今、求められている「伝える力」とは?
コミュニケーション論のベストセラー『伝える力』が、この3月、ついに200万部を突破した。10年以上前に発刊されたにもかかわらず、今でも多くの読者に支持されるのはなぜか。この十数年で「伝える力」の重要性はどのように変わってきたのか。池上彰氏に「伝える力の重要性」について、改めてお話を伺った。
『伝える力』誕生のきっかけは「こどもニュース」だった
――『伝える力』がついに200万部を突破しました。2007年の発売以来、これだけ長く、多くの読者に支持されてきた理由はどこにあるとお考えですか。
「コミュニケーションについての悩み自体は、今も昔も多くの人が持っていたと思います。ただ、そのニーズに直接答えるような本が、当時は少なかったのではないでしょうか。
そこに『伝える力』という、力強くもスッキリとしたタイトルの本が出たことで、『そうそう、こういう本がほしかったんだ』という読者のニーズを喚起できたのかもしれません」
――本書の出版後、同テーマの本が相次いで発売され、海外のコミュニケーション論に関する翻訳書なども増えてきた印象があります。
「ちょうどその流れに乗れたことも、これだけ長く、多くの人に読んでいただけた理由かもしれませんね」
――本書執筆のきっかけになったのは、「THE21」のインタビュー連載でした。
「ちょうどNHKを退社し、11年間続けていた『週刊こどもニュース』の仕事を辞めたばかりの頃でした。この番組は日々のニュースを子供たちにわかりやすく説明することを目的としたもので、私が『お父さん』となり、子供に伝えるという形式を取っていました。 大人向けの単語をそのまま使っても子供には通じませんので、どう言い換えれば子供にもわかってもらえるかを、当時は常に考えていました。
その直後にインタビューを受けたことで、『自分は物事を伝えるにあたって、何を重視していたのか』を意識的に振り返る良いきっかけになりました」
大人に対しても「子供に伝えるつもりで」伝える
――「子供」に伝えるために磨いたテクニックが、実は大人にとっても役立つものだった。
「相手が子供であっても大人であっても、『自分とは違う人に物事を伝える』という点は同じです。ただ、子供に対しては言葉を選んで話す人も、大人に対してはそれを忘れがちなことが多いように思います。
同じビジネスパーソンであっても、会社や業種が違えば、相手と自分の常識は違ってきます。こちらが通じると思った言葉が通じなかったり、まったく違う意味に受け取られてしまったりすることもあります。同じ会社の人であっても、年齢や役職、育ってきた環境はそれぞれ違いますので、やっぱり言葉が通じるとは限りません。
相手がどんな常識を持っていて、どのような言い方をすれば伝わるのか。それを常に意識することが、伝えることのスタートだと思います」