経済成長率の内訳に注目することで景気変化が読める

2010年以降の日本の実質GDPの変化率となる経済成長率をグラフで表すと、下図のようになる。

国民総所得,給料

ここで重要なのが、経済成長率の動きをみるだけではなくて、民間需要、公的需要、海外需要がどれだけ貢献しているのかを、それぞれ分けて見ることである。そして、このことが景気を知るうえで非常に重要になってくる。

2018年はマイナス成長とプラス成長が繰り返されている。特に直近の2018年7-9月期は、自然災害が相次いだために大きなマイナス成長となった。かつ、民間需要、公的需要、海外需要が全て押し下げに寄与しているところがポイントである。

民間需要の内訳を見ると、マイナスの大半の部分を設備投資の減少で説明できる。背景には、やはり米中貿易摩擦の不透明感等により、企業経営者が設備投資に慎重になったというところが大きい。また、公的需要のマイナス寄与は、昨年度の補正予算の効果が一巡した影響であろう。そして、海外需要のマイナス寄与は、実は2018年の年明けから世界経済が減速してきたため、その影響もあろう。

このように、単純に経済成長率の数字をみるのではなく、その内訳を読むことによって、日本経済がどうなっているのかが見えてくる。そして、何が主導でそのときの景気の変化がもたらされたのか、ということもわかる。つまり、需要項目で分けてみると、その時の経済状況が判断しやすくなるということである。

本当の意味で我々が受け取る給料は「国民総所得の半分」

続いて、名目GNIの内訳を見てみよう。

一番上の海外純所得の部分を除いたものが、所得面からみたGDP、すなわちGDI(国内総所得)である。これに海外純所得を足したものがGNI(国民総所得)である、どちらも金額はあまり変わりない。ただし、名目GNIの内訳を見ると、本当の意味で我々が受け取る給料、つまり「雇用者報酬」の部分は半分程度しかないことがわかる。2017年度で275兆円である。

国民総所得,給料

雇用者報酬以外の所得としては、まず「営業余剰」がある。これは、企業の利益である。企業の生産活動によって生み出された所得、すなわち営業利益ということである。この雇用者報酬や営業余剰、つまり、そこで働いている人の給料や企業の利益以外にも、所得というものはさらに分配される。「固定資本減耗」がそれであり、これは企業の利益には入ってこないが、企業会計でいう減価償却費である。設備などの性能が落ちていく部分を計算して、次にまた新しく投資をするときのお金を確保しておくという意味で、減価償却費を計上する。固定資本減耗というのは、この減価償却費にあたる。ここにも所得が分配される。要は、設備の減耗分ということである。

その他、税金も当然払わなければならないため、「純間接税」という項目もある。これは間接税から補助金を引いたものである。間接税は、消費税をイメージしてもらえればわかりやすい。ここまでがGDIで、これに海外純所得がプラスされるということになる。

ということは、結局、名目GNIが一人当たり150万円増えたとしても、雇用者報酬、つまり我々が得る給料部分は半分しか占めていないため、この比率が変わらなければ、単純に考えれば75万円しか給料は増えないということになる。

雇用者報酬の比率は徐々に低下、労働者に分配される比率は下落

ところが、実際には恐らくそこまでも増えないだろう。というのも、比率が変わってきているからである。GNIはほぼ横ばいだが、雇用者報酬の比率は徐々に低下している。所得のうち、労働者に分配される比率が下がっているため、このペースでいくと、仮に一人当たりGNIが150万円になったとしても、雇用者報酬は75万円も増えないことになる。

実際にどういうことかというと、次のグラフになる。これは1994年以降のGNIと雇用者報酬のデータで、上が実質、下が名目である。GNIと雇用者報酬の数字は当然違うが、目盛りの変化の幅は同じにしている。

これをみると、実質・名目ともGNIはかなり増えているが、雇用者報酬はそこまで増えていない。このように、やはり一人当たりGNIが増えても、家計の収入が増えるわけではないといえるわけである。

具体的には、2012年第4四半期と比較すると、直近のGNIは実質で43兆円増えているが、雇用者報酬は17兆円しか増えていない。つまり、半分も増えていないことになる。名目でも、GNIの60兆円の増加に対して、雇用者報酬は30兆円しか増えていない。

国民総所得,給料
国民総所得,給料

このカラクリがわかると、一人当たりGNIが150万円増えても、家計の収入がそこまで増えるわけではないことが理解できる。

永濱利廣(ながはま としひろ)
第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 1995年早稲田大学理工学部卒、2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年4月第一生命入社、1998年4月より日本経済研究センター出向。2000年4月より第一生命経済研究所経済調査部、2016年4月より現職。経済財政諮問会議政策コメンテーター、総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事兼事務局長、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使。

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