「IKPOLET法」で、誰でも話し上手になれる!
説明上手でないと務まらない職業の代表格に、塾や予備校の先生がある。話題のベストセラー『頭のいい説明は型で決まる』の著者で、元・駿台予備校人気ナンバーワン講師として知られる犬塚壮志氏は、生徒たちが興味を持って聴く姿勢になるような講義をするために、様々な工夫を凝らしていたという。その具体的な方法論についてうかがった。(取材・構成=林加愛)
「相手は自分の話に興味がない」が大前提
脳科学の研究によると、「わかった!」という気持ちに到達したとき、脳内ではドーパミンなどの快楽物質が分泌されるのだそう。つまり、的確な説明によって物事を理解してもらうことは、相手を気持ちよくさせるものであり、ひいては「面白い」ものなのです。「説明力が高い人」とは、間違いなく「話が面白い人」だと言えるでしょう。
これは長年、進学塾の仕事に携わる中で実感してきたことでもあります。生徒を「わかった!」に導けるか否か――授業は毎回、その勝負の場です。
では「わかる」とは一体どういうことでしょうか。それは、相手がすでに持っている知識に、こちらがもたらす情報が「つながる」こと。説明とは、この連結作業です。
この作業を成功させるには順序が必要です。私はそれを「IKPOLET法」として定式化しています(後述)。その話をするにあたり、まずは大前提としての心得をお話ししましょう。
最初に、「相手は自分の話について知識も興味もない」という認識が話し手には必要です。私は「受験勉強」という、ときに退屈な内容を伝えるにあたり、常にこの前提に立ってきました。ビジネスマンの方々も同じです。部下への指示でも商品の売り込みでも、「興味を持ってくれているはず」という楽観は禁物です。
一方、ビジネスは受験と違い、コンテンツをこちら側でつくれるのが利点。そのコンテンツ自体を磨き上げておくことも、不可欠な大前提です。営業職の方なら、商品のメカニズムと目的――それがどんなもので、誰のため・何のためにつくられたか、自信をもって語れるようにしておきたいところです。
相手の表情を見て知識レベルをつかむ
説明を始める際は、冒頭で「興味を引く」ことが必須。それにはいくつかの方法があります。
例えば塾講師が言う「ここ試験に出るよ!」は、典型的な殺し文句。「知らないと損」もしくは「知っておくと得」という直接的アプローチは、ビジネスにも大いに応用できます。また「ここだけの話……」といった秘密の提示や、「御社だからこそお話しするのですが」と特別感を際立たせるのも有効です。
ただし、もし相手がすでに興味を持っているならこのプロセスは不要。次の段階である「相手の知識の度合い」を確認する作業に移りましょう。
授業で言えば、「ここ、学校でもう習った?」という問いかけ、商談ならば、「○○についてお聞きになったことはありますか?」という質問。こうしていくつかのキーワードを投げかけつつ、相手の反応や表情を観察して推し量ります。
ここで注意したいのが専門用語や略語。社内で使い慣れた表現でも、相手が少しでも「わからない」顔を見せたら、注釈をつけたり易しい表現へ切り替えたりするのが得策です。
併せて知っておきたいのは、相手の「ニーズの形」です。
私は企業研修の際、「最終的な理想像」を事前にじっくり聞きます。先方が望む「社員にできるようになってほしいこと」「目指す状態」をとことん具体的に聴き取ります。こうして「相手が今知らない・持っていない部分」をつかんでこそ、それに応じた提案や説明ができるのです。
次は、こちらから新しい情報をもたらす段階。その話が相手にもたらすもの=目的を伝え、次いで説明の大枠を話します。このように、詳しい内容の前に「ゴール・結論」を示すことも、わかりやすさの条件です。