はじめに
米国では、労働市場の回復などを背景に個人消費主導の景気回復が持続している。もっとも、好調が見込まれていた18年の年末商戦が前年や事前予想を大幅に下回る期待外れの結果に終わったほか、GDPにおける個人消費も18年10―12月期は好調であった前2四半期から伸びが鈍化したため、個人消費には陰りがみられる。
本稿では、不調であった年末商戦の要因も含めて足元の消費動向を確認するほか、今後の見通しについて論じた。結論から言えば、資本市場が安定する中、消費動向を取り巻く環境は依然として良好であり、4月以降は消費の伸びは加速が見込まれるというものだ。ただし、個人所得減税による可処分所得の押上げ効果が逓減することもあって、昨年にみられた3%台半ば~後半の伸びを超えるのは難しいだろう。
年末商戦および1-3月期の消費動向
●(年末商戦の結果):前年、市場予想を大幅に下回る。12月の小売売上が09年以来の落ち込み
自動車ディーラーやガソリンスタンド、食品サービスを除いた11月と12月の小売売上高合計でみた年末商戦売上高は、18年が前年比+2.9%(前年:+5.3%)に留まり、前年や全米小売業協会(NRF)の予想(同+4.3%~+4.8%)を大幅に下回った(図表2)。
これは、年末商戦売上高が11月は前年比+5.1%となっていたのに対して、12月が同▲0.1%と予想外のマイナスとなったことが大きい。また、自動車ディーラーなども含めた小売売上高全体でも、11月の+4.9%から12月には+0.7%に低下した。さらに、季節調整済みの前月比では12月が▲1.6%の大幅なマイナスとなったことが分かる(図表3)。これは、前月比の落ち込み幅としては09年9月(▲2.4%)以来の水準である。
一方、12月の消費鈍化もあって、実質GDPにおける個人消費の伸び(季節調整済み、前期比年率)は18年10―12月期が+2.5%と、18年4-6月期の+3.8%、19年7―9月期の+3.5%からの鈍化が顕著となった(前掲図表1)。
●(12月消費不振の要因):株価下落、連邦政府機関の一部閉鎖等が影響した可能性
後述するように、雇用や所得環境は12月も回復が持続していたため、これらが消費に影響した可能性は低いとみられる。一方、消費不振の要因としては、12月初からの株式市場の大幅な下落や、「国境の壁」予算を巡る政治的対立により、12月下旬から連邦政府機関が一部閉鎖された影響が考えられる。
実際に、12月に株式市場が1割を超える下落を示す中で、消費者センチメントの悪化が顕著となっており、19年1月にはミシガン大学調査が91.2と16年8月(87.2)以来、カンファレンスボード調査が121.7と17年9月(120.6)以来の水準に急激な悪化がみられた(図表4)。このため、株式市場の下落が消費マインドの悪化を通じて消費を抑制させた可能性がある。
また、12月21日からの連邦政府機関の一部閉鎖では、80万人の連邦政府職員に対する給与未払いが発生したほか、内国歳入庁(IRS)職員の一時帰休に伴う人手不足から、税還付に遅れがでるとの懸念が拡がったことも消費に影響した可能性がある。もっとも、12月に限ってみれば政府機関の閉鎖は10日程度に過ぎず、株価下落などに比べれば影響は限定的だろう。
一方、小売統計は他の指標と乖離がみられており、政府閉鎖に伴い同統計の集計が遅れたこともあって、12月の統計精度に対する疑義が生じている。クレジットカード会社のマスターカードは、クレジットカード利用額から11月1日から12月24日までの年末商戦の売上高が前年比+5.1%と、過去6年間で最も高い伸びとなったことを公表していた(1)。同社は12月に一部天候不良により売上に影響があったことを指摘しているものの、売上の減少には言及していない。
また、1月16日に公表された地区連銀景況報告(2)でも12地区連銀のうち、前回報告時(12月5日)からニューヨーク連銀は年末商戦が少し不振であったことを指摘しているものの、前年からは増加したとしているほか、ボストン、アトランタ、シカゴ、ミネアポリス連銀は年末商戦が好調であったことを指摘するなど、全般的には緩やかな伸びとの評価がされており、こちらも12月の年末商戦に急ブレーキがかかったことは指摘されてない。このため、12月の小売売上高は実際より過小評価されている可能性は否定できない。もっとも、小売統計は1月分の公表時に12月分が上方修正されると期待されたものの、実際には予想に反して速報値の前月比▲1.2%から、さらに下方修正された。
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(1)https://newsroom.mastercard.com/press-releases/mastercard-spendingpulse-u-s-retail-sales-grew-5-1-percent-this-holiday-season/
(2)https://www.federalreserve.gov/monetarypolicy/files/BeigeBook_20190116.pdf
●(19年1-3月期の個人消費):18年10―12月期から伸びはさらに鈍化する見込み
小売売上高(前月比)は、19年に入っても1月が+0.8%の伸びに留まったほか、2月は再び▲0.2%とマイナスに転じた(図表5)。ただし、3月は+1.6%と17年9月(+2.0%)以来の顕著な増加となった。3月は分野別でも自動車や自動車部品が+3.1%と3ヵ月ぶりにプラスに転じたことや、ガソリンスタンドが2ヵ月連続で+3.5%となったほか、全般的に売上が増加しており、消費のモメンタムには回復がみられる。
また、GDPにおける個人消費の推計に使われるコア売上高(3)(前月比)は1月が+1.7%と12月の▲2.2%の反動もあって大幅なプラスとなった後、2月は▲0.3%、3月は+1.0%となった。
一方、サービスも含めた実質個人消費支出の伸び(3ヵ月移動平均、3ヶ月前比、年率)は、1月が+1.4%(12月:+2.5%)と12月からさらに鈍化した(図表6)。これは、実質可処分所得の伸び(+4.9%)を大幅に下回っており、貯蓄率(3ヵ月移動平均)が7.1%(前月:6.8%)と18年4月以来の水準となるなど、所得対比でも消費は冴えない状況となっている。2月分は政府閉鎖の影響もあって本稿執筆時点(4月23日)では未だ公表されていないが、小売売上高からは2月にさらに減少した後、3月は改善が見込まれる。26日発表予定の19年1―3月期の実質個人消費は前期からさらに伸びが鈍化しそうだ。
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(3)自動車、建材、食品サービス、ガソリンスタンド売上高を除いた売上高
個人消費を取り巻く環境、今後の見通し
●(金融環境の改善):株価は昨年の高値を窺う一方、長期金利は低水準を維持
年初から金融環境は緩和が持続している。株式市場は年初から上昇基調が持続しており、4月22日時点でダウ平均株価は年初来で+13.6%上昇し、昨年つけた最高値まで1.2%までに迫るなど昨年12月の下落を完全に取り戻した(前掲図表4)。また、S&P500指数も同様に昨年の最高値まで+0.8%と視野に入っている。
一方、長期金利は18年11月の3.2%台から株式市場の下落に伴うリスク回避的な資金流入もあって、19年3月下旬には一時2.3%台まで低下、その後反発したものの、4月22日時点でも2.6%近辺に留まっている(図表7)。
また、18年末にかけて拡大していた社債スプレッドも昨年秋口以前の水準に縮小しているため、19年入り後の金融環境は緩和しており、消費には追い風となっている。
●(労働市場の回復持続):労働需給の逼迫が持続する中、賃金上昇は加速し易い状況
米国で個人消費主導の景気回復が持続していた背景としては、労働市場の回復が挙げられるが、足元でも労働市場は順調な回復が続いている。非農業部門雇用者数は10年10月から19年3月まで統計開始以来最長となる102ヵ月連続で雇用増加が続いているほか、19年の月間平均増加数は18.0万人と高水準を維持している(図表8)。また、失業率も19年3月が3.8%とこちらもおよそ50年ぶりの低水準に留まっており、労働市場はこれまで経験したことがない回復を示している。
さらに、働き盛りでプライムエイジと呼ばれる25~54歳の労働参加率(4)は15年後半から回復が顕著となっており、労働需給は逼迫している(図表9)。そのような中で、時間当たり賃金の伸びは前年比3%台前半まで上昇しており、人手不足の業種や技能レベルが拡大していることを考慮すると今後も賃金上昇の伸びは一段と加速する可能性が高いとみられる。
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(4)生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。
●(家計バランスシート):家計純資産は高水準、負債の負担も限定的
米国の家計純資産は、株価下落に伴い株式・投信残高が前期から減少したこともあって、18年10―12月期に104.3兆ドル(前期:108.1兆ドル)と15年7―9月期以来12期ぶりに前期から減少した(図表10)。もっとも、年初から株式市場が上昇に転じているため、19年1―3月期の家計純資産は再び増加に転じ、史上最高を更新する可能性が高い。
また、家計負債は18年10―12月期が16.1兆ドルと増加基調が続いているものの、資産増加に比べて軽微に留まっている。また、債務残高と債務返済額の可処分所得に対する比率は、債務残高は18年10―12月期が0.99倍と01年7―9月期以来の水準に低下しているほか、債務返済額は9.9%と80年代以降で最も低い水準となっており、可処分所得に対する債務負担は限定的である(図表11)。
●(今後の見通し):4月以降、消費の伸びは再加速も、18年の3%台半ば~後半の伸びは下回る
これまでみたように、19年初から株式市場の上昇、長期金利の低下など金融環境が緩和しているほか、消費者センチメントに19年1月の急落から改善している。また、従前から堅調な個人消費の要因となっていた労働市場や家計のバランスシートは改善が持続しており、引き続き消費には追い風と考えられる。
このため、GDPにおける個人消費は、19年1―3月期では前期からの伸び鈍化が見込まれものの、4月以降は再び伸びが加速しよう。もっとも、18年から実施されている個人所得減税では家計当り平均1,300ドル程度(5)と、税引き後所得を+1.8%程度押上げたとみられるが、今年は前年比でみた所得押上げ効果は逓減することが見込まれている。実際に、IRSの統計からは19年4月12日時点の税還付額(前年比)が、合計金額で▲3.1%となったほか、1人当りの平均還付額が▲1.3%と前年を下回っている。このため、今後も消費は堅調な伸びを予想するものの、昨年にみられた3%台半ば~後半の伸びを超えるのは難しいだろう。
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(5)https://www.taxpolicycenter.org/taxvox/three-numbers-know-about-tcja-2018
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窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員
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