(本記事は、(本記事は、長谷川和廣氏の著書『利益を出すリーダーが必ずやっていること』かんき出版、2018年10月9日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

「マーケティング」とはシェアを取るための活動と心得る

利益を出すリーダーが必ずやっていること
(画像=g-stockstudio/Shutterstock.com)

マーケティングほど、人によって、その意味するところが違う言葉もないでしょう。

教科書的な言い方をすると、マーケティングとは、「市場のニーズをつかみ、それをもとに商品開発や流通、販売促進を計画して市場を開拓していく活動」を指します。

ただ、人によっては市場ニーズのリサーチをマーケティングと呼んだり、プロモーションの部分を指して呼ぶこともあります。

このように、人によって焦点が違うせいか、マーケティングの意味や目的をつかみかねているリーダーも多いようです。

私が40年間、この分野を専門に仕事をしてきた立場から言わせていただくと、「マーケティングとは、企業がシェアを取るための活動、そのすべてだ」と解釈しています。

市場調査をするのも、商品企画や営業企画を立てるのも、広告を打つのも、すべて売上を伸ばしてシェアを広げるための施策です。

逆に言えば、同じような市場調査や商品企画でも、シェア拡大につながらないものは、マーケティングとは呼べません。

たとえば、上司にレポートを見せるためだけに市場リサーチを行ったり、消費者のニーズを無視して、開発部門が開発した新技術を無理やり盛り込んだ商品企画を立てたり……。

これらはマーケティングの形を装った社内活動であり、マーケット(市場)に向けた活動であるマーケティングとは似て非なるものです。

会社のなかを見回すと、「なんとなくマーケティングっぽいが、シェア拡大につながるのかどうか疑問だ」という活動が意外にあるものです。

それらの大半は無駄な活動です。定期的に自社の業務をチェックして、エセ・マーケティングになっている業務を洗い出し、本来のマーケティング業務に注力すべきでしょう。

マーケティングは全部門のリーダーに必須の知識

ある化学メーカーの赤字再生事業に乗り出したとき、工場で生産を管理している30代後半の課長から、「私は経営企画や営業部門の人間ではないので、マーケティングの勉強は必要ない」と言われたことがありました。

たしかにマーケティングの知識やスキルを駆使して仕事をするのは、経営企画や開発、営業部門などです。

では、それ以外の部署では本当にマーケティングの知識は必要ないのでしょうか。

マーケティングを「シェアを広げるための活動」と位置づけるなら、その根底には「お客様第一」という思想があるはずです。

自社からの目線ではなく、お客様の目線から見てどうなのか。つねにそれを問うことが、お客様の支持を得てシェアを広げることにつながります。

そう考えると、マーケティング的な考え方や姿勢は、生産や管理などの部門でも必要であることがわかるでしょう。

たとえば、工場で製品をつくるときに、お客様が実際に使用することを意識しているか。

経理の人だったら、個人投資家に安心してもらえるような決算報告ができているか。

こうした意識があれば、期限切れの材料を使ったり、粉飾決算を行うというような不誠実な行為はできないはずです。

たとえ、販売の現場から遠い部門で働いていたとしても、お客様第一という考え方を持たないまま仕事をすると、最終的にお客様の信頼を裏切り、シェアを縮小させることになりかねません。

どのような部門であっても、つねに“市場”というマーケットと向かい合って仕事をすることが重要なのです。

会社のブランド力には有能な営業マン100人分の力がある

ブランドの解釈は人それぞれですが、複雑に考える必要はありません。ブランドとは、ズバリ、差別化になる商品やサービスの名前のことです。

もちろん名前がついているだけではダメです。

たとえば「イチロー」といえば「天才」をイメージしますが、それと同じように、商品やサービスの名前だけで特別なイメージを喚起させてこそ、はじめて“ブランド”と言えるのです。

同じ教育論を話すのでも、普通のプロ野球選手を育てた父親と、「イチローの父」とでは、講演の集客力に大差があります。これは商品も同じです。

世間や業界にブランドが認知されると、営業もずいぶんとラクになります。会社の実績や商品の特長を説明しなくても、お客様が名前からイメージを膨らませて、こちらが説明する以上の効果を発揮してくれます。

市場規模にもよりますが、私の経験上、顧客層のうち半数のお客様に認知されているようなブランドは、超優秀な営業マン100人分に匹敵する営業力を発揮してくれました。

ブランドを築くにはそれなりの投資が必要ですが、営業マン100人分と考えれば、けっして高い買い物ではないはずです。

「ブランド力は、逆立ちしても大手企業にかなわない」

これは中小・中堅企業の現場でよく耳にする悩みの1つです。

たしかに会社自体にブランド力や資本力があれば、新しい商品ブランドを立ち上げただけでニュースになるし、多大な広告宣伝費をかけて一気に認知度を高めることもできますが、知名度もお金もない会社がそれを真似るのは困難です。

私自身、食品の「玄米フレーク」(ケロッグ)や消臭剤の「シャット」(ジョンソン)といったさまざまなブランドを立ち上げてきましたが、外資系企業なので、当時の日本での知名度はあまり高くなく、資金もけっして潤沢だったわけではありません。

そこで重要になったのが、身近なところからブランドを広めるという発想・戦略でした。

具体的には、取引先向けに新商品の説明会を何度も開催する、一度買ってくれた既存客にDMを送るなど、すでに自社を知っている相手を中心に宣伝したのです。

言いかえれば、自社のブランドが通用する範囲で商品ブランドの確立を目指すのです。

たとえば、街角で自分のことを知らない通行人に話しかけても、立ち止まって耳を傾けてくれる人はほとんどいません。しかし、同じ人が同じ内容を話しても、身内での会話ならば相手は素直に耳を傾けてくれます。

ブランド戦略もそれと同じで、いきなり市場全体にブランドを広めるより、身近なところから展開したほうが定着させることができます。

小さな集団(たとえば地方の一部の都市など)でも、そこでブランドが確立されれば、徐々にクチコミで評判が広がっていきます。

最近はSNSなどを活用して集客するバズ・マーケティングの手法が主流ですが、これもまず特定の人からの評価を固めて、あとはクチコミで認知が広がるのを待つという意味では同じ発想です。

外に向かってブランドを広めていくのは、まず小さな集団にブランドを浸透させてからでいい。

この順番を間違えて、ブランド力のない会社が最初から市場全体を相手にすると、身近な相手への周知がおろそかになり、結局、誰にも浸透しなかったという事態を招きやすいのです。

利益を出すリーダーが必ずやっていること
長谷川和廣(はせがわ・かずひろ)
中央大学経済学部を卒業後、グローバル企業である十條キンバリー、ゼネラルフーズ、ジョンソンなどで、マーケティング、プロダクトマネジメントを担当。その後、ケロッグジャパン、バイエルジャパンなどで要職を歴任。2000年、株式会社ニコン・エシロールの代表取締役に就任。現在は会社力研究所代表として、会社再建などを中心に国内外企業の経営相談やセミナーなどを精力的にこなしている。

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