2018年に出版された「日経新聞マジ読み投資術(総合法令出版刊)」の著者である複眼経済塾・渡部清二さんに、投資家として本当に役立つ日本経済新聞の読み方をお聞きします。
日経新聞は「マジ読み」をしてこそ意味がある
━━書籍でも主題となっている「マジ読み」とはどのような読み方を指すのでしょうか。
多くのビジネスパーソンが日経新聞を購読していると思いますが、よくよく伺うと「読んだ」のではなく「見た」だけのケースがほとんどです。
では、「読んだ」と「見た」の違いはなんでしょうか。それは、数字やキーワードによって経済の大きな動きを読みとろうとするスタンスです。
日経新聞は、投資において大切なデータを分かりやすくまとめてくれています。これを、「見る」だけではなくて「残す」ことがマジ読みのスタートです。
私は日経新聞に掲載されたもののうち、大切と思われるデータや記事を、過去20年以上にわたりスクラップしています。こうすることで、記事として局所的に執筆されているデータを全体のデータと比較して、数字の増減が実際にはどの程度影響があるのかが分かるようになるのです。
例を挙げてみましょう。たとえば、原油の生産が100万バレル減少したという見出しを見たとします。数字が大きいので、なんだか大量に減少していて重大なトピックだろう、という印象がありますね。しかし、この減少は全体のどの程度なのか、という部分を知らなければ本質を理解することはできません。
実際には1日約9,000万バレル生産されていれば、全体の1%程度です。
このように、全体のデータを知らないことで見出しや内容に踊らされて記事の見出しだけで物事を判断している、ということがよくあります。もっと言えば大きな見出しになっている記事でも、もしかしたら新聞社側の都合で大きく取り扱っているだけかもしれません。
それぞれの記事を読んだときに、この数字や内容は前に掲載されたものからどういう変化があったのか、何を伝えたいのか、ここまで読み取るのが「マジ読み」なんですね。
━━たしかに、大きな数字や変化について目にすると、実際の影響を実数ではなく印象だけで計ってしまうことがよくあります。
実際、多くの人が同じ読み方をしています。
勘違いをしやすいのが「何年ぶり」というワードです。数年ぶりの「転換」なのか、「根本の変更」なのか、5年程度で回る「サイクル」なのか。「何年ぶり」ひとつとっても様々なニュアンスがあるわけです。このことを把握していれば、言葉の持つ印象に踊らされることなく、各記事を冷静な視点で読むことができます。
これは、セミナーなどではペットボトルを例にあげて説明することもあります。
ペットボトルは、正面から見ればロケットのような形です。今度は底面を見せると丸い月に見える。つまり、視点が違うだけでまったく別のものに見えるわけです。経済の世界でも同じで、誰かの主観が入ることで本質を見失ってしまう可能性があります。
そのため、私は日経新聞を逆から読んでいます。1面のトップから読むと、どうしても新聞社側が読ませたい記事から目を通してしまう。そうではなくて、自分自身にとって大切な内容を抜粋していく。
そういう習慣を身につけた方がいいでしょう。
逆に、セールストークのときは「日経にはこう書いてあるんです」と話すと、お客さんの信用度が高くなるときもあります。証券会社の常套手段だったりしますが、使い方は、時と場所にもよりますね。
日経新聞のマジ読み実践では「キーワード、データ、トレンド」の3つが大事
━━著書では「キーワード、データ、トレンド」の3つの読み方が重要だと解説されています。こちらはどのような内容なのでしょうか。
詳しくは書籍にまとめておりますが「キーワード」としては、年・初・新・革・などといった注目すべきワードが8つあります。このワードを念頭に見出しを見ていくだけで効率的に読み進めることができます。
これらのキーワードが見出しに含まれる記事では、なにかの革新があったとか、世界で初の試みである、既存のサービスを一新するようなコンテンツが発表されたなど、注目すべき事象が取り扱われている可能性が高くなります。
紙面上での見出しの大きさにかかわらず、ワードに注目して記事を読んでいくことで大切な情報を見逃すことなく日経新聞を活用できるでしょう。
2つめの「データ」は、主にストックデータとフローデータを読み分けることです。
前者のストックデータ、こちらは冒頭にもお話しした全体の数字です。日本国内の車両数を例にあげれば、ストックデータは約7,000万台。つまり、日本の国土の上にはメーカーや車種など関係なく7,000万台程度の車が存在しているということです。
年間売れている台数は後者のフローデータです。こちらは約500万台。
そうすると、20年に一度買い換えがあるとすれば、毎年350万台くらいは新規購入があるという計算ができます。このデータに沿えば、20年周期で350万台分の新車購入を狙った投資ができます。
他の例では、たとえば国内に存在する7,000万台の大半はガソリン車です。すると電気自動車が10万台売れていると大きな見出しの記事を見つけたとしても、この台数のために大きなインフラ整備をする可能性は低い、と読み解けます。
四季などと同じように、経済にもサイクルが存在します。過去のデータと見比べるために、記事をスクラップして残すストックデータと、上記の「キーワード」に注目した最新情報から読み取れるフローデータを照らし合わせることで、より正確に市場を読み解くことができるはずです。
3つめの「トレンド」とは、これまで解説した景気の転換などが、その後上向きに上昇するか、下降するかということです。
景気動向指数には種類があります。実際の景気に先行して動く「先行指数」、ほぼ同じ動きをする「一致指数」、遅れてくる「遅行指数」の3種類です。
たとえば、家計消費は遅行指数です。これは過去の指数なので、先行指数を基にする株価とは異なる評価です。トレンドを読み解く際には、どの指数を基に書いているのかに注意したほうがいいでしょう。
他の例では、一般の方であればオリンピック関連銘柄に注目することもあるかもしれませんが、先行指数を基に考える投資家の間では、すでに終わってしまったトピックです。そのため、これから投資を行うのであれば、あまり魅力はないと読み解けるでしょう。
「キーワード、データ、トレンド」という3つのポイントはつながっています。どれか1つが抜け落ちても、経済の本質は見抜けません。
今後の国内経済について 悲観よりもその先にある可能性に注目
━━日経新聞にはWEB版も存在します。紙媒体としての紙面以外にも活用されていますか。
私自身WEB版は検索の際にしか使用していません。ただ客観的にいえば、どちらもバランスよく活用したほうがいいでしょうね。
ただし、これまで解説してきたようにデータを記録していくなら紙版の方が扱いやすいという特徴があります。ちょっとしたデータをスクラップとして貼り付けるなど、一作業挟むだけでデータがすんなりと頭に入ります。
情報をしっかり吸収するという意味では、なるべくこういった作業をしていたほうがいいでしょうね。
━━少し本題とずれますが、さきほど話題に出てきたオリンピック後の日本経済はどのようになると考えていらっしゃいますか。最後にご教示いただけますか。
景気のサイクル上は、そろそろ落ち込む時期であると読み解くことができます。しかし、アメリカの影響やさまざまな施策によって、無理矢理引き延ばしている感があり、現在は先行きが不安定です。
そのため、オリンピック開催後は景気が落ち込むでしょう。ただ、サイクルですから下がった分上がっていくことも予想されます。
特に、世界から日本への注目度が景気向上に役立つのではと考えています。日本で古くから受け継がれてきた価値感が、伝統文化や食を通して世界に広がっていくように感じます。
そして、2025年の大阪万博が控えていることで、関西エリアの活気がより強まるでしょう。また名古屋にリニア新幹線が通ることで、中部エリアも盛り上がりを見せそうです。
オリンピック後に景気が落ち込むと悲観するよりも、その先にある可能性を見ながら経済の本質を読み解く努力を続けていく。これこそが、今後の投資家に必要な要素だと考えられます。(提供:Wealth Lounge)
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