(本記事は、午堂登紀雄氏の著書『私が「ダメ上司」だった33の理由』=日本実業出版社、2018年7月1日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

同じことを言うのに疲れてしまった

私が「ダメ上司」だった33の理由
(画像=『私が「ダメ上司」だった33の理由』※クリックするとAmazonに飛びます)

教訓
コアメッセージは何度も繰り返せ。
事例やエピソードは変えて飽きさせるな。

●セブン-イレブン鈴木敏文氏の語り続ける力

コンビニ業界の王者セブン-イレブンを創業期から育て上げた鈴木敏文元セブン&ワイ会長は、毎週開かれるOFC(オペレーション・フィールド・カウンセラー:店舗経営指導員)会議で、何十年も同じ講話をしていたそうです。

たとえば仮説検証、単品管理、フレンドリーサービス(感じのよい接客)、クリンリネス(清潔さ)など、毎週毎週手を変え品を変え、何百回も同じ話をしていたというのです。

平均日販でいまなお競合2位以下を大きく引き離すトップチェーンに君臨し、現状に甘んじることなく、つねにイノベーションを起こして業界をけん引する企業に育てたのは、その理念が定着するまで彼が滾々と語り続けたゆえんだと言っても過言ではありません。

翻って私はどうだったか。「机の前に座ってばかりいないで、現場に出ろ」「新しい提携先を開拓してこい」などと、最初は言っていましたが、同じことを繰り返し言うのが面倒くさくなってしまったのです。

とくに注意に関しては「何度も同じこと言わせるなよ」と疲れてきて、ついには「予算の数字だけ上げてくればいい」という態度になってしまいました。

しかしそれでは、社員は放置されたように感じたでしょうし、ただ売上をあげればいいロボットなのか、という印象を持った部下もいたかもしれません。

また、「宅建試験の合格は必達目標だ」と言っていましたが、なかなか合格しないスタッフに対し、「もっと勉強しろ」とは言わなくなりました。おそらく社員は、「社長はもう宅建は重要ではないと考えている」と感じてしまったと思います。実際、5年間で一人しか合格しませんでしたから。

とくに、仕事に対するスタンスや考え方、ビジョンなどについては、1回や2回、思い出したように言うのではダメで、「またその話?」と思われるくらい何度も繰り返すことが必要です。そうやってスタッフがそらでも言えるくらい繰り返す。

朝礼で社訓を読み上げる企業があるのも、そういう「インストール効果」を狙っているのでしょう。

●伝えたいコアのメッセージは同じで事例を変える

もちろん、同じ話を壊れたレコードみたいに繰り返していたのでは聞くほうも飽きてスルーされますから、前述の鈴木敏文氏のように、事例やエピソードを変えて飽きさせないよう、でもコアのメッセージは同じことを言うのです。

たとえば会社の経営方針を、年度の始めに発表する会社は多いと思いますが、それをわかりやすくかみ砕き、部下に対してしつこく繰り返し説いているリーダーはいるかと聞かれると、そう多くはないでしょう。

同じ注意を何度もするのはイライラするし、同じ目標や方針も何度も言うのは面倒くさいと感じるものです。

しかしリーダーは、500回でも1000回でも、同じことを言い続けなければならない。「何度同じことを言わせるんだ!」と怒鳴りたくなる気持ちをぐっとこらえ、ニコニコしながら何度でも同じことを言う忍耐力が必要です。

そして、価値観の違う部下たちを同じ方向に引っ張り導くためには、自分たちが向かうべき方向を指し示しつつ、つねに後ろを振り返り、部下がついてきているかを確認する必要があります。

「ありがとう」を言わなくなった

教訓
今日、笑顔を向けられたのは何回?
その10倍の「ありがとう」を部下に。

●上司からの「ありがとう」は最も有効な言葉

上司の「ありがとう」という言葉は、「あなたのことを気にかけていますよ」という姿勢を示す、最も有効な言葉のひとつです。

たとえば来客にお茶を出すという行為。この場合、通常は客だけではなく自分にもお茶は出されます。そのときに黙っている人がいます。

たしかに、自分の会社の部下がお茶を出すことに対して、客前でお礼を言ったり、いちいち何かを言ったりする必要などないと思うかもしれません。

しかしこういう発想は捨てて、小さなことであっても「ありがとう」を言うことです(取引先のなかには、その態度を見て値踏みしている人もいます)。

部下のなかには、上司が黙っていると、「上司は自分のことを嫌っているのか?」「自分に対して怒っているのか?」「何か機嫌を損ねるようなことをしてしまったのか?」などと、勝手に不安に感じてしまう人もいます。

だから、何かにつけて「ありがとう」とか「ご苦労様」などの反応を得られないと、「自分は嫌われている」と思い込んでしまうのです。

男女の関係や友人同士でも同じく、たとえばメールを送ってしばらく返事が来ないと、「あれ?嫌われちゃったのかな?何かまずいことでも言ったかな?」と不安になりますよね。

SNSでも「既読スルー」が話題になるのは、無視されることほど彼らにとって強いストレスはないからでしょう。

SNS世代の彼らは、周りからどう思われているか、上司からどう見られているかを非常に気にしています。上司が思う以上に、上司の一挙手一投足を気にしているのです。

これが恋人同士なら、たとえば「私のこと、好き?」などと確認することができますが、上司部下の関係だと、確かめる方法がない。だからよけい不安になる。

そして、部下はその不安を払しょくするため心理的な距離を置こうとします。なぜなら、そうすれば上司の反応に対して無関心でいられるからです。

つまり、部下が自分に無関心だと感じたら、部下が不安になるような態度をとり続けてきた可能性があるわけです。

だから男女で「好きだよ」を示す必要があるのと同じように、部下に示す言葉が「ありがとう」なのです。

●やって当たり前の職場にしてはいけない

業務がルーチンになっていけばいくほど、「やって当たり前」になり、「ありがとう」の言葉も少なくなりがちです。

しかし、いつもの繰り返しで単調だからなおのこと、ちょっとした一言で部下が救われることは多いものです。

私がいままで見てきた経験では、上司から発せられる「ありがとう」という感謝の言葉が少ない組織ほど、雰囲気は暗い傾向があります。

とくに女性社員の多い組織では、上司が率先して「ありがとう」「ごくろうさま」「助かったよ」「また頼むよ」「キミなら大丈夫」という言葉を発していると、職場の雰囲気は格段によいようです。

一方、上司が無意識のうちに「そんなの、やって当たり前だろう」と考えていると、日々のちょっとした感謝やねぎらいの言葉を伝えるのが面倒くさくなり、逆に「なんでこんなこともできないんだ」などという𠮟責の言葉が出やすくなります。

しかし、この「なんで〇〇しないんだ(したんだ)」「なんで〇〇ができないんだ」は禁句です。なぜなら、「答えようがない」からです。

部下のほうは、特段の事情や意図があって「やった(やらなかった)」わけではありません。理由を聞かれても、単純に気づかなかった、考えがおよばなかった、そもそも理由などない、ということがほとんどなので、答えようがないのです。だから黙り込むか、「すみません」と謝るかしかありません。

それどころか、「こっちだって一生懸命やってるのに、なんだよその言い方は!」とふてくされてしまいかねません。

そんなときは「ご苦労さま。でも、ちょっとここが違っているから、直しておいてね」「助かるよ、ありがとう。ただ以前も同じミスがあったから、次からは注意してくれよ」などと、ねぎらいの言葉を組み込んだ言い方にしたほうが、部下のほうも「あっ、ホントだ、ミスってる。気をつけなきゃ」と素直に受け取れるものです。

翻ってあなたは、1日に何回、周囲の人に感謝の言葉を伝えたでしょうか。

「自分は言ってるつもりだけどなあ」と自己評価が高い人の場合、たいてい伝わっていないものです。

そこで「今日は何回、周囲の人が自分に対して笑顔を向けてくれたか」の回数を数えてみましょう。これによって、あなたの言葉がしっかり伝わるチームかどうかを測ることができます。

そしてその数の10倍の「ありがとう」を部下に言うようにするのです。

私が「ダメ上司」だった33の理由
午堂登紀雄(ごどう・ときお)
1971年岡山県生まれ。中央大学経済学部卒。米国公認会計士。大学卒業後、東京都内の会計事務所にて企業の税務・会計支援業務に従事。大手流通企業のマーケティング部門を経て、世界的な戦略系経営コンサルティングファームであるアーサー・D・リトルで経営コンサルタントとして活躍。2006年、株式会社プレミアム・インベストメント&パートナーズを設立。最盛期は30人ほどの従業員を抱えていたものの、リーマンショックの影響で資金繰りが悪化し、あえなく空中分解。現在は個人で不動産投資コンサルティングを手がける一方、投資家や著述家としても活躍。

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