創業期に苦労はつきものだ。経営者一人の力では乗り切れないことも多い。古くから日本の商家には「番頭」と呼ばれる存在がいて、主人やその後継者の右腕となって店を切り盛りしていた。

パナソニックの松下幸之助氏と高橋荒太郎氏、ソニーの盛田昭夫氏と井深大氏。ホンダの本田宗一郎氏と藤沢武夫氏などは、経営者と軍師となる右腕的パートナーの成功例として知られている。

「最も近しい他人」、配偶者はビジネスパートナーになり得る?

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(画像=wavebreakmedia/Shutterstock.com)

このように、経営者には右腕的な存在が必要だが、なかなか理想の経営パートナーを探すのは難しい。時として経営者にとって最良の“右腕”とは、互いをよく知る「あの人」かもしれない。それは、最も近しい他人――配偶者だ。

昔はよく「糟糠の妻」「内助の功」などと言ったものだが、女性の社会進出が進むにつれて、人知れず夫を影から支えるだけでなく、対等なパートナーとしてビジネスの才能を発揮させる女性も増えている。

夫婦二人三脚での成功例として知られるのが、一代で「CoCo壱番屋」を日本一のカレーショップチェーンに育てた、宗次德ニ・直美夫妻だ。

妻の手作りカレーが世界に羽ばたく飲食チェーンに

宗次德ニ・直美夫妻が知り合ったのは、2人が大和ハウス工業に勤務していた頃。夫妻は結婚を機にマイホームを建て、不動産業で独立した。

不動産仲介業だけでも生活が成り立つほどの収入は得られたが、汗水垂らして働く仕事ではないことに疑問を感じ、始めたのが喫茶店だ。

名古屋市内で開業した喫茶店「バッカス」は繁盛し、まもなく2号店もオープンする。そこで食事の出前を始めるにあたり、メニューに取り入れたのがカレーライスだった。

妻の直美氏が作るカレーが好評を得たことから、3号店はカレーショップにすることを決めたという。そして昭和53年、ついにカレー専門店「CoCo壱番屋」の一号店をオープンした。

つまり、日本一のカレーチェーンの始まりは、妻の手作りカレーだったのだ。いまや「ココイチ」は国内外で1477店体制となっている(2019年2月末現在)。

「結婚してから右肩上がり」ココイチ成長の秘密は妻

ココイチが成長する過程でも、夫の徳二氏が出店計画を担当し、妻の直美氏が資金繰りを受け持つという夫婦のコンビネーションが奏功した。インタビューや講演では、「嫁さんは人間性が豊かで、一緒にいると楽しい」「嫁さんと結婚してから、急激な右肩上がりになった」「壱番屋の成長の秘密は嫁さん」と常に妻に感謝を示す。

宗次氏がココイチの経営にあたっていた時代、直美氏が外出していると2、3時間おきに電話がかかってくることもあったという。「両親の顔を知らない」徳二氏は、母親像を妻に重ねているのでは、と直美氏はインタビューで話している。

徳二氏は2002年に53歳で社長引退を決め、直美氏がその後を引き継いだ。その後、19歳からココイチでたたき上げた浜島雅哉氏に経営をバトンタッチしている。

良い経営は、良い経営者夫婦から

徳二氏の持論は「良い経営は、良い経営者夫婦でないとできない」。その信念は自らのみならず、フランチャイズののれん分けにもつながっている。ココイチは「ブルーミングシステム」という独自のフランチャイズ制度で知られるが、独立の条件のひとつは「夫婦で店に入ること」だという。「生業にこだわってほしい」という願いから、独立を志す人にそう呼びかけているという。

独立を志す人の中には、「夫婦で一緒に会社をやるのは止めた方がいい」「夫婦で一緒にやると、上手く行かない」と忠告を受けた経験がある方もいるかもしれない。たしかに、一緒に事業を始めると夫婦の意見が合わずにケンカが絶えなかったり、従業員との関係がうまくいかなかったりというケースもある。

ただ、宗次夫妻のように創業期からの苦楽をともにして、大きな成功に導いた例もある。
経営者にとって最良の“右腕”は、身近にいる配偶者かもしれない。(提供:百計ONLINE


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