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人気メニュー「担々水餃子」780円(画像=Foodist Media)

「喜ばそう」じゃなく「感動させよう」。追及することの大切さ

『一歩一歩』では、その大量のメニューを年に5回、季節を先取りする形で変えていく。大谷さんは、いつ、どんな商品が売れたか、その内訳をスタッフと共有する。ときには数年前のデータを掘り出して、料理・サービスを向上するために徹底的に話し合う。この日も月に1回行われるという、商品開発者と各店舗の店長によるミーティングが開催されていた。

「とにかく追求することを大切にしています。昨日は本店のメンバーとミーティングがあったんですけど、うちの理念で頑張ってると『お客様を喜ばそう!』という考えを持つようになる。でも、店長がその思考じゃダメだと。『お客様を感動させよう』って思わないと喜ばないよと。例えばお客様からコートを預かったとき、『喜ばそう』じゃなく『感動させる』って考えたらどうする?と聞いたんです。そしたら『匂いがうつらないようにカバーに入れてあげたほうが喜ばれるかも』『雨・雪が降っていたときには、コートを拭いてあげる布を用意したほうがいいかも』って意見が上がって。だから僕は『いいじゃん、いつからやるの?』ってすぐに返しました。そこまで分かってるんだったら、明日からすぐやりなさいと。なんだったら、お客様からコートを預かったら、ポケットにホッカイロとメッセージカードを入れたらいいじゃんって。うちは店を出るときに天然だしを手渡ししているので、外に出たときに(天然だしを入れるために)ポケットに手を入れる方が多いんです。そのときにホッカイロとメッセージがあったら感動してもらえるんじゃないの?って。ビックリさせるくらいの発想をしていかないと、理念じゃないよって話をしてました」

サービスを超えた「究極の思いやり」の精神。それこそが繁盛の秘訣であり、地域の人の目を変えていった理由なのだろう。そして4月、魚屋『ツキアタリミギ』をオープンさせる。これは大谷さんの「ある思い」から発展したものだ。

「この辺りって肉屋はあるのに、魚屋がないんです。なんで魚屋がないんだろうってずっと思ってて、だったらやっちゃおうと。入口で魚を買えるようにして、中にイートインのスペースを作る。魚屋だと思って入ったら、中にカウンターがあって、そこで新鮮な魚を食べられる。さらに飲める!みたいな、そういう仕掛けをやりたいなぁと思ってます。それで今週、かますの干物を75円で契約する予定なんですよ。店頭では100円で売ります。それだと25円しか儲けはないんですけど(笑)。でも、魚屋ってそういうものじゃないですか。それに100円だったら、主婦の方が家族分4枚買ったとして400円でしょ。家でごはんや卵焼き、味噌汁をつけて、腹いっぱい食べても4人で原価1000円くらい。もうそれって最高じゃない? 僕らって外食産業の枠に入ってるとは思うんですけど、腹の底で思ってることは『腹いっぱい食べて欲しい』ってことなんですよ。喜びを街の人たちに還元していけば『一歩一歩って店を作ってるだけではないよね』って思ってもらえるんだろうし、街もよくなっていくんじゃないかなって思ってます」

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海老を豚肉で巻いた「海豚炙り焼き」380円(画像=Foodist Media)

一歩一歩、着実に前進。そして、その先にあるもの

熱を込めて話す大谷さんの背景に、人情味あふれる下町ならではの、古き良き時代の風景が自然と思い浮かぶ。その温かな人柄と確かな手腕で、北千住という街に明かりを灯してきた。一歩一歩着実に前進して、11年目。いま大谷さんが目指していることとは。

「街を上から見たときに、『街全体に俺ら、スーパーマーケット作っちゃったな!』って思えるようなことをしたいですね。その方がお客様にも地域にも還元できるし、面白いんじゃないかなって。僕の中では、この街に20店舗まで増やしたいと思ってるんですよ。で、10店舗減らそうと思ってます(笑)。社員にそのまま社内独立させようと思ってるんです。いまの子って独立したくても、お金の問題とかでなかなか難しいでしょ。だからサポートできればと思ってます。10店舗増やすにはあと10年かかると思うんですけど、その頃にはオリンピックが終わって少しずつ東京の人口が減っていく時期。たぶん、チェーン店よりも、個人店のバイタリティのあるお店に人が集まっていると思うので、個人店ならではの演出をしてくれたらなと思ってます。でもグループだから仕入れはメリットあるよ、と(笑)。そんなことをしながら進めていきたいですね。面白いことをどんどんやっていきたいです」

面白いことを、もっと。大谷さんのあくなき挑戦は続いていく。

『一歩一歩 本店』
住所/東京都足立区千住3-53
電話番号/03-3870-9395
営業時間/17:30~L.O.23:30
定休日/無休

(提供:Foodist Media

(執筆者:逆井マリ)