優秀な記者ほど「雑談」をする?

――やはり「何がわからないか」を知ることが大事なのですね。

「これはNHKの社会部時代の話ですが、当時、取材を終えて帰ってくると、必ず周りの人に取材先の話を披露している先輩がいました。私は横で原稿を書きながら『ダベってないで早く原稿を書けばいいのに』と思っていたのですが、実は先輩は、周りの人に話すことで聞き手の反応を見ていたのです。

もし、つまらなそうな顔をしていたら『この話から入ったら退屈なんだな』とわかるし、意外なところで『それは面白いですね』という反応が返ってきたら、そこから記事を書き始めればいい。

実は『周りの人に話すこと』が、いい原稿を書く重要なポイントだったのです」

――自分が「面白い」と思ったことが、必ずしも相手にとって面白いとは限らない。

「そう。だからこそ、周りの人にとりあえず話をしてみる。そして、その反応に応じて、どの話から入るか、どの話を強調するかといった組み立てを考えるのです。テレビの世界では『構成』と言われるものです」

その発言、スクランブル交差点で叫べますか?

――『伝える力』を出した当時と今とで大きく違うのは、SNSの発達だと思います。当時もブログはありましたが、その後、ツイッターやフェイスブック、インスタグラムといったSNSが続々と現れ、若者の間ではコミュニケーションの中心となりつつあります。そんな状況の中、「伝え方」はどう変化してきているのでしょうか。

「伝え方の基本は変わらないと思いますし、むしろ、伝える力の重要性はますます高まっていると思います。現代ではちょっとした発言が『炎上』してしまうリスクがあるからです」

――「バカッター」の事件などがしばしば話題になっています。

「私がよく言うのは、『SNSでの仲間内でのやりとりは、渋谷のスクランブル交差点で、道路の向こう側にいる友達に向かって大声で話しているようなものだ』ということ。SNSで発言する際は、本当にそんな状況で話していい内容かどうかを常に考えるべきです」

――(笑)(涙)などの多用や、顔文字、スタンプなど、文章での表現方法も変わってきています。

「こうした表現は、確かに便利なところもあります。『お前、バカだな』と書くとケンカになりますが、『おまえ、バカだな(笑)』とすれば、本当にバカにしているわけではないことがわかります。最近ではビジネスの場面でも(笑)(汗)なんて表現を使う人もいますね。 ただ、本来は絵文字などに頼らずに、相手に誤解を招かない表現方法を磨くべきだと思います」