(本記事は、(本記事は、長谷川和廣氏の著書『利益を出すリーダーが必ずやっていること』かんき出版、2018年10月9日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

世の中が“ブレた”ときこそのチャンス

利益を出すリーダーが必ずやっていること
(画像=imtmphoto/Shutterstock.com)

「差別化が重要」というと、奇をてらって極端な差別化を図る人がいます。それで成功する場合もありますが、世の中の流れに逆行する極端な戦略は諸刃の剣。

失敗して散々な目にあうリスクを覚悟しておかねばなりません。

では、どうすれば優位な差別化ができるのか。

経営指導の現場で私がよく言うのは、「ライバルたちの計画・実行がブレたときこそ王道を歩く」という戦略です。

実例を紹介しましょう。

少し前の話になりますが、デフレスパイラルによって眼鏡業界で極端な値引き合戦が始まっていたころ、当時私が社長を務めていたニコン・エシロール社は、あえて高付加価値・高価格の新商品の発売に踏み切りました。

時代に逆行する戦略で、当時は社内外から疑問の声が上がりました(こんな高額な商品は絶対に売れるはずがないと……)。しかし、フタを開けてみると、その新商品は大ヒット。業績回復に大きく貢献しました。

まわりが値下げをするときに、逆行して自分だけ価格を上げる。これが結果的に他社との大きな差別化になりました。

ただし、奇をてらったつもりはいっさいありません。

高付加価値商品を高く売るという戦略は儲けの基本であり、むしろ過度な値引き合戦というイレギュラーな方向に突き進んでいたのは他社のほうだったわけです。

高価格商品は利益率が高く、安価な商品と同じ売上でも大きな利益を得られます。ところが市場全体のデフレ傾向に引きずられた結果、低コストで生産する目途も立たないのに安売りする企業が続出しました。

そして、その先に待っていたのは驚くほどの利益率の低下。安売りは、よほど体力のある企業でないと乗り切れない奇策であり、本来は避けるべき戦略なのです。

じつは、このようにみんなが奇策に打って出たときこそ、差別化のチャンスです。特別なことをする必要はありません。

とても単純なことですが、他社が極端な方向に流れているのだから、そのときこそ基本を忠実に守れば、それだけで差別化になります。

たとえば他社が営業効率化のためにインターネット販売に注力するなかで、逆に社内の営業マンのスキルを磨いて対面販売を強化する。

またライバルが低コスト生産のために海外生産に乗り出すなら、国内生産で品質に徹底的にこだわってみる。

これも立派な差別化です。

市場が広がらなければ、売上は必ず下がる

たとえば、競合他社との争いに勝って、シェアが2割伸び、25%から30%になったとします。しかし、シェア争いの間に業界全体が冷え込み、市場規模100億円のマーケットが2割小さくなっていたとしたらどうでしょう。

もともとの売上は、市場規模100億円×25%で25億円。現在の売上は市場規模80億円×30%で24億円。

せっかく努力してシェアを獲得してきたのに、逆に売上は下がっています。

こうした共倒れを避けるためには、自社が代表して業界を活性化させるという自負を持ち、つねにお客様の存在を意識した戦略を立てることが大切です。

マーケットのすそ野が広がると、結果的に敵に塩を送ることになるかもしれません。ただ、それ以上に自社の売上が伸びるのなら、誰にとっても損はないはずです。

自社の「シェア」を把握していないリーダーは言語道断

赤字会社の再生で現場に入ると、シェアを重視していない社員が意外と多いことに驚かされます。ある化学メーカーのコンサルティングをしたときも、リーダークラスの社員が悪びれた様子もなくこう言っていました。

「正確なシェア(市場占有率)は把握していません。競合他社と比較する前に、とにかく自社の売上を伸ばさなくては話にならないので……」

売上を最優先に考えるのは良いことですが、だからといって自社のシェアを把握していないのは言語道断です。

なぜシェアが大切なのか。それは、シェアはお客様から見た企業の通信簿であるからです。

業界最大手と呼ばれるのは、経常利益額がトップの企業ではなく、売上高がトップの企業です。

経営者としては異論を挟みたくなるところですが、少なくても世間や一般の顧客はシェアの大きさで企業を評価しています(自動車やビール会社などがその好例)。

もちろん企業がシェアを争うのは、たんに名誉が欲しいからではありません。シェア1位の企業と2位の企業では、認知度に圧倒的な差が生じるからです。

業界の市場規模が小さいほど、この傾向は顕著になります。

認知度の差はそのままブランド力の差になり、営業面や社員のモチベーションにも影響を与えます。だから企業はシェア争いに躍起になるのです。

また、シェアの奪い合いは、「手段を選ばず」のえげつない世界です。

たとえば、M&Aで下位の企業を吸収したり、優良顧客を持っている営業マンを他社から引き抜いたり、はたまた掟破りの安売りでライバルから顧客を奪ったり。

逆に言うと、「シェア・ナンバーワン」という称号には、そういったえげつない努力をするだけのブランド価値があるといえます。

シェアには、たんに売上の大小を比べる以上の意味がある。

このことを改めて心に留めておいてください。

「安く仕入れて高く売る」を仕事のベースにする

創業して間もない企業や新規事業のコンサルティングで、私がまずチェックするのは、その会社の利益の源になるビジネスモデルです。

どんな事業でも、その成功はビジネスモデルで決まることが多いのです。

優秀な経営者と優秀な社員、そして豊富な資金力があっても、ビジネスモデルに穴があると事業として成立させるのは難しい。

ビジネスモデルとは、商売の仕組みです。

では、「商売の仕組み」とは何か。

それは、お金と商品の流れのことです。

メーカーであれば、何をいくらでつくって、いくらでどのように売るか──。

商社であれば、何をいくらで仕入れて、いくらでどのように売るか──。

サービス業であれば、人や設備にいくら投資して、いくらでどのように提供するか──。

そのパターンを決めたものがビジネスモデルです。

インターネットによって、日々、新しいビジネスが続々と登場しています。ただ、目新しさに惑わされてはいけません。

商品が物やサービスから情報にシフトするなどの変化はありますが、商売の仕組みそのものは以前からあったものがほとんど。まったく新しい仕組みを持つビジネスはごく一部です。

いずれにしても、見るべきポイントはすべて同じ。それは──、

安く商品を買って(つくって)、高く売る。

この最大の鉄則を押さえていれば、商売の第一関門は突破です。

利益を出すリーダーが必ずやっていること
長谷川和廣(はせがわ・かずひろ)
中央大学経済学部を卒業後、グローバル企業である十條キンバリー、ゼネラルフーズ、ジョンソンなどで、マーケティング、プロダクトマネジメントを担当。その後、ケロッグジャパン、バイエルジャパンなどで要職を歴任。2000年、株式会社ニコン・エシロールの代表取締役に就任。現在は会社力研究所代表として、会社再建などを中心に国内外企業の経営相談やセミナーなどを精力的にこなしている。

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