiro/Shutterstock.com)

「地主のほとんどが元農家」と言われても、ピンとこない人も多いはずだ。

農家の持っている土地(農地)は「農村にある」というイメージが根強くあり、都会の目抜き通りや駅前の一等地を農家が持っている、などということが信じられない人もけっこういるようだ。

実を言うと、これには戦後日本経済の急激な発展が関係しているのだ。

なぜなら、終戦直後の日本は国全体が「農村」だったからである。

当時の日本は、就労人口の約半数が農業従事者だった。

「都市」は国土のほんの一部だったのだ。東京でも、都市化されていた部分はわずかであり、大半は農地だった。渋谷あたりにも田園がたくさん残っていたのである。

しかし、戦後になると日本は工業国として急速に発展した。農村だった場所は開発され、瞬く間に都市化されていった。そして、その土地のほとんどを所有していたのが農家である。

もちろん、土地の値段は急激に上昇した。戦後の農地解放で、ただのような価格で土地を手にした農家もたくさんいた。

彼らはまさにボロ儲けをしたことになる。

そのような、おいしい立場にいた農家のなかには、農地を手放した(売却した)家もあったが、売らずに土地を賃貸する人たちも大勢いた。そういう「土地持ち」たちが、現在「地主」となって不動産経営にいそしんでいるのだ。

地主だけが得をする金儲けスキーム

いくら広い農地を所有している農家でも、本来はそれをそのまま不動産経営に使用することはできない。農地は、農地法などで厳しい制約が課せられているからだ。

農地は、相続税や固定資産税が格安になる代わりに、農業以外での使用が厳禁されている。農地は、農業という国民の生活を支える産業の基盤なのだから、いろいろと制約を受けるのは当然と言える。

したがって、本来ならば、元農家が大地主になって不動産経営を行うということはありえない話なのだ。

しかし、実は農地の税金には抜け穴が多々あり、相続税を払わずに継承しながら、それを宅地にする方法がいくつもあるのだ。

農家の場合、農地を自分の親族に相続させる場合は、「相続税猶予」という特典がある。

つまり、後継者が農地を相続し、引き続き農業をする場合は、相続税がいったん免除されるのだ。そして、納税を猶予された後継者が20年以上農業を続けた場合、猶予された相続税は完全免除となる。

この制度を逆に取れば、

「農地を相続して、とりあえず20年間農業を続ければ、相続税はゼロになる」
「そのあとは、農地をどうしようが自由」

ということである。

そのため、農地を相続した後、20年間は形ばかりの農業をする者が非常に多い。とりあえず、樹木などを植えて、農業をしているという形態をつくっておくのだ。

農地は、相続税だけではなく、固定資産税も優遇されている。100平方メートルでも固定資産税が数千円で済むのだ。

都心部では、宅地の数十分の一、数百分の一となる。だから農業収入を得られなくても、保持し続けられたのだ。

そして20年経ったのちに宅地化し、不動産経営に乗り出すというわけだ。

農地の相続税制度には、さらなる抜け穴がある。

原則として、「相続税を免除してもらうためには農業を20年間続けなくてはならない」のだが、「後継者の家を新築する」などの理由をつければ、農地を宅地にすることもできるのだ。そして、いったん宅地にすれば、もう「農地」という縛りはなくなる。

後継者の家を建てるなどと称して宅地にした後は、そこに本来の目的からはずれたアパートを建てたりしても罰則に引っかかるわけではない。

日本の富裕層を構成する最大グループのひとつ、「地主」のほとんどは、こういうタイプだ。この手の地主が、日本全国の「主要な土地」をガッチリ掴んでいるのだ。

都心部の目抜き通りなどは、さすがに大企業などで占められているが、都心部周辺の駅前などには、地元の地主が経営している大型マンションが多々ある。

駐車場やビルに「田中第三駐車場」「山田第一ビル」などと同じ名称がついた複数の物件があるのを見かけたことがあるだろう。それは大方の場合、地元の地主(元農家)が経営している不動産屋の所有である。

相続税を逃れる「偽装農家」のおいしい手口

本当に農業をしていて、農地を相続している人たちは、まだマシなほうである。実際には、農業をしていないのに、農業をしているフリをして、相続税の猶予だけを受けている「偽装農家」も多々見受けられる。

本当は農業をしているわけではないのに、形ばかり果樹などを植えて、いちおう農業を続けているという体を取り、「ここは農地である」ということにするのだ。

そういう状態を20年続ければ、もう相続税は払わなくていい。そして、その後は「農業を継続する」という縛りもなくなる。

その農地を宅地にして、マンションやアパートを建てるなどということも、普通にできるのだ。このような「偽装農家」の手口は、高度成長期からバブル期にかけて、都心部のそこらじゅうに見られた。そのため、現在も都心部の近郊には広大な農地があちらこちらに存在している。

たとえば、都心まで30~40分で行ける土地などは、都会のサラリーマンにとっては垂涎の場所と言えるはずだ。

そういう場所で、ほとんど収益の出ないような農作物を形ばかりつくっている偽装農家は山ほどある。そんなことを20年も続けていれば、自分たちの都合のいいときに宅地にして、不動産収入で安泰に暮らせるのである。

もちろん、都心近郊の農家でも一所懸命農業に取り組んでいる方々だっている。とはいえ、その農地の面積を見れば、やはり異常な広さだと言わざるをえない。

たとえば千葉と埼玉は、耕地面積から言えば、まるで「農業県」なのである。

千葉は県面積の24.6%、埼玉は20.1%が農地なのだ。山形、秋田、岩手など農業地域とされている県の約2倍の割合である。千葉、埼玉の農業面積率は、全国的に見ても高い。

千葉は茨城に次いで全国2位、埼玉は佐賀の次で全国4位なのだ。

千葉や埼玉でも、都心部から遠いところの農地もたくさんあるので、そういうところについては理解できるが、都心から30~40分程度で行ける場所にも、農地がかなり見られるのは異常である。そして、こういう農地は、突然、宅地化されマンションなどになることが非常に多いのだ。

税金の抜け穴を巧妙に利用する

このような大地主が、富裕層であり続ける大きな要因のひとつが税金である。

「地主」がいかに税制面で得しているかを紹介しよう。

不動産に関する税金というと、その最大のものは固定資産税である。固定資産税は、土地や建物を所有している人にかかる税金であり、いわば「富裕層にかかる税金」とも言えるものだ。

しかし、あまり知られていないが、土地に対する税金「固定資産税」は、実は大規模な不動産経営をしている大地主には常に有利になっているのだ。

固定資産税は、本来は土地や建物の評価額に対して、1.4%かかることになっている。しかし、住宅用の狭い土地(200平方メートル以下)に関しては、「固定資産税はその6分の1でいい」という規定があるのだ。

それは、「住宅地の税金が高くなってしまうと、庶民の生活費を圧迫する」という理由が建前としてあるからだ。

しかし、この「6分の1」の規定は、自分が住むために家を持っている人だけではなく、大規模な不動産経営をしている人にも適用されるのだ。

たとえば、巨大マンションを棟ごと持っている人などにも適用されている。そして、「6分の1の規定」は建物全体の広さではなく、一戸あたりの住宅面積が200平方メートル以下であればいい、ということになっている。

ということは、巨大マンションであっても、1部屋あたりの土地面積が200平方メートル以下ならば、全部の部屋に適用される。この「6分の1の規定」は持ち家だけではなく、貸家、貸マンション、貸アパートにも適用されているのだ。

だから、時価総額100億円を超える巨大なマンションを持っている人も、狭い中古住宅を購入した人も、土地の固定資産税は同じ税率になっているのである。

なぜ貸マンションなどにも「6分の1の規定」が適用されているのか──それは、表向きは「貸家の固定資産税が高くなると、家賃に上乗せされてしまうから」ということになっている。

しかし、実際は大地主を優遇しているだけなのである。

知ってはいけない 金持ち 悪の法則
大村大次郎(Ohmura Ohjirou)
大阪府出身。国税局で10年間、主に法人税担当調査官として勤務し、退職後、経営コンサルタント、フリーライターとなる。執筆、ラジオ出演、テレビ番組の監修など幅広く活躍中。『税金を払わずに生きてゆく逃税術』(悟空出版)、『あらゆる領収書は経費で落とせる』(中公新書クラレ)など著書多数。また、経済史の研究家でもあり、別のペンネームで30冊を超える著作を発表している。

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