西麻布の創作フレンチレストラン『Takumi』が、「ミシュランガイド東京2019」で一つ星を獲得した。2017年4月にオーナーシェフの大槻卓伺さんにインタビューしたとき、彼は「2年内に一つ星をとりたい」と話していた。まさに有言実行の快挙である。『Takumi』のコース料理を食し、改めてその魅力を多くの人に伝えたいと思う。
『Takumi』の料理は昼夜ともにおまかせコースのみ。今回はランチコース(6,500円 ※消費税・サービス料別)を頼んだ。まずテーブルに運ばれてくるのは、番号のついた小瓶である。「1番の小瓶に入っているのがセップ茸、2番がナツメグです。どうぞ香りを楽しんでください」という説明を受け、小瓶の蓋を開けると、独特の香りが鼻孔をくすぐった。
一緒に運ばれてきたカードには、こう記されている。
「寒い季節を代表する優雅な香りのセップ茸を使った一品です。このお皿はクラシックな仕立てにしました。イメージしたのは美食の街、リヨン。リヨンといえばシャルキュトリー(ハムなどの食肉加工品)が有名なので、ポタージュの付け合わせにはリエット(肉をほぐしたもの)や牛のアキレス腱を合わせました。牛のアキレス腱は柔らかくなるまで煮て、ソース・リヨネーズ(白ワインと玉ねぎ、肉のエキスのソース)を絡めました。そこに、香ばしくソテーした長ねぎを合わせました。お肉と相性の良いスパイス、ナツメグの香りを牛乳の泡と共に添えました」
カードを読み、香りのテイスティングをしながら、どんな一皿が来るのか想像しながら待つのも一興である。
■1品目
恭しく運ばれてきたポタージュをさじですくうと、セップ茸の香りがふわっと広がった。さきほどテイスティングした香りに出合って思わずうれしくなる。こっくりと濃厚な味わいのポタージュは単品はもちろん、付け合わせにソースのように絡めても美味しい。「先にテイスティングしておくと、『あの香りはどこだろう?』と宝探しのような気分で楽しめますね」と大槻シェフに感想を伝えると、彼はゆっくりと頷いた。
「食べて『なんとなく美味しかった』では終わってほしくなくて。料理をより正確に理解し、楽しんでもらうために、こういう演出を考えました。創作料理は一つひとつ出来上がるまでにすごく時間がかかります。料理を考えた背景や調理のこだわりを紹介することで、お客様の知的好奇心をくすぐり、新たな発見が得られたらいいなと思っているんです」
カードの演出は、料理の説明で大事な話を遮ったり、料理が冷めたりしないのも良いところである。
■2品目
2品目は「アナゴの白バルサミコ焼き」。大ぶりのアナゴをブイヨンで軽く煮てから、白バルサミコ酢を何度もつけながら焼き、甘酸っぱい蒲焼のように仕上げたという。ふっくらとしたアナゴに絡む、パリパリとしたポテトチップスの食感が楽しい。黒トリュフを加えたじゃがいものソースとアナゴの組み合わせも目新しく感じる。『Takumi』の料理は「組み合わせの妙を楽しむ」のがコンセプトだが、大槻シェフはどのように料理の構成を考えているのだろう?
「アナゴとじゃがいもは『旬が同じもの』というテーマで考えました。料理は化学ですので、論理的でありたいと思っています。肉料理であれば肉とその動物が食べている餌を合わせるとか、色や産地が同じものを合わせてみるとか、『なんとなく』ではない、裏付けがあるものを選びたいと思っています」
論理的に考えられた、裏付けのある料理。それが『Takumi』らしさを作っている。
■3品目
こちらはリゾット仕立てにアレンジしたシュークルート。ピューレ状にした甘酸っぱいザワークラフトと一緒にリゾットをすくって食べると、味わいがグラデーションのように変化する。「チーズと甘酸っぱいソースってこんなに合うんだ」とビックリ。仔羊と豚足のクロケットは、マスタードを効かせたワイルドな肉の風味がガツンとくる。
「フランス北東部アルザス地方の名物料理・シュークルートは、寒い季節に食べたくなる煮込み料理の一つです。リゾット仕立てにアレンジして、ネズの実やアマニの実、ヒマワリの種を加えました。ザワークラウトとネズの実の香りが特徴です。お客様に、『これがリゾット? 思っていたのと違う』と驚かれるのも、楽しみの一つなんです」