(本記事は、(本記事は、長谷川和廣氏の著書『利益を出すリーダーが必ずやっていること』かんき出版、2018年10月9日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

判断は正確に、決断はスピード主義で

利益を出すリーダーが必ずやっていること
(画像=oneinchpunch/Shutterstock.com)

赤字額が20億円ほどある会社の再生をお手伝いしたとき、経営幹部の多くが「ジャッジメント(判断)」と「デシジョン(決断)」の違いを意識していないことに驚きました。

「ジャッジメント」とは、複数の選択肢のなかから最良な方法を論理的に導き出す行為です。

たとえば、製品のパッケージを決めるとき、デザインAの支持率が60%、デザインBの支持率が30%なら、デザインAのほうが受け入れられるという仮説を導き出す、といったことです。

「デシジョン」とは、検討結果をもとにして、物事の優劣・良し悪しが、どちらにあるのかを選択する行為を意味します。

先の例で言えば、もし調査の結果、AとBの支持率が同じだったら、優劣を断定できません。この際、どちらを選択するかを決めるのがデシジョンです。

ジャッジメントにおいて求められるのは正確さであり、そのためには情報収集や検討に時間がかかる場合もあるでしょう。

一方、デシジョンに求められるのはスピードです。時間をかけても判断以上に正解に近づくことはないのだから、あとは決めるだけ。

迷うのは時間の無駄なのです。

ところが、この赤字額が20億円ほどもある会社のリーダーたちは、まったく逆のことをしていました。

ろくに情報収集もしないで憶測で判断を下して、いざ最終的な決断を迫ると、「もう少し検討させてください」と言って逃げてしまう。

その会社が長い間、赤字にあえいでいたのも納得です。

ビジネスに求められるのは、的確なジャッジメントと迅速なデシジョンです。

とくに現場のリーダーがこの2つを混同していると、指示を待っている実働部隊の社員たちは大迷惑です。

決断が遅いから対応が後手に回り、しかも判断が不正確なので失敗もクレームも多くなります。

リーダーシップを発揮してキヤノンの改革を成し遂げた御手洗冨士夫名誉会長は私の尊敬する経営者の1人ですが、「熟慮断行(為すべきことをよく考えたうえで思いきって事を行うこと)」を座右の銘にしているといいます。

御手洗氏の父親は外科医で、手術の前に徹底的な検査で患部を調べて、いざメスを握ると迅速に処置をすることを心がけていたとか。

御手洗氏は、その教えをビジネスに活かして成功を収めたのでしょう。

問題を深く分析することもなく、それでいて決断をだらだらと先送りするような人は、部下にとって最悪の上司です。

もし自分にその傾向があるようなら、いますぐ、意識を改めるべきです。

不正に精通したうえで、“きれいごと”を貫く

利益をあげるために、困難だが社会的に正しい手段と、簡単だが倫理に反する手段があったとします。

このとき現場のリーダーがどういった対応を取るかで、組織の命運は大きく左右されます。

好んで不正を働くリーダーが最も危険であるのは当然ですが、意外に気をつけたいのは、いわゆる清濁併せ呑むタイプのリーダーです。

このタイプは、一方できちんとした企業活動を行っているのに、利益のためには仕方がないと割りきって、反倫理的な行為にも手を染めてしまいます。

なまじ罪の意識はあるだけに、バレないように隠れて不正を行いますが、発覚したときは後の祭り。正しかった企業活動のほうも影響を受けて、会社を傾かせてしまいます。

では、清濁の「濁」さえ飲まなければいいのかというと、そう単純な話ではありません。なぜなら本人は正しい手段でビジネスをしていても、相手の不正によって被害を受ける場合があるからです。

たとえば、

・取引先を信じて商品を卸したのに、じつは相手方の計画倒産で、代金をもらう前に逃げられてしまった。
・長年つき合いのあった仕入れ先から、とんでもない不良品をつかまされて、それを販売した自社のほうの信用にまで傷がついた。

といったケースは、けっして珍しくありません。

そう考えると、最も頼れるのは、清濁をよく知ったうえで正しい手段を的確に選べるリーダーでしょう。

ビジネスは“きれいごと”だけではすみません。それをよく理解したうえで対策を打ち、なおかつ自分はきれいごとに徹して、堂々と明るい道を歩く。

リスクを避けるには、それが最も有効です。

前任者を乗り越えてこそ本物のリーダー

ある中堅メーカーの課長から、こんな相談を受けました。

「前任者が部長になり、この課を引き継いだのですが、課員の多くはいまだに前任者の顔色をうかがって、こちらの言うことを素直に聞いてくれません」

これはけっして珍しい悩みではありません。とくに前任者の業績が良ければ良いほど影響力が色濃く残ってしまう。そのなかでリーダーシップを発揮するのは、たしかに至難の業です。

たとえば、前任の課長がつくったマニュアルに縛られたり、実績が多少劣っているせいか、自分のカラーを出せなかったり。前任者が優秀であるほど、後任は動きづらくなるものです。

そこでリーダーシップを発揮するには、あえて前任者が至らなかった点を克服するくらいの強い意識が必要なのです。

トヨタが誇る世界初の量産ハイブリッド車「プリウス」をご存じでしょうか。

1997年に発表された初代プリウスは、従来のガソリン車と比べて燃費を約2倍に向上させて、環境問題に敏感なユーザー層から支持されました。環境にやさしい量産車をつくるという目的は、見事に達成されたといっていいでしょう。

初代の評判が良かっただけに、2代目プリウスの開発リーダーは大いに悩んだはずです。2代目での燃費のさらなる向上は当然として、それだけで初代を超えられるのか。

そこで後任の開発リーダーが下した結論は、初代が切り捨てていた自動車本来のスピードや操作性を追求することでした。

運転の楽しみを追求した2代目プリウスは、初代を大きく上回るペースで売れ続けて、一般ユーザーにも支持が拡大。現在では4代目になり、2017年には累計1000万台を突破。

もし、2代目を開発した後任リーダーが、初代の良さを引き継ぐことしか考えていなかったら、プリウスは、いまも「環境問題に関心のある人だけが乗る車」だったに違いありません。

利益を出すリーダーが必ずやっていること
長谷川和廣(はせがわ・かずひろ)
中央大学経済学部を卒業後、グローバル企業である十條キンバリー、ゼネラルフーズ、ジョンソンなどで、マーケティング、プロダクトマネジメントを担当。その後、ケロッグジャパン、バイエルジャパンなどで要職を歴任。2000年、株式会社ニコン・エシロールの代表取締役に就任。現在は会社力研究所代表として、会社再建などを中心に国内外企業の経営相談やセミナーなどを精力的にこなしている。

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