窓拭きロボットを起動させる兼子シェフ
(画像=窓拭きロボットを起動させる兼子シェフ)

「効率化できる部分」と「削れない部分」の境目

『L'AS』の一日は朝10時にスタートする。休憩を挟むものの、営業終了まで勤務が続くわけだから、改善したとはいえ他業種と比べればまだ労働時間は長い方だろう。

「これってすごく難しいところで。もっと短くしようと思えばできるんですよ。一番手っ取り早いのが既製品を入れることです。そうすると10時間かかっていた仕込みが0分になります。大半のホテルはそうしていますよね。それに関しては、キッチンスタッフと話し合いました。『なるべく労働時間を短くして余計なストレスを与えないようにはするけど、うちの方針として、既製品は使わない。早く帰れるのと、1年後に技術が残るの、どちらがいい?』って聞いて、納得して入ってもらっています」

そもそも、モチベーションの高い料理人は、既製品を使ってまで労働時間を短縮することは求めていないと兼子シェフは考えている。

「既製品を使うということは料理人にとって魂を売ることに等しいんです。もし既製品を入れたら、『L'AS』にとって大事なものが抜けていくと同時に、優秀なスタッフが辞めていくと思います。掃除や窓拭きをロボットに任せても嘆くスタッフはいませんが、既製品を使うと悲しむスタッフがいます。そこが大切なポイントで。業務改善しつつ、『スタッフにガッカリさせない』という塩梅にはすごく気をつけています」

既製品を使わないことは『L'AS』としては譲れない部分だ。一方で、兼子シェフが代表を務める『レシピアンドマーケット』は、主婦や外国人のアルバイトが多いので、一部既製品を入れたり、野菜を切るロボットを入れたりして効率化を進めている。その店で働くスタッフの構成や優先順位を考え、店ごとに方針を決めているようだ。

店の特性やスタッフのモチベーションを考慮しながら業務改善することが大切と語る兼子シェフ
(画像=店の特性やスタッフのモチベーションを考慮しながら業務改善することが大切と語る兼子シェフ)

「成長の実感」をどう持たせるか

『L'AS』の料理は「おまかせコース」のみで、メニューは1か月変わらない。同じ料理ばかり作り続けていると飽きそうだが、『L'AS』では料理人の刺激になるような仕組みを取り入れている。

「料理人を定着させるには、『やり甲斐』の部分を充実させることも大切です。『他に行くよりもここにいるほうがよっぽど勉強になるし、待遇もいい』という状況を作らないといけません。ですから、コースを考えるときにはお客様のためになると同時に、スタッフにとって勉強になるメニューも組み込んでいます。それと、1か月の間ずっと同じものを作らせるのではなく、途中でポジションをシャッフルしています。例えば、魚担当だった人が肉を焼いたり、デザート担当の人に前菜を作らせたりするんです。現場には負荷が掛かるんですけど、確実に技術はつきます。あとは、スタッフにテーマを与えて料理を作らせたり、ソムリエに即興でワインを合わせてもらったりする勉強会も開催しています」

スタッフの成長を促す機会として、近々イタリアへの社員旅行も控えている。旅行にかかる費用はすべて会社負担だ。

「今度、従業員を15人連れてイタリアの農家や工場を見学しに行くんです。ワインやチーズ、オリーブオイルなどの製造現場を見に行きます。3つ星のリストランテやトラットリアで食事もします。それによって従業員のモチベーションがどう変化するのか見てみたいんです。会社としては相当な費用がかかりますが、『みんなで稼いだお金だから、みんなに還元したい』という考えです。僕もあまり海外に行く機会がないので、どうせ行くならスタッフのみんなと一緒に行きたいと思ったんです」

従業員15名というのは、今年入ったばかりの新入社員や洗い場専属スタッフを除く『L'AS』の全員だ。その費用はザッと見積もって1000万円くらいだという。そこまで待遇改善に力を入れる理由は何だろうか?

「僕にとって従業員ってすごく大事なんです。だから、彼らの待遇は他よりも良くしてあげたいし、そのための仕組みを作ってあげるのが僕の責任です。一生懸命がんばっているのに、待遇を良くしてあげられないというのは経営者に罪がありますよ。時代はどんどん変わっていくので、僕らもその変化に必死でついていかなければなりません。将来にわたって業界全体で人材を確保していくためには、『この業界いいね』って言われる状況を作るしかないんです。もちろんこうした改善は失敗することだってありますけど、やってみなきゃ結果はわからない。一歩を踏み出すことが何より大切だと思います」

『L'AS』は従業員の待遇を改善することでスタッフ定着率の向上に成功、長く勤めるスキルの高い従業員が増えたことでレストランのレベルも底上げされた。そうすることで集客力が高まり、結果的に利益を圧迫することなく待遇改善に成功している。例えば給与を改善するにも、最初は経営者側の負担を考えて躊躇してしまうが、『L'AS』のように工夫を重ねればプラスに繋げることも十分に可能だ。働き方改革を検討している飲食店は、ぜひ『L'AS』の取り組みを参考に最初の一歩を踏み出してほしい。(提供:Foodist Media

『L’AS(ラス)』
住所/東京都港区南青山 4-16-3 南青山コトリビル1F
電話番号/080-3310-4058

営業時間/17:30~L.O.22:00
定休日/不定休

席数/65
http://www.las-minamiaoyama.com/

執筆者:三原明日香