2018年に出版された「会社四季報の達人が教える10倍株・100株の探し方(東洋経済新報社刊)」が話題になった複眼経済塾・渡部清二さんに、会社四季報をどのように投資に活用するのか。そのエッセンスをおうかがいします。
会社四季報を20年以上にわたり読破 きっかけは野村證券時代
━━投資家の中にも、会社四季報を持っていても精読したことはない、という人も多いかと思います。渡部さんが会社四季報を投資における最強の武器、と評されるきっかけはどのようなものだったのでしょうか。
きっかけは、野村證券に在籍していたころにあります。当時の先輩に、社員教育の一環として会社四季報読破を申しつけられたんですね。
そもそも、投資先である国内企業の知識が少ない人間では、お客様との会話でプロとしての知見を与えることができません。そこで、会社四季報読破、日経新聞のスクラップ、株価指標などを記録するノートを作る、という3つを実施するように言われていました。
ただ、手間も時間もかかる作業のため、私以外では同じように言いつけられても行動に移す人はほとんどいませんでした。
しかし、この指導には当時の先輩自身の経験も含まれていたんです。お客様から「私は読んでいるのに、プロであるあなたたちが読まないのは何事だ」と、実際に言われていたようで、いま考えてみてももっともな意見です。
当時は日本の相場全体がよくない流れだったこともあり、私自身もお客様のためになにか一手を打ちたいと考えているところでした。
そこで、言われた通りに会社四季報を1ページ目から最終ページまで読破しました。読んでみると、遠い存在のように感じていた企業が案外自分の身近で活躍していることを知って、日本企業に大きな魅力を感じるようになっていったんです。
日本株に特化してセールスする機関投資家営業部への配置を願い入れ、2013年の退社まで、日本株運用の世界に関わっていくことになります。
こうして始めた会社四季報読破は、1997年から現在まで20年以上継続しています。
━━先輩の指導は、厳しくとも正しいものだったのですね。渡部さんの主催する複眼経済塾でも、同じように会社四季報を活用する術をレクチャーされているのでしょうか。
もちろんです。当初は証券会社向けに研修を行っていましたが、WEBでの動画配信をきっかけに、これならば個人向けに開催することもできると方針転換をし、個人を対象に講義を開くようにもなりました。現在の塾生は20〜80代の投資家が多く、証券会社のオーナーの方なども参加しています。
会社四季報の正しい読み方 5つのブロックにフォーカスする
━━近年は、ネット上に膨大な量の情報が開示されるようになりました。そんな中、紙媒体である会社四季報を読むことの優位性とはどのようなところにあるのでしょうか。
私の考える投資の情報収集で大切なことは、「いかに情報を絞るか」ということです。ネットで情報を集めると、膨大な分量になることも少なくありません。ただ、情報が多ければ、読むのにも、役に立つ情報を見分けるのにも時間がかかります。
一方、会社四季報は全上場企業の情報を一冊にまとめています。情報を凝縮するという意味ではこれ以上のものはありません。
しかも、創刊80年以上。ほぼ同じフォーマットなので、全上場企業の過去データを80年分さかのぼってチェックできる。
たとえば、現在大企業に成長したメーカーが、上場当初はどのような資産を持っていて、どのような変遷を経て現在にいたるのか。もしも同じような流れの会社があれば、魅力的な投資先となる可能性が高い。こういったことを効率的にチェックできるのも、会社四季報の魅力です。
また、個別銘柄ごとに来期予想が掲載されているのも魅力的です。上場企業約3700社分の来期予想を1人でやることを考えると、この情報がいかに役立つものか分かるはずです。
証券会社でもアナリスト予想をまとめていますが、主要銘柄400社程度のみだったり、そのレポートを入手するために口座開設や高い手数料をとられたりもします。会社四季報は1冊2,000円台で購入できます。データ数を考えても、価格を考えても、圧倒的に高い価値を秘めています。
ネット上にも、同じようなデータを見ることができるものはありますが、高額サービスが多いうえに、過去データがここまでは揃っていません。
━━金額面での比較をするだけでも、大きな優位性を感じられる人も多いと思います。これから初めて会社四季報を読むという人に、どこから読み進めればいいのかアドバイスをいただけますでしょうか。
実を言うと、読み方についても会社四季報の冒頭に掲載されているんです。企業ごとの情報はAからNまでブロック分けされていて、このうち大切なのはA、B、E、J、Nの5つです。
Aは上場時期や事業内容を掲載する企業の基礎データの部分。Bは四季報編集部から見た短期・中長期の寸評、Eは会社の規模などの掲載されたバランスシートとお金のやりくりであるキャッシュフロー、Jは年間の成績である損益計算書、Nはチャートです。
A、B、E、Jブロックの4つは、いわば人となりのようなもの。この部分を見てからNブロックの数字を見ることで、その企業の理解が深まります。そもそもこの企業はどのような考えなのか、どういう会社なのか。ブラック企業に投資したりしないよう、内面を判断するために必要な最低限の部分をおさえましょう。
会社四季報を読むことで一歩踏み込んだ投資ができる
━━会社四季報を読むことで、上場企業に親しみを抱くような気もします。
そこが大切です。投資初心者であれば、会社四季報は投資をするための頭に切り換えるツールとしても役立ちます。
ネット上では、情報は検索ワードに類するピンポイントなものとして表示されますね。たとえば、A社について調べれば、A社に関連する情報のみが表示されるでしょう。
一方、四季報の5つのブロックを読み進めていくと、その企業がどのような事業をしているのかを把握でき、合わせて、実は自分の生活に多数の企業が関わっていることも実感できます。
たとえば、街で見かけるシュークリーム屋さん「ビアードパパ」。これを実は永谷園が運営していることに気づく。もしくは、うどんの「シマダヤ」が、実はバッファローの親会社であるメルコホールディングスが運営であることを知る。
このように、一見すると自身の生活とは関係がなさそうな大きな企業であっても、身近な存在であることに気づきます。そしてこれが、企業活動の疑似体験につながっていきます。
株主は経営に参加しているとの同じですが、企業活動を実際に行うわけではないので、どうしても企業側との間に壁ができてしまう。そうすると、将来性の判断などのための、より深い知見を得ることが難しくなってしまう。四季報を通して、擬似的にでも事業を知ることにより、一歩踏み込んだ投資が可能になります。
だからこそ、上場企業全社がコンパクトに掲載されている会社四季報を通して上場企業全体を知ることが大切なんです。特に、2,000番台の食品系はより身近に感じやすいので、初心者の方にオススメです。
もしも読み進めるのが大変ということであればAブロックの部分だけでかまわないので、数十ページ読んでみてください。それだけでも株式投資をより身近に感じることができるようになるはずです。
━━会社四季報の読み方に慣れてきて、より実践的な内容を求める人にはどのような部分を読むことが大切でしょうか。
多くの方が株価を見ていますが、これ自体にはあまり意味がないと考えています。むしろ、時価総額を確認したほうがいいでしょう。
「株価×発行株式数」が時価総額です。この時価総額はテンバガー、つまり10倍株を見いだすのにも活用できます。たとえば、ある企業の株価が10倍になるか考える際に、すでに世界的に活躍する企業で 時価総額20兆円である場合、これが急に10倍になり200兆円になる、というのは現在のところ難しいかもしれない。
しかし成長市場で、上場からまだ間もない企業の時価総額が、数百億円程度だった場合はどうでしょう。こちらはテンバガーになる可能性もあります。このように、時価総額によって今後の展開を予測する感覚を身につけるというのも大切です。
一般的な投資家は、PERを重視することも多いようですが、成長企業であれば先行投資がかさむのでコストが大きく利益が小さくなります。そうすると1株当たりの純利益が小さくなりPERが高くなると判断されることもあるでしょう。しかし実際には、コストをかけた分だけ売り上げが上がっていく可能性もあります。
つまり、PERだけでは今後の成長が正しく予測できないんですね。こういった間違いがないようにも、時価総額を重視するべきだと感じています。
10倍株を見つけるための4つの要素 時価総額に注目せよ
━━著書の中でも10倍株を見つけるコツを4つご紹介されていました。詳しくは書籍を読んでいただくとして、エッセンスの部分だけお教えいただけますでしょうか。
私が注目するのは、小型成長株です。これは、時価総額約300〜500億円以下で売り上げが伸びている企業の株式です。
利益とは、「売り上げ−コスト」です。コストによって調整できてしまうので、先述のとおり成長企業であるほどPERが高くなります。そのため、売り上げが過去から見てどの程度伸びているか、時価総額は10倍、100倍になる伸び代があるかというのが大切です。
より詳しくは書籍に掲載しておりますが、売上高が4年で2倍になるような増収性をもっているか、オーナー経営者かどうか、上場5年以内か、プラスアルファで営業利益率が高いか、この4つを軸に考えるのが基本です。
━━2019年以降は株式市場の先行きが不透明です。これから先の市場の動向を渡部様はどのように見ていらっしゃいますか。
市場全体と個別銘柄、両方を確認するべきでしょう。
例えば、会社四季報の月足(つきあし)長期チャートで1社を見てみる。すると、1年半で株価が約8割落ちている企業があります。これはリーマンショック以上の下落率です。しかし、信用性は問題なく、売り上げも2,000億円ほどで、大きな問題が見当たりません。
となると、市場に問題がある可能性が高い。このような企業は1社だけではありません。日経平均だけを見てみると高止まっていますが、現状、日経平均は官製相場であると考えたほうがいいでしょう。
こういう状況を見るには、市場全体だけではなく、個別銘柄全体を確認して市場全体を判断する必要があります。そんなときに役立つのが、会社四季報です。その企業がどんな企業なのか、そもそも市場はどのようになっているのかを、個別銘柄を確認しながら、感覚的に知ることができます。
まずは四季報をパラパラと読んでみてください。それだけでも価格以上の価値は必ずあるはずです。(提供:Wealth Lounge)
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