腕時計投資を知っていますか?高級腕時計を自分自身も利用しながら売買益を得る投資方法です。腕時計投資の第一人者である斉藤由貴夫さんに、どのような投資なのか、またどのような部分に注意して投資を行えばいいのかをお聞きします。
高級腕時計ファンの独自の心理が投資市場をつくる
━━まずは、腕時計投資とはどのような投資なのか、また、どの程度の価格帯の腕時計が投資対象になるかをお聞かせください。
腕時計投資とは、自身の欲しい腕時計や相場の安い状態の腕時計を購入して、相場が上がったときに売却して売買益を得る投資方法です。相場が上がるのは販売からある程度の期間が経過してからのため、基本的には中古品を購入してタイミングを見ながら売却することになります。
今ご説明したように、腕時計投資とはシンプルな投資方法です。安く買って高く売るのは当たり前では?と思われるかもしれません。しかし、これは高級腕時計などごく一部のアイテムに適用できる方法なんですね。
では、なぜ高級腕時計はこのような安く買って高く売るという方法が使えるのか。そもそも高級腕時計は趣味性の高いアイテムです。おそらく、腕時計投資をこれからはじめる、もしくはすでに行っている方のほとんどは、腕時計のファンでしょう。私自身もそうですが腕時計のファンはお気に入りの1本だけを長く愛用するのではなく、複数本所持し、かつ、さまざまなモデルに買い替えながら使用する方も多いのです。
価格帯で言うと、私が腕時計投資に向いていると考える腕時計の単価はおおよそ40万円から。腕時計にあまり興味のない人にとって、1本40万円の腕時計を複数本所持するというのは理解しにくいことかもしれません。しかし、ブランドやモデル、ムーブメントと呼ばれる時計の駆動部分の違い、盤面やケースのデザイン、ほかにも、同じモデルでも製造年などで細かな違いがあるのが高級腕時計です。
これらは流行の移り変わりがあり、人気モデルは数年おきに変化します。そのため、「今使用しているものだけではなく、最近流行っているあのモデルがほしい」、または、「自宅の腕時計ケースに並べるときに、この1点があると雰囲気が変わる」といったように次々と欲しいモデルが出てきます。そして、実際に新規で購入したり、買い替えたりすることで市場は回っていきます。
この「1本購入したからと満足せず、次々と追加や買い替えを行う」というファンの特性が、高級時計投資の原動力になっています。
腕時計投資は「売買差益+使った満足感」で考えるのが基本
━━高級腕時計は、富裕層の方も所有していると思いますが、基本的に複数本所持する人が多いのですね。
複数本所持というスタイルによって、人気のモデル、ブランドであれば、供給に対して需要が大きく跳ね上がるような環境を生みやすくなります。そのため、購入時に40万円だったものが、数年後に百万円台の金額に変化することもあります。
また、今、腕時計投資をすすめる理由は、社会的なお金の使い方の変化にもあります。腕時計ブームと呼ばれた1990年代に、多くの腕時計ファンが「買えないけれど、欲しい」と考える腕時計の価格は100万円ほどでした。しかし、2019年現在の相場では、この金額は高騰し、800万円ほどになっています。投資として価値が上がっているという側面もありますが、大きな原因としては世の中の感覚が変わったと言えるでしょう。
もちろん、90年代にも800万円の腕時計というのは存在しました。しかし当時は「自分には関係のない一品」という感覚が大多数を占めていたんです。それが約20年で多少金額は高くても、よりよいものを購入したいと考える層が増え、高級品へのハードルは大きく下がりました。
そして、実際に購入に至る層が増えたことで、こういった腕時計の在庫も一定期間でなくなるようになったのです。在庫がないということは、中古市場に需要が向かいます。そのため、投資の対象としての価値も比例して上がると言えます。
━━こういった市場背景を理解した上で高級時計投資をはじめた方がよさそうですね。
そう思います。こういった流れを踏まえ、「これから人気が出そうだ」というモデルを価格が上がらないうちに購入するのが腕時計投資の第一歩です。
そして、もうひとつ重要なのは、購入した腕時計は、ストックしている間に、自分自身でも使用できるということです。たとえば、100万円の腕時計を数年自分で使用して、売却時の相場が200万円だったとしましょう。実際には買い取るお店の利益があるため、200万円より安い買い取り価格になったとしても、利益が出ますし、さらに自分がその間使用したことで満足感を得られます。また、得た利益から、新たにワンランク上のモデルの腕時計を購入することもできます。
このように高級腕時計投資は、「売買差益+使った満足感」で考えるべきだと言えます。使って楽しむことを考えると、相場の安いものばかりを購入すると満足感は少なくなります。ですから、ある程度の価格の時計を投資対象にすることをおすすめします。心理的にも経済的にも楽しみながら投資をできるのが、腕時計投資の一番のメリットです。
腕時計投資の初心者は、まず腕時計の知識を養うところから
━━腕時計の買い替えを行いやすくなり、投資効果も期待できるというのは、高級腕時計ファンにはたまらないメリットですね。初心者は、どのようにはじめ、また売却すればいいでしょうか。
まず、まったく腕時計の知識を持っていないという方であれば、パテック フィリップ(Patek Philippe)やロレックス(ROLEX)あたりのメジャーブランドの腕時計を1本購入してみるといいでしょう。ただし、最初に買う1本は、腕時計に詳しくなった未来のあなたからすると「イケてない選択」である可能性が高いため、利益は狙えないと思ったほうがよいでしょう。
そうして、その腕時計に愛着が湧いたり、興味が出てきたりすれば、腕時計についての知識が自然と身についていきます。腕時計投資には、盤面の仕様やデザイン、内部の駆動についての知識がある程度あったほうがよいでしょう。
これらの知識は腕時計ファンであれば通常持っている範囲のもので構いません。ただし、まったく知識がないとなると、これから相場が上がりそうな腕時計について予測することが難しくなるでしょう。
━━購入先は、どのようなところを選べばよろしいでしょうか。
これは腕時計についてある程度の知識があるという前提になりますが、質屋や有名時計店など業者での購入をおすすめします。基本的には、ABランク以上の状態表記であれば問題はないでしょう。
また、高級腕時計はブランド品のため、ニセモノも出回っていますが、業者であればその確率は低いと言えるでしょう。もちろん、中には状態のよくないものを販売している店舗もあります。これは、過去のお客さんのレビューを確認することで判別がつく場合もあります。
もしも状態のよくないものを購入してしまったとしても、ニセモノでない限り高級腕時計は購入後に価値が0円になることはほとんどないアイテムです。
一例をご紹介しますと、珍しいことではあるのですが、私自身もあまり評価のよくないショップから購入したら状態がよくなかった、ということがありました。いろいろ交渉したのですが誠意ある返答をもらえなかったため、その時計はしばらく所有したあと、やっぱり気に入ることがなかったので売却しました。
その際、購入金額とほぼ同じ金額で売却できました。これは、時計は車などと違い、使った頻度や量で査定金額が下がることが少ないからなのです。そのため、大きな損をするリスクは少ないと考えられます。ネットで高級腕時計を購入することが不安という方もいるかもしれませんが、そこまで心配する必要はないと言えるでしょう。
━━購入時に、腕時計の付属品として気をつけたほうのいいものはありますか。
ラバーベルトは気をつけたほうがいい部分です。革ベルトの場合は消耗品のため、正規のものから交換されていても問題ありませんが、ラバーベルトは他社製となると評価が変わる場合があります。
また、交換することで評価が下がる部分で言うと交換後の革ベルトも尾錠(びじょう)という、ベルトの留め具、ここだけは正規のものか確認したほうがいいですね。元箱の有無を気にされる方がいますが、一般的な時計なら箱がなくてもそれほど評価に影響しません。
あとは、ロレックスのアンティーク品などは保証書があったほうがいい部分です。本物かどうかの判定が非常に難しく、この保証書でしか判別できないこともあります。むしろ、腕時計に慣れていない人であれば、こういったアンティークの商品は狙わないほうが無難でしょう。
━━売却先は、どのようなところがおすすめでしょうか。
これまでに売却経験がないという人であれば、買い取りを行っている時計店の実店舗に持ち込んでみましょう。この際、数店舗を回ったほうがいいですね。同じ時計であっても店舗によって買い取り金額が変わります。自分自身の経験で言うと徒歩数分歩いた先の店舗で数万円の金額差になったこともありました。複数店舗を回ることで相場感も理解しやすくなります。
腕時計投資は“自身で使用しながら”を強く意識する
ここまで腕時計投資の魅力を解説してきましたが、もちろんデメリットもあります。リーマンショックのときは、多くの方が買い控えなどを行ったために高級腕時計の相場が著しく下落しました。
当時販売されたばかりの注目モデルは、半年で半値以下の価格まで下落したことを覚えています。ほかの投資と同じように、経済情勢によって価格下落の可能性があるということは覚えておきましょう。ただし冒頭で触れた通り、安いときに購入して高いときに売るのが原則ということは、価格が下落したときは購入のチャンスと捉えることもできますね。
腕時計投資の最大のメリットは好きな時計を使いながら投資ができるということです。そう考えれば、価格が下がったときに欲しいモデルを購入する。そして、実際に使いながら市場の様子をうかがって、回復傾向になったときに売却するというのが非常に有効な手段と言えるでしょう。(提供:Wealth Lounge)
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