記者時代の「上から目線」の失敗談
――「こんなことも知らないの?」と、イライラすることはないのですか?
「実はこれについては、失敗談があるのです。NHKの記者時代の話ですが、文部省の記者クラブで一緒だった民放の若い女性記者から『池上さんは私が何か言うたびに「そんなことも知らないのか」って顔をされて、とても怖かったんです』と言われてしまったのです。
新聞社やNHKでは、当時の私も含め、中央の官公庁は地方勤務などを経たベテランが担当することが多かったのですが、民放では大学を出たばかりの若い人が配属されることもありました。当然ですが、取材力には大きな差があるわけです。
とはいえ、そんな顔をしていたとはまったく自覚していなかったので、とてもショックでした。自分はそんな上から目線でモノを言っていたのか、と……。
その後は『知らない』『わからない』という人に出会うと、『知らないっていうことを、私に教えてくれた。ありがたいことだ』と思うようになったのです。番組で芸能人のゲストがびっくりするような質問をしても『なるほど、そういう視点があるのか。教えてくれてありがとう』と、むしろ嬉しくなるのです」
とりあえず「周りに伝える」ことから始めてみよう
――自分の話がうまく伝わらないことに悩んでいる人は多いと思います。そんな人は、何から始めたらよいでしょうか。
「まずは、自分の家族などの身近な人に伝えてみることだと思います。自分が気づいたことや知らなかったことを、周りの人に積極的に話してみるのです。
大人はプライドがあるので、わからなくても『わからない』と言ってくれませんが、家族ならちゃんと『わからない』と言ってくれますよね。これが大事なのです。
自分の話のどこがわかりにくいのかは、自分ではなかなか気づけません。家族でなくてもいいので、正直に、あるいは辛辣にズケズケ言ってくれる人を見つけて指摘してもらう。それが伝える力を磨く近道です」