■4品目

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(「サワラのレフォールチーズ焼き・ウニのバターソース・ズッキーニのソテー タイム風味」)

続いて、サワラにウニを合わせた魚料理。こってり重いイメージのウニに、白ワインの軽い酸味を加えて軽やかなソース仕立てに。豊かな海鮮の風味をレフォール(西洋ワサビ)の香りと辛みでキリッと引き締めているのも特徴だ。大槻シェフに「美味しいものを作る方程式って、あるんですか?」と聞くと、彼は頷いてこう言った。

「料理を考える上で一番大切にしているのは香りです。それに酸味と、油脂分のバランス。最近はできるだけ油脂分を減らして素材感を生かすのがトレンドですが、僕はそこに乗っかるつもりはなくて。バターやクリームは重くない範囲であれば使ったほうが美味しいし、フレンチらしいと思っているんです。油脂分もしっかり使いつつ、くどくならないよう、酸味で輪郭を際立たせてバランスを取っています」

■5品目

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(「鳩のロティ・ポルト酒のソースと鳩のモモ肉・フォアグラのフレンチトースト カルダモンのオレンジの風味・鳩の内臓と蕎麦の実・フォアグラのソース」)

今回の主役は、フランス産の鳩のロティ。艶めかしいレアな断面をそっと噛むと、旨みがジュワッと染みだしてくる。窒息させた鳩を使うことで、身がうっ血してジューシィな身質になるそうだ。付け合わせはフォアグラのフレンチトースト。オレンジと合わせた甘いフォアグラを食べると、カルモダンの香りが爽やかに鼻孔を抜けていく。鳩から取ったジュを絡めた内臓は、鴨南蛮蕎麦をイメージし、蕎麦の実と長ねぎを合わせたという。こんがり焼いたモモ肉と合わせたポルト酒のソースは、チョコレートのように甘くほろ苦い。食後にうっとりと陶酔感を覚えるような1皿だ。「これがランチで食べられるなんて」とつぶやく。

「ランチはコストパフォーマンスがいいものをと心がけ、ほとんどディナー用のお肉を使っています。値段を下げればもっと多くの方に来てもらえるかもしれませんが、使える食材や質も制限されますよね。それは作っている側としては面白くありません。作る側が楽しくないと、自分の店でやっている意味がないのかなと感じています」

自分の精進ため、そして働いているスタッフにとって学びの多い環境を作るため、料理の質は妥協しない。その結果、コストパフォーマンスの高い料理となっているようだ。

■6品目

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(8品のデザートを一気に食べられる)

「えっ、これ全部食べていいんですか?」と思わず聞いてしまう。最後に出てきたデザートは、驚きの8品。モンブランにブラマンジェ、アイスクリームを添えたガトーショコラ、白ワインに炭酸ガスを注入したジュレなどがテーブルを埋め尽くすように運ばれてくる。まるでホテルのデザートブッフェのようだ。食後のコーヒーや紅茶とともに、これらのデザートを堪能できるのは、『Takumi』ならではの至福の時間かもしれない。

「テーマは『ケーキ屋さんで大人買い』です。アミューズメント性というか、普段は味わえないような体験をしてもらいたくて。大皿で一つのものを出すのではなく、少しずつたくさんの種類を提供することで、新しい発見や驚きがあるのではないかと思っています」

美味しいものを少しずつたくさん食べたいという女性にはたまらない演出である。

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(画像=一つ星獲得に「心強い後ろ盾を得たように感じる」と大槻シェフ)

有言実行の一つ星獲得。次のステップは?

素晴らしいコース料理を提供してくれた大槻シェフに、改めて「ミシュランガイド東京2019」で一つ星を獲得した感想を伺った。

「僕は、東京はおろか日本で働いたことすらありません。フランスでは星つきレストランで勤務しましたが、偉大な人物に師事してその流れを汲んでいるというわけではないので、客観的な裏付けのない人間なんです。若いシェフが勝手気ままに作っている料理で、ランチでも1万円弱ということになると、なかなか『行ってみよう』という気持ちにならなかったと思います。今回ミシュランの星をいただいたことで、社会的な信用が高まり、お客様の来店を後押ししてくれるのではないかと期待しています。『Takumi』が賛否両論あることは最初から想定内なので、自分がやりたいことをやっていく上で、心強い後ろ盾を得たように感じています」

一つ星を到達すべき目標地点として、具体性を持って計画を立ててきた大槻シェフ。次の目標は何だろうか?

「いますぐ次の段階にステップアップするつもりはないのですが、今後10年を目途に多店舗展開していきたいと考えています。今、30歳なので、朝から晩まで最前線で働いても問題ないんですけど、50歳をこえると体力的にきつくなってくると思うので。仕事を誰かに任せながら、全体をうまく回せる形を作り上げないといけません。僕自身の求心力を高めるために、一つひとつ社会的な評価を上げていくことも必要です。当面の目標は経営面を盤石にすることと、結婚です。20代でオーナーシェフになろうと決めたのは、結婚を視野に入れて、人に迷惑をかけないタイミングでやりたかったから。今回ミシュランの星をもらったことで、ようやく結婚相手のお父さんに会っても恥ずかしくない段階にきたかなと思っています。まだ相手は見つかっていないんですけどね(笑)。ようやく人生の土台ができて、スタートラインに立てたかなと感じています」

そう言いつつ、「まだまだですけどね」と謙虚さをにじませる。彼の道はまだ半ば。その道がどこへ続いていくのだろうか? 今後の活躍を追いかけ、「その先」を見せてもらうのが、今から楽しみである。

『Takumi(タクミ)』
住所/港区西麻布 1-11-10 ビルマーサ1F
電話番号/03-6804-6468
営業時間/ランチ:11:30~15:00 、ディナー:18:30~23:30
定休日/日曜、月曜
席数/16

執筆者:三原明日香

(提供:Foodist Media