燃料税の引き上げに抗議するデモ「黄色いベスト」運動が収まる気配を見せないフランスにおいて、事態の収束に向けてフランス政府は富裕税を見直す方針を明らかにした。フランスで注目を集める富裕税について、他国のユニークな税制という印象を持つかもしれないが、実際には戦後の日本においても同様の税が導入されていた歴史がある。その当時の状況と、今なお富裕税を採用する他国の状況を確認することで、富裕税がもたらすメリット・デメリットを整理していこう。
格差税制に向け、欧州に遺る富裕税
そもそも富裕税とは、純資産税とも呼ばれるが、主に個人が保有する不動産をはじめとする有形資産、預金や有価証券の金融資産などを対象とし、こうした総資産額から負債額を差し引いた純資産に対して課税される。課税対象となる純資産額や税率は、富裕税を導入している国によって様々であり、具体的な純資産の額に応じて線引きしている。
1980年代、富裕税は欧州において10を超える国で導入されていたが、その後、廃止する国が相次いだ。冒頭で紹介したフランスに加え、ノルウェー、スイスが富裕税を継続したほか、一旦廃止したものの、2008年の金融危機を契機に、制度を復活させたアイスランドとスペインのような例もある。欧州以外でも、1950年代には、バングラデシュ、インド、パキスタン、スリランカといった南アジア諸国でも採用されていた。
富裕税が導入される背景には、近年注目を集める格差への対策という側面がある。この税の導入により富の偏在を是正するメリットがあるとされるほか、一定程度の税収を見込むことができる。一方、デメリットとしては、税負担を嫌う富裕層が国外に資本を移す動きが生じる。グローバル化された社会では、タックス・ヘイヴンとして、こうした富裕層を引き付ける国や地域が存在し、富裕層の国外流出により、結果として富裕税を課す国の税収が落ち込む事態に陥る。また、課税対象となる不動産の評価額の査定など徴税作業に手間を要する一方、富裕税が全体の税収に占める割合はそれほど高くはなく、費用対効果では必ずしも効率的な税制ではないという指摘もある。
日本の富裕税はわずか3年で廃止
欧州諸国にいまなお遺る富裕税だが、かつては日本でも税制の一種として存在していた時期がある。第二次世界大戦後、日本の所得税率は最高で85%という極めて高い負担が課されていた。1949年シャウプ博士を中心とした日本税制使節団 (シャウプ使節団) が日本の安定的な税務行政の確立のため来日。所得税の最高税率を引き下げる一方、それに伴い減少する税収を富裕税により補うよう勧告し、1950年に富裕税が導入された。しかし、欧州でみられるように、税収全体に占める割合が多くなかったにも関わらず、個人の資産把握が困難なため、1953年には早くも富裕税は廃止に追い込まれてしまった経緯がある。
近年の日本の税制改正において、富裕税はなかなか俎上に載らないが、格差が日本社会にも広がる一方、パナマ文書により、日本人富裕層も租税回避のため、資産を海外に流出させている動きは明らかになっている。国税庁も富裕層の資産運用の多様化や国際化に対応して、海外取引などを調査して追徴課税を実施するなどの対策に乗り出している。2019年には消費税率の10%への引き上げが予定されており、逆進性の問題を抱える消費税率アップによる不満を和らげるために、富裕税の検討に言及することが消費税に対する不満を和らげる効果を指摘する声もある。富裕税を他国の制度として関心を払わないのではなく、実際に日本に導入された場合にどのような影響をもたらすのか、今後の動向に注目が集まる。(提供:大和ネクスト銀行)
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