自治体への寄付の返礼品として各地の名産品を受け取ることができるふるさと納税の認知度はすっかり定着し、寄付を集めるために、返礼品の豪華さを競い合うような、寄付本来の趣旨から逸脱するような弊害も指摘されている一方で、ふるさと納税の進化系ともいえる「ガバメントクラウドファンディング」 (以下、GCF) が新たな寄付として台頭してきている。
プロジェクトで寄付集め
まず、GCFとは一体どのような制度なのか。個人がオンラインのプラットフォームを活用して不特定多数の支援者から寄付を募るクラウドファンディングは、資金調達の方法として注目を集めはじめている。GCFの名前はまだ浸透していないかもしれないが、個人ではなくガバメント、つまりは政府 (自治体) が主体となりクラウドファンディングで自ら事業資金を寄付から調達することである。
具体的なGCFの例を挙げるとイメージを掴みやすいだろう。鹿児島県阿久根市がGCFを活用したプロジェクトは、同市出身で明治政府の一員として近代国家の礎を築くのに貢献し、「電信の父」として電信政策を推進した松木弘安 (寺島宗則) が幼少期を過ごした旧家を保存し、活用するため500万円の事業費を寄付で募っている。
岐阜県高山市の例では、GCFを活用して災害からの復興を目指している。2018年に同地を襲った台風21号により、農業関連の被害は約15億円にも上った。2,000万円の寄付をクラウドファンディングで集め、被災した農家のビニールハウスの復旧を支援する計画だ。
このように、それぞれの自治体が推進したいプロジェクトをPRして寄付を募る仕組みとなっている。これまでのふるさと納税では、お米や精肉、お酒などの特産品を返礼品としてPRすることで寄付を集める性質が強かったが (もちろん、これまでのふるさと納税でも寄付金の使途を指定することはできる) 、GCFは事業内容を前面に出し、資金の使途を詳細に説明することで寄付を募る点が大きく異なる。つまり、使い道 (プロジェクト) で寄付先を選ぶことができるため、自分の寄付金が自治体の何にどのように使われるかがより明確になるというわけだ。
GCFがこうした側面を持つため、ふるさと納税の目的が「モノからコト」へと変わりつつある。
真の寄付文化が根付くか、GCFが正念場
GCFが増加傾向にあるのは、2つの側面が考えられる。1つ目は、これまで豪華な返礼品で寄付を集めてきた自治体が、戦略の見直しを迫られている点だ。自治体によっては寄付金を集めるため、時には寄付額を上回るような返礼品を寄付者に提供してきたが、これに対し、総務省は返礼品を寄付額の3割以下に相当するように通達を発令し、対応が必要な自治体があるためだ。
2つ目は、本来の制度趣旨である「寄付主導型」に対する取り組みが活発化している点だ。
「自治税務局市町村税課『ふるさと納税に関する現況調査結果 (平成29年7月) 』」によれば、ふるさと納税が増加した理由として「使途、事業内容の充実」と回答した自治体が前年度よりも約1.4倍増加 (122団体→169団体) している点が挙げられている。
世の中の流れに見られるように、ふるさと納税においても「モノからコトへ」といったニーズが多様化しており、自治体が地域の実情に応じた課題に対して創意工夫を図る解決策を提示し、そこに対して「共感」する人が増えていると推察される。
GCFとふるさと納税を比較すると、寄付者の動機が大きく異なる。前者は、出身地や転勤で居住したなどの自治体の特定の事業に関心を持ち、その取り組みをサポートするために寄付をする一方、後者はリターンを期待して寄付をしている傾向が強い。さらに、GCFとふるさと納税の大きな違いとしては、GCFでは返礼品が準備されていないケースもあり、その場合は、寄付者が見返りを期待するのではなく、純粋にプロジェクトを応援する心から自治体に寄付をすることになる。このように返礼品が準備されていないケースもあるが、GCFも寄付金の控除の対象にはなる。
ふるさと納税により、寄付文化が浸透し始めたことに疑いの余地はないだろう。しかし、寄付者が返礼品や節税を目的とする場合は、寄付金の使途にまで関心を寄せない場合も目立つ。
GCFはプロジェクトをPRすることで寄付金を募る仕組みのため、リターンを求めない、真の意味での寄付文化が根付くか、今度の動向が気になるところだ。(提供:大和ネクスト銀行)
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