(本記事は、大村大次郎氏の著書『知ってはいけない 金持ち 悪の法則』悟空出版、2018年12月7日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
ワーキングプアが増殖する世界一の金持ち国
現在の日本において、普通の人が金持ちになることは非常に難しい。
株などの投資で儲けるのは至難の技だし、不動産経営や起業で資産を形成するにはよほど能力がないと無理である。いまの日本では、「金持ちの家に生まれなければ、金持ちになれない」という法則が固まりつつある。
では、普通の人が金持ちになれる方法はまったくないのか?
いや、実はあるのだ。
というより、数値的に見れば、いまの日本人は簡単に金持ちになれる。
日本は、実は世界一の金持ち国なのである。
日本の個人金融資産残高は現在1800兆円である。一人あたりの金融資産は1000万円を大きく超え、アメリカに次いで世界第2位である。
しかも、これは金融資産だけの話であり、これに土地建物などの資産を加えれば、その額は莫大なものとなる。
また日本は、対外準備高も全ヨーロッパの2倍もあり、国民一人あたりにすると断トツの1位である。対外純資産は、約3兆ドルで世界一だ。また、日本は世界一の債権国でもある。
つまり「日本人は世界一の金持ち」と言っていい。
だから、平均的な収入、資産がありさえすれば、本当は十分に金持ちになれるのだ。
個人金融資産が平均で1400万円以上、4人家族なら一家で6000万円近くの金融資産を持っている日本人は皆、理屈から言えば「半ミリオネア状態」である。
しかし、ほとんどの人はそんな実感を抱いておらず、実際にそういう状態でもないはずだ。と言うより、日本人の大半は金持ちどころか、かなり貧しい国の国民と同様の生活をしている。
平均的な収入のある人でも、子供二人を育てるのは大変である。平均以上の収入があるのに、子供二人を育てられない国というのは世界でもあまりない。
また日本では、毎日きちんと仕事をしているのに、住む場所さえままならない「ワーキングプア」と呼ばれる人たちが大勢いる。さらに極めつけは、日本では毎年2万人もの自殺者がいる。
これは世界最悪のレベルである。しかも、その多くは経済的な要因だとされているのだ。
世界一の金持ちなのに、国民のなかにはワーキングプアや経済的理由による自殺者が相当たくさんいる。これはいったい、なぜなのか?
給料が欧米並みになればよい
その答えは、実は明白である。日本のサラリーマンの給料が下がっているからだ。
日本人の平均給与は、この20年間で20ポイントも下がっている。前述したように、財界はバブル崩壊以降、労働者の雇用をおろそかにし、賃金を上げない方針をとってきたからだ。
この20年のうちには、「いざなみ景気」という戦後最長などと喧伝された好景気の時期もあった。にもかかわらず、サラリーマンの給料は上がるどころか下がっていたのだ。
そして先進国のなかで、この20年間で給与が下がっているのは、先進国ではほぼ日本だけなのである。どの先進国も「リーマンショック」を経験し、同じように不景気を経てきたのに、である。
OECDの統計によると、ほぼすべての先進国において、給料は上がっている。EUやアメリカでは、20年前に比べて平均収入が30ポイント以上も上がっている。
日本だけが20ポイントも下がっているのだ。数値的に欧米と比べれば、なんと50ポイントも給料が低いのである。
いっぽう、この間に、企業は内部留保金(貯金)を増やし続け、株主の配当は4倍にも激増させている。
逆に言えば、日本のサラリーマンは、すぐにでも金持ちになれるということでもある。
いまより、給料が50ポイント上がれば、ほとんどのサラリーマンはかなり豊かな、金持ちの気分を味わえるはずだ。
しかも、それはけっして無理な話ではないのだ。日本の企業が他の先進国並みの給与水準にすれば、すぐに達成できるからだ。
そして、日本の企業は、そういう資金的な体力は十二分に持っているのだ。
サラリーマンは無力だと諦めるのは早い
それにしても、なぜ日本人の給料は下がり続けたのか?
これは、経団連や政治の責任でもある。それなのに、サラリーマンたちは何ひとつ文句を言ってこなかった。それはそれで自己責任という面がある。
サラリーマンは、日本社会のなかで圧倒的多数を占めている。「これだけ好景気が続いているんだから給料を上げろ」と強く主張すれば、通らないはずはなかったのだ。
なぜ主張できなかったかと言えば、現在のサラリーマンはまったく団結していないからである。
サラリーマンは圧倒的多数ではあるが、一人ひとりの立場は非常に弱い。会社に雇われている立場なので、どうしてもそうなってしまう。
この問題は、実は昔から指摘されてきたことである。
しかし、団結すればサラリーマンは相当な権力を手にすることができるはずだ。
「サラリーマンが団結するなんて無理」
「そういうのは面倒くさい」
と思う人も多いだろう。
「この著者は、左翼の回し者か」と疑う人もいるかもしれない。
しかし、冷静に考えて欲しい。
これまで、「金持ちは徒党を組むことで自分たちの利権を守ってきた」ことをいくつもの例を示して紹介してきた。逆に言えば、金持ちは徒党を組むことができたから、利権を維持しえたのである。
大きな力を持っているはずの金持ちでさえ、徒党を組まないとやっていけないのだ。金の力を持っていない普通の人々が徒党を組まなければ、武器を持たずに戦うのと同様である。
徒党を組むことができないのならば、この厳しい経済社会を一人で戦い生きてゆくことになり、必然的に負けてしまうのだ。それは火を見るより明らかである。
金持ちは「徒党を組む」という努力をしている。普通の人が、その努力をしなければ、絶対に金持ちに勝つことはできないのである。
金持ちに対抗して徒党を組むべし
サラリーマンには、そもそも「徒党を組める環境」が整っている。法律で「団結権」というものが与えられているからだ。
団結権とはつまり「団結して労働組合をつくって、会社と交渉する権利」である。これがあれば、サラリーマンはけっこう強く主張することができる。
しかし最近、労働組合はあまり機能していない。組合への参加率が非常に低いので、あまり発言権がないのだ。
参加率が低いのは、いろいろ理由があると思われるが、その第一に、労働組合が現実離れした政治闘争ばかりやっていて、肝心のサラリーマンの待遇改善などを疎かにしてきたという側面がある。
労働組合のバックには、左翼系の政治団体がつき、これがかなり官僚主義的だった(共産主義とは、煎じ詰めれば巨大な官僚主義だった)。
そんな組織に加わろうとするサラリーマンがだんだん減っていくのは、自然な流れだったと言える。
はっきり言って、これまでの労働組合はまったく魅力的ではなかったし、そこを経営側につけこまれて切り崩され、組織率が低下していったわけだ。
でも、これからの経済社会、やはりサラリーマンは団結するべきだと筆者は考える。富裕層や企業はどんどん自己保身に走っているのに、サラリーマンだけが丸腰で、しかも一人ずつ戦うのは不利というものだ。
だから今後は、新しい時代にマッチした、新世代型の労働組合、言うなれば「スマート・ユニオン」をつくるべきだ。
あなたがこれまで抱いていた「労働組合」の概念は、ここでいったんリセットしていただきたい。