シンカー:完全雇用で財政が黒字化していないことを問題視する意見もあるが、前提条件が過度に省略化されてしまっていると考える。完全雇用にもかかわらず政策が緩和しているのであれば、景気が過熱し、物価上昇率は目標である2%に上昇しているはずである。完全雇用で物価上昇率が目標近辺で推移しているのに、財政が黒字化していなければ問題であるというのが、より正確な意見だろう。通常の経済状態では完全雇用と物価上昇率の目標達成はほぼ同義であることが、完全雇用という一つの前提だけで財政収支を語ることを可能にしている。日本経済では完全雇用を当分の間続けなければ、賃金上昇は強くならず、根強いデフレ期待も払拭できない。理論どおり、完全雇用と物価上昇率の目標達成という二つの前提条件で、財政収支を議論しなければいけないと考える。まだ物価上昇率が弱いのであれば、実質変数である失業率が完全雇用の水準でも、名目変数である財政収支が赤字であるのも当然である。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

12月の失業率は2.4%と、11月の2.5%から低下した。

企業の人手不足感は深刻で、積極的な採用活動が続いていた。

賃金を含めた労働条件は大きく改善し、新たに職を求める労働者も増加してきた。

10・11月には労働力人口は前月比+0.5%・+0.4%と大きく増加した。

これらの労働者が順調に職を得て、10・11月の就業者も前月比+0.3%・+0・4%と増加した。

12月にはこの動きが一服し、労働力人口と就業者がともに同-0.7%となったが、わずかな差で失業率は低下した。

12月の有効求人倍率は1.64倍と、11月から高水準で変化はなかった。

日本経済の失業率は完全雇用の水準に近いという見方が多い。

完全雇用で財政が黒字化していないことを問題視する意見もあるが、前提条件が過度に省略化されてしまっていると考える。

もしそのような意見が強ければ、消費税率引き上げにやグローバルな景気減速に対する財政による経済対策が過小となり、デフレ完全脱却への動きを阻害するリスクがある。

完全雇用にもかかわらず政策が緩和しているのであれば、景気が過熱し、物価上昇率は目標である2%に上昇しているはずである。

完全雇用で物価上昇率が目標近辺で推移しているのに、財政が黒字化していなければ問題であるというのが、より正確な意見だろう。

通常の経済状態では完全雇用と物価上昇率の目標達成はほぼ同義であることが、完全雇用という一つの前提だけで財政収支を語ることを可能にしている。

日本経済では完全雇用を当分の間続けなければ、賃金上昇は強くならず、根強いデフレ期待も払拭できない。

理論どおり、完全雇用と物価上昇率の目標達成という二つの前提条件で、財政収支を議論しなければいけないと考える。

まだ物価上昇率が弱いのであれば、実質変数である失業率が完全雇用の水準でも、名目変数である財政収支が赤字であるのも当然である。

政府は、2%の物価目標を含むデフレ完全脱却に向けて、まだファイティングポーズを維持しており、財政赤字に対する過度な懸念で、経済対策が過小となることはないだろう。

緩和的な経済政策が続き、失業率は2.0%に向け緩やかに低下し、二つの前提条件が満たされるところで、財政収支も十分に改善していくことになるだろう。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司