はじめに

事態が全くもって進展しているわけではないものの、イラン問題が中心となり、米中貿易摩擦が沙汰止みかのように報道ベースではあまり聞かれなくなった。貿易問題についてはインドや他の国にも話が拡散している旨、先般も拙稿で述べたとおりである。

日米摩擦はこれから本格化する
(画像=motioncenter / Shutterstock.com)

その中で忘れてはならないのは我が国である。一昨月(5月)末、トランプ米大統領は日米貿易合意を参議院選挙後まで見送る旨、言及したばかりである。逆に言えば参議院選挙が終われば、日米間における新たな貿易協議が始まるということである。本稿は、沙汰止みとなっている日米貿易協議について、それが強硬化する可能性があることを検討したい。

着実に動く米国勢

安倍総理大臣はトランプ大統領とは親密な関係性を築いていると度々言及している。実際、ゴルフを楽しむ姿や私邸で歓迎を受ける姿が度々“喧伝”されている。本当に安倍・トランプはかつての「ロン・ヤス」のような関係を築いているのだろうか。

(図表1 トランプ米大統領私邸において歓待を受ける安倍総理大臣)

日米摩擦はこれから本格化する
(画像=産経新聞)

1つ注意しなければならないのは、トランプ大統領の著作を紐解くと、平成バブル前後においてトランプ大統領が日本勢にババを掴まされていることが記載されているのだ。同様にトランプ大統領の執念深さ、とでも言うべき性格が垣間見えるのだ。それらを考慮しただけでも、トランプ大統領の個人的な基本スタンスとして対日強硬派なのではないか?と頭の片隅に置く必要はあると筆者は考える。

無論、トランプ大統領が個人的な感情で大統領職を行っていると到底思えない。では公的なベース、すなわち国家として米国が日本についてどの様な認識でいるのか。その端的なものが為替報告書である。直近のものでは中国に対する指摘が続くものの、それに隠れてしまった形で我が国についても依然として厳しい姿勢を崩していないことを忘れてはならない。

おわりに ~刷新の続く米人事に注目せよ~

筆者が日米関係について言及するのは、2点気になる報道がなされたからである。1つはロス米商務長官の更迭疑惑である。トランプ大統領が要職の積極的なすげ替えを行っているのは周知の事実である。現在、ドイツやトルコ、スイスにインド、中国など貿易摩擦に限らずとも米国が抱える国は少なくない。それらとの関係性を仕切り直す意味で人事の刷新はあり得る。他方で、ロス長官を巡っては昨年末にも同様の更迭疑惑が浮上していたのであり、一見、内政上の事情とも見えなくもない。事実、その蓋然性は高いと筆者は考えている。

しかし、ハガティ駐日大使も今月末のタイミングで急遽辞職することとなったことを併せると単なる辞任で済むというのは早計ではないだろうか。これは来年(2020年)に上院選へ同大使が立候補するためであるという。

まとめよう。(1)諸国勢と米国は貿易問題を抱えている、(2)その様な中で商務長官を更迭する可能性が浮上した、(3)他方で、トランプ大統領が来週の参議院選挙後にまで日米貿易合意は見送ると発言した、(4)その見送り終了タイミングと同調するかのように7月中で現在の駐日大使が辞任する。これらの流れを考えたとき、商務長官がより強硬派な人間へとすげ替わり、駐日大使も同様の人選がなされる可能性があるのではないか、というのが卑見である。新たな日米摩擦の到来に備えるべきである。

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。

大和田克 (おおわだ・すぐる)
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー。2014年早稲田大学基幹理工学研究科数学応用数理専攻修士課程修了。同年4月に2017年3月まで株式会社みずほフィナンシャルグループにて勤務。同期間中、みずほ第一フィナンシャルテクノロジーに出向。2017年より現職。