(本記事は、安達裕哉氏の著書『すぐ「決めつける」バカ、まず「受けとめる」知的な人』=日本実業出版社、2019年2月10日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

議論がヘタな人は、勝ち負けばかり気にしている。

 すぐ「決めつける」バカ、まず「受けとめる」知的な人
(画像=『 すぐ「決めつける」バカ、まず「受けとめる」知的な人』※クリックするとAmazonに飛びます)

コンサルタントをやっていたころ、「議論」をしている場を見る機会がよくあった。「見る」と言ったのは、私が議論に参加することはほとんどなかったからだ。

というのも、会社には「お客さんとは絶対に議論するな。お客さん同士で議論してもらえ」という原則があり、私はそれを忠実に守ったのである。

そのため、私は第三者として、さまざまな会社で、多くの議論を見る機会に恵まれた。そこで1つ気づいたことがある。

「議論のうまい人」と「議論がヘタな人」は、非常にはっきりと分かれるのだ。

当然、人によって「議論」という言葉に対して抱くイメージは異なるだろうから、まずハッキリとさせておかなければならないのが、「議論」の定義だ。

『広辞苑』には、次のように書かれている。

【議論】
互いに自分の説を述べ合い、論じ合うこと。意見を戦わせること。またその内容。

私が見てきた議論のほとんどは、会議やディスカッションなど、「複数の人が議題について意見し、他者を説得し合う行為」だったため、この定義に当てはまる。

具体的には、議論は「会議」「意見交換会」「勉強会」など、さまざまな場所で起こり得る。

では、「議論のうまい人」はどのような特長を備えているのだろうか?

(1)議論のうまい人は、「勝ち」「負け」を気にしない

最も重要な原則のうちの1つは、議論のうまい人は「勝ち負け」をほとんど気にしない、という事実である。

彼らは自分の言い分が否定されても、ほとんど意に介さない。

なぜなら、彼らの目的は「議論に勝つ」ことではなく、「自分の知力を見せつけること」でもなく、「議論をすることで、いいアイデアを出すこと」だからだ。

したがって、彼らの発言には必然的に、

「そういう見方もあるんですね」
「気づきませんでした」
「理由を教えてください」
「それはもっといいですね」

などと相手の発言を利用して、もっといいアイデアを探ろう、という意図が見受けられる。

また、彼らはどんなにイマイチに見える意見に対しても、「何をバカな」という態度はとらず、「なぜ、彼がそのような発言をしたのか?」という背景を探ろうとする。

彼らは、それが結果として「卓越したアイデア」につながる可能性を高めることを知っているからだ。

(2)議論のうまい人は、「事実」からスタートする

私の同僚に、めっぽう議論のうまい人がいたが、彼は常に「事実の確認」から議論をスタートさせた。

たとえば、次のような発言である。

「まず、クレームがここ半年で増えている、というのは事実ですか?どの程度増えているんですか?」

「若手の営業の力量が低い、というのは何を根拠に言っているのでしょう?」

「最近は競合にコンペで負けることが多い、という報告がありましたが、それはどの程度でしょう?」

逆に、議論のヘタな人たちは「事実」を把握しないまま、「なんとなく自分がそう思うから」と議論をスタートさせるので、数字や事実確認の方法を突っ込まれると、何も言えなくなってしまう。

「議論のうまい人」たちは、思い込みや先入観をでき得る限り排除しようと、常に気を配る。

(3)議論のうまい人は、「あるべき論」を振りかざさない

議論がヘタな人の特徴の1つが、「あるべき論」への固執だ。

あるべき論に固執すること、すなわち「オレは意見を変えない」の表明は、議論を停滞させる。

たとえば、あるサービス業の話だ。

複数の営業マンが「既存客の対応で手いっぱいであり、新規開拓をする暇がない」と言うので、上司に相談をした。

そこで上司は、対策のための会議を開くことにした。

会議の場で、若手がこう提案した。

「一部の既存客は、手がかかるだけで売上につながらない。こういった客は切っていくほうがいいのでは」

すると、ベテランの1人、Uさんが言った。

「どんなお客さんでも、丁寧に扱うべきだろう」

何人かのベテランが、それに賛同した。

若手はそれに対して、反論した。

「おっしゃることはわかりますが、今のままでは無理です。たとえば、私の担当は30社ありますが、3社のお客さんで全体の半分近くの時間を取られています。逆にその3社の売上は、全体の2割程度しかありません」

ベテランのUさんは怒った。

「30社程度で何を甘ったれているんだ。営業の効率が悪いだけだろう。与えられた既存客を死守するのが、営業の役割だ」

若手は「これ以上議論してもムダだ」と思ったのか、黙り込んでしまった。

険悪なムードの中、上司が割って入る。そして、若手に言った。

「まあまあ、なぜUさん(ベテラン)が『どんなお客さんでも丁寧に』と言うのはわかるね」

「……はい」

「お客さんの選別を、というと何かこっちが偉くなったような気持ちになりがちだから、それを戒めただけだよ」

「それはわかります」

「でも、新規開拓できないのは困る。Uさん、どうすればいいかね」

ベテランのUさんは話を突然振られて、焦ったようだった。

「……えー、営業の効率を上げるべきだと」

上司は言った。

「そうそう、それはわかってるんだけど、どうしたら具体的に営業の効率を上げられますかね?私もそれは重要だと思っているんだが」

この上司は非常に柔軟で、「あるべき論」を語る人の感情に配慮しつつ、若手とベテランから具体案を引き出すことに長けていた。

こういう人を「議論の巧者」と呼ぶべきなのだろう。

(4)議論のうまい人は「議論の目的」を忘れない

議論のうまい人は、「議論の目的」を忘れない。当たり前のように感じるが、重要なことだ。

とくに、盛り上がる議論はあちこちに話が飛ぶので、いつの間にか当初の目的とは異なる話に花が咲く、ということが頻繁に発生する。

私の先輩に当たる人は、このコントロールがうまく、話の本筋を外さなかった。

彼が必ずやっていたのが、次の3つのステップだ。

1.「この議論のゴール」の確認から始める。 ↓ 「今日のゴールは◯◯ですよね?」と全員に尋ねる。

2.「この議論のゴール」を皆が見えるところに掲げる ↓ 「今日はここまでやります」と言って、ホワイトボードに目的を書き出す。

3.「この議論のゴール」を書き出して終了する ↓ 「今日の議論の結論は、こうなりましたけど、いいですか?」と言って、終了する

こういった「当たり前のこと」をきちんとやることで、彼は議論を実りあるものに変えていた。

(5)議論のうまい人は「議論する価値のあることだけ」議論する

ここまでに挙げたことはテクニックとして重要なことではあるが、真に重要なのは、「議論する価値のあることだけ議論する」という態度である。

冒頭で、「コンサルティング会社には「お客さんとは絶対に議論するな。お客さん同士で議論してもらえ」という原則があると書いた。

なぜ、そんな原則を守るのかと言えば、「コンサルタントは意思決定者でもなく、実行者でもない」という現実があるからだ。

お客さんと議論をして、アイデアが生まれたとしても、お客さんの能力に見合ったものでなければ意味がない。

また、「自分たちのアイデアである」という自負がなければ、責任感も生まれない。

したがって、我々が成すべきことは「お客さん同士の議論が、実を結ぶようにサポートすること」であった。

そのため、「お客さんとコンサルタントの議論」はほとんど価値がない。せいぜい、コンサルタントの自己顕示欲を満たす程度である。

ほとんどの人は、「この議論、不毛だよなー」と思ったことがあるだろう。

議論には多くのリソースが必要であるし、その結果の実行のためには、さらに多くのリソースが必要である。

結果として、「議論しないほうがマシ」なことも相当数あるのだ。

たとえば、インターネット上にはさまざまな議論が存在するが、そのほとんどは、多くの人にとって「どうでもいいこと」だろう。

だから、議論は参加する前に、「私の人生の一部を使ってまで、参加する価値があるのか?」を問わなければならないのだ。

 すぐ「決めつける」バカ、まず「受けとめる」知的な人
安達裕哉(あだち・ゆうや)
1975年東京都生まれ。筑波大学環境科学研究科修了。世界4大会計事務所の1つである、Deloitteに入社し、12年間コンサルティングに従事。在職中、社内ベンチャーであるトーマツイノベーション株式会社の立ち上げに参画し、東京支社長、大阪支社長を歴任。大企業、中小企業あわせて1000社以上に訪問し、8000人以上のビジネスパーソンとともに仕事をする。その後、起業して、仕事、マネジメントに関するメディア「Books&Apps」(読者数150万人、月間PV数200万にのぼる)を運営する一方で、企業の現場でコンサルティング活動を行う。

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