(本記事は、午堂登紀雄氏の著書『私が「ダメ上司」だった33の理由』=日本実業出版社、2018年7月1日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

「部下のビジョン」を聞かなかった

私が「ダメ上司」だった33の理由
(画像=『私が「ダメ上司」だった33の理由』※クリックするとAmazonに飛びます)

教訓
将来像に合わせて、仕事を任せれば、
モチベーションが上がる。

●部下に「将来どうなりたいか」を聞いておく

上司は部下の将来像について把握しておく必要があります。

単なる労働装置になりたいという人はおらず、同じ毎日がずっと続いてもいいと思っている人は多くないでしょう。個人差はありますが、ほとんどの人は刺激がほしいし、仕事を通じて成長したいという欲求を持っているものです。

とくに優秀な部下ほど、自己の成長に対して高い意識を持っていますから、与えられる仕事の意味付けは重要です。

だから、定期的な面談のときだけでなく、日々の雑談などで部下が将来どうなりたいと考えているのかを引き出しておくと、上司は部下に対してどのように接すべきか、どのようなタイプの仕事を与えるべきかが特定できます。

これは私自身も経験しています。私もサラリーマン時代、上司が自分の将来イメージをよく聞いてくれ、それに呼応する仕事を任せてくれたときは、とてもモチベーションが上がったのを覚えています。

やはり、「上司は自分のことを大事にしてくれている」という実感と、「この会社にいれば自分のやりたい仕事ができる」という期待感は重要だと感じます。

反対に、この両方が失われたとき、部下は辞めていくのでしょう。

●将来像に合わせて仕事を任せる

私の会社の場合、全員が中途入社ということもあり、それぞれが前職での経験を踏まえた将来像を持っていました。要するに前職での不満や不安を払しょくできるような働き方、人材になりたいというわけです。

スターティングメンバーのうちの約半数は、将来は起業したいと聞いていたので、彼らにはたとえば電話回線の契約や名刺の発注、オフィス家具の選定など、起業すれば発生するであろう業務を任せました。

実際、私の会社が崩壊して数年経ったいま、そのときの彼らは本当に起業してがんばっているという話を耳にしています。

そのときの経験がよかったのか、反面教師だったのかはわかりませんが、彼らのその後の発展に寄与できたのなら、結果としてはよかったのかなあと思っています。

●意識高い系につけるクスリ

一方で、頭が痛いのはいわゆる「意識高い系」と呼ばれる人たちです。

彼らはそこそこ頭がよく、向上心が高いように見えるのですが、実際は実務能力には乏しく、「言うだけ番長」という人がほとんどです。泥臭い仕事や地味な仕事が苦手で、早く楽に成果を出したいという都合の良い欲求が強い。

そのうえ「それは効率的でない」「その仕事はやる意味があるのですか」などと正論を吐くなど口も立つので、いちいち面倒な存在です。

しかしそれを無視したりすると、「私はこんなことをやるためにこの会社に入ったのではありません」などと辞表を提出されることにもなりかねません。

それにこういう人物は「仕事の意味」が納得できると、非常にまじめに働く傾向があります。だから、仕事を与えるときには丁寧に説明することが大切です。

あるいは、数字などで成果がはっきり見えるような小さなプロジェクトをまるごと任せてみるのもひとつの方法です。

私の会社にもいました。一見、論理的に話しているように見えるのですが、「そりゃ正論だけど……」「言うのは簡単だけど……」という意見ばかりだし、仕事を与えるときには「これにどんな意味があるんですかね」などと、人を小馬鹿にしたような態度。

そこで、ちょっとだけ予算をつけて、「これを任せるから全部自分でやってみるか?」と任せました。

それは既存顧客にDMを送るという仕事だったのですが、結果は散々なもので、反響はゼロ。それにショックを受けたのか、さすがにその後は「上から目線」の態度は取らなくなりました。

実力のある意識高い系は頼もしいのですが、実力のない意識高い系はうっとうしいもの。

そんなときは一度、本人の実力を明確に知らしめる仕事をやらせてみるのもひとつの手です。もっとも「〇〇がなかったからうまくいかなかったんだ」などと言いわけをするかもしれませんが……。

会議は叱責ばかりだった

教訓
「ねぎらい」で始め、
「叱責」で引き締め、
「鼓舞」で終える。

●「叱責」だけの会議は部下のやる気を削ぐだけ

会社ではさまざまな会議がありますが、そのなかでも憂鬱な会議とは、単調過ぎて眠くなるような会議よりも、叱責ばかりの会議ではないでしょうか。

おそらく多くの会社では、毎週月曜日に会議があり、前週の振り返りと反省、今週の行動計画を共有すると思います。私の会社でもそうでした。

そして当時の私は、会議の組み立てが社員のモチベーションに関わるものだという発想がなく、とくに業績が悪化したときは、叱責ばかりの会議をしてしまっていました。

叱責で始まり、叱責で終わるような会議だと、会議中は上司以外はみなうつむくだけ、会議が終わってもブルーな気分でやる気など起きないでしょう。

ちょっと話がそれますが、映画はなぜ感動するのでしょうか。それはストーリーの多くが、たいていハッピーエンドだからです。導入や途中ではさまざまな逆境に遭い、くじけそうになります。悲しいこともある。

それでも最後は、たとえば成功する、強敵を倒す、愛する人と結ばれるなど、ハッピーで終わるから夢や希望が持てるわけです。

しかしこれが反対だとどうでしょう。失敗して終わる、負けて終わる、別れて終わるというのでは、モヤモヤ感が残るのではないでしょうか。

もっとも、恋愛や冒険の映画ではそういうストーリーもありますが、それは新たな旅立ちを意味する前向きな別れがほとんどです。

これは会議でも同じです。会議を取り仕切る上司は、参加者がやる気や希望を持てるような組み立てを意識して運営する必要があります。

だから仮に叱責したい事項があっても、たとえば「先週はご苦労だったね」などとねぎらいで始まり、「ただ、まだ予算は未達だ。アプローチの量が足りていない」などと叱責で引き締め、「キミたちならできるよ。必要なら相談に乗るしサポートするからがんばってくれ」などと鼓舞で終わる会議の組み立てをすればよかったと反省しています。

●会議でとるべき上司のスタンス

これは会議にかぎらずですが、上司は次の姿勢を持つ必要があります。

・頭ごなしに注意せず、まずは理由を聞く

いきなり叱られると誰でもムッとするものです。それが遅刻でも仕事上のミスでも、「どうしてこうなったのか、まずは状況を教えてくれないか」など、なぜそうなったのかまずは理由を聞いてから。

頭ごなしの注意は、部下の委縮を招きかねません。また、上司がつねに正しいとはかぎらないので、部下の言い分にしっかり耳を傾けることは、勘違いや行き違いを防ぐことにもつながります。

・感情的にならず論理的に話す

人は鏡のようなもので、自分が感情的になれば相手も感情的になります。感情同士がぶつかれば、後味が悪く、引きずります。声を荒げたり、人格否定につながるような言葉をぶつけたりすれば、パワハラとも言われかねない。

それがたとえば遅刻を繰り返す部下であっても、「ほかの人は時間どおりに来ているのに、不公平だと思われないだろうか?それは組織の秩序として適切だろうか?」「もし、ほかの社員から『あいつ遅刻ばかりしているのに給料が同じなんて納得できません』と言われたら、私はどう答えればいい?」などと、あくまで冷静に理屈で指摘をすることです。

・叱責よりも対策に重点を置く

ミスをやらかせば、部下は部下なりに認識して反省しているものです。

それなのに「なんでこんなこともできないんだ」「だから言ったんだ」と追い討ちをかけられると、かえって反発し、保身のためにウソや言いわけをするようになってしまいます。

そこで、「次からはどうすればいいと思う?」「キミができるベストの対応方法を聞きたい」「これをキミの後輩に任せるときは、どう指導するかな?」と相手の口から対策が出てくるように促すことです。

・部下の意見を尊重する

部下が自分の意見を言わなくなる最大の要因は、「言ってもムダ」と思われているからです。人間は「自分が受け入れられている」と思える相手に心を開きます。これは性別、年齢に関係ありません。

だからこれも繰り返しになりますが、「相手の話は最後まで聞く」「頭ごなしに否定しない」「意見を述べてくれたことに感謝する」「全部は無理でも、一部でも部下の意見を取り入れる努力をする」ことが必要です。

・見捨てない

「もういいよ……」と突き放されると、部下は大きく傷つき心が離れることになります。部下にとって、上司から見かぎられることほどつらいことはありません。

そのため、どんなミスや失敗をしても「次に挽回すればいいよ」「今回はいい教訓になったんじゃないかな」「これはこれで大事な仕事だから、次からは頼むよ」などと、親のように「私はキミを見捨てないよ」という姿勢を見せることです。

これらを徹底するのは言うほど簡単ではありません。だからこそ、日々意識することが大切です。

私が「ダメ上司」だった33の理由
午堂登紀雄(ごどう・ときお)
1971年岡山県生まれ。中央大学経済学部卒。米国公認会計士。大学卒業後、東京都内の会計事務所にて企業の税務・会計支援業務に従事。大手流通企業のマーケティング部門を経て、世界的な戦略系経営コンサルティングファームであるアーサー・D・リトルで経営コンサルタントとして活躍。2006年、株式会社プレミアム・インベストメント&パートナーズを設立。最盛期は30人ほどの従業員を抱えていたものの、リーマンショックの影響で資金繰りが悪化し、あえなく空中分解。現在は個人で不動産投資コンサルティングを手がける一方、投資家や著述家としても活躍。

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