お客様一人一人のストーリーにいかに寄り添えるか

飲食店は誰かにとって特別な場所になり得る。そこに気づいて、鈴木さんのサービスレベルは、ワンランク上がった。お客様一人一人にストーリーがある。いかにそれに寄り添えるか。現在、彼女はそこに注力した接客を行う。例えば以前、いつも一人で来店されていたお客様が予約を入れたことがあった。クリスマスのディナーを奥様と二人で過ごすためだ。そのときの状況について、鈴木さんはこう語る。

「予約をして下さったということは、当店に対してあらかじめ何かしらの期待を抱いています。料理が美味しいや雰囲気が良いなど、必ず理由があるがはずです。一方で期待値が高いからこそ、嫌な気分をされたときのインパクトも大きくなるし、リカバリーも難しくなってしまいます。お客様の気持ちを感じ取るために観察が重要だといっても“想像”でしかありません。しかし気づいたからには、何らかのアクションを起こす必要があります。お客様の期待を超えたサービスも、その先にありますから」

じつは、予約して来店したものの嫌な出来事に遭遇したというシチュエーションは、S1サーバーグランプリの決勝大会のロールプレイングと同じシーンだ。「本番ではいつも以上のことはできません」と、鈴木さんは話す。この時は、期待以上のサービスができた結果、バレンタインには奥様から予約が入った。S1サーバーグランプリではこうした日々の成果が発揮され、審査員特別賞に輝く。

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(画像=審査員特別賞に輝いた鈴木志麻さん)

改めてS1サーバーグランプリのことを聞くと「じつは、こんなに大きな大会だって知らなかったんです(笑)」と鈴木さんは笑う。だから気負わず実力を発揮できたのかもしれない、と。ただその明るいキャラクターが店の雰囲気を明るくしているのは確かだ。大会に向けて店の結束が強まったのはもちろん、会社全体の士気も上がった。決勝大会の壇上に上がる鈴木さんの姿に感動し「自分も鈴木さんのようになりたい」と決意を新たにしたスタッフも一人や二人ではない。彼女の接客が客の心を動かしただけでなく、スタッフの心まで動かしたのだ。

最後に接客の秘訣を尋ねると「挨拶です」と即答し、次のように続けた。

「挨拶という言葉には、自分の心を開いて、相手の心に寄り添うという意味があります。接客はテクニックでできるものではありません。自分から心を開くからこそ、お客様とコミュニケーションが取れて想像を超えるサービスも実現するのです。答えは常にお客様が持っています。その出会いを通してしか成長できません。笑顔で挨拶をし続ける。その当たり前の積み重ねに勝るサービスはないと思っています」

S1サーバーグランプリを通して次のステージへ突入し、大きなビジョンを見つめるその眼差しは初々しい頃と同じく光輝いている。

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(画像=鈴木志麻さんと全国大会の応援に駆け付けてくれた同社スタッフの方々)

『観音坂 鳥幸』
住所/東京都渋谷区恵比寿南3-9-3 EBISU393
電話番号/03-6412-8248
営業時間/【平日】1階17:00~23:30、2階17:00~23:00、【土曜/祝日】全席17:00~23:00
定休日/日曜

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執筆者:三輪大輔