(本記事は、ジャスパー・ウの著書『実践 スタンフォード式 デザイン思考 世界一クリエイティブな問題解決』インプレス2019年9月11日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

デザイン思考とはマインドセット

デザイン思考
(画像=Radachynskyi Serhii/Shutterstock.com)

デザイン思考とは、人々がもつ本当の問題を解決するための考え方(マインドセット)です。ではなぜいま、デザイン思考が注目を集めているのでしょうか。それは「人」こそがサービスや製品、あるいはシステムのあり方・つくり方に影響を与える、非常に重要な要素となってきたからです。

ここでいう「人」は私たちがつくるサービス、製品を使う人々のことです。私たちはデザイン思考の方法論を使って、人々のニーズや問題を見つけ出し、解決することができるのです。

特定の「人」の問題やニーズを解くことで、世界中で共通の悩みをもつ人々の役に立つことができるかもしれません。たとえば2008年、アメリカのサンフランシスコでは大規模なイベントや展示会が行われるたびにホテルが不足し、参加者も観光客も高騰したホテル代に困り果てていました。この問題に対し、住んでいたアパートの一部を宿泊施設として貸し出すというアイデアを試みた若者たちが現れました。

Air Bed and Breakfastという名前で始まった彼らのチャレンジは、いまではAirbnbというサービスとして世界中に広がり、見知らぬ他人に自宅を貸すという発想のなかった人々の行動をすっかり変えてしまいました。

また、2012年の秋にシリコンバレーのパロアルトに住んでいたスタンフォード大学の学生たちは、パロアルトの中心街を離れるとデリバリーをしてくれるレストランがないことに強い不満を覚えました。彼らは翌年、配達サービスをもたないレストランと、配達してくれる人々をマッチングするサービスを公開し、現在では北米で50以上の都市に広がった「DoorDash」というサービスになりました。

現代は新しい情報が毎日のように現れ、私たちの周りは日々たくさんのテクノロジーや新しいサービスにあふれています。人間の行動は、新しいサービスを受け入れることによって変化しており、私たちは常に「人々が何かに困っていないか、不便を感じることを改善できないか」と考える必要があるのです。

たとえば、あなたがIT企業のプロダクトマネージャー(あるサービスを管理・運用する責任者)だとしましょう。あなたは自分のサービスに隅々まで精通しており、あらゆる情報を知っているかもしれませんが、プロダクトを改善していくためには、何から始めるのがよいのでしょう?

デザイン思考を用いて、まずは「このプロダクトを使う人々を正しく理解する」ことから始めてみましょう。このプロダクトに関してあなたがもっている知識や常識は、部署や会社の外に出てみれば、このプロダクトを使う人々にとっての共通言語でないことが多々あります。あなたが東京にあるオフィスで新たなサービスをつくっていたとしても、そのサービスを利用するのは北海道や沖縄、あるいは海外に住んでいる人かもしれません。「人々」を理解すればするほど、その人の住んでいる環境やプロダクトの使い方は、あなたの想像と異なっていることに気づくでしょう。

もしあなたが人々の問題を解決するために何かをデザインしたいのであれば、最初に人々を理解する必要があります。デザイン思考はそのための正しい方法論であり、このプロセスを実行する上で役立つ考え方といえます。

デザインとはどんな意味?

「デザイン」思考というと、デザイナーのための思考法と思われるかもしれませんが、実はそうではありません。日本で「デザイン」という言葉は、グラフィックデザインやビジュアルデザインといった「外観をよくする、美しく整える」という意味で使われることが多いと思います。デザイン思考は英語の「Design Thinking」を日本語にしたものですが、このときのDesignという単語は、「設計する」という意味で用いられており、外観を整えることは一部分にすぎません。つまりデザイン思考とは、「(問題を解決する方法を)設計(Design)するための考え方(Thinking)」と捉えると、腑に落ちるのではないでしょうか。

私は2014年から、デザイン思考の本場であるスタンフォード大学d.schoolで数多くの授業やワークショップに参加してきました。シリコンバレーでは、大学でも大企業でも、創業したばかりのスタートアップでもデザイン思考が浸透していて、あらためてデザイン思考について説明することは難しくありませんでした。小学校教育やレストラン運営などにも取り入れる場面に出くわすことがあります。日本ではデザイン思考が問題解決の共通言語になっていないため、何らかの問題を考える際に「どのアイデアを試すか」ではなく、「どのように進めるか」から考えていくこともあり、問題解決のスピードを上げるためには、デザイン思考のように共通の考え方をもっていることは重要だといえます。

実践 スタンフォード式 デザイン思考
ジャスパー・ウ(Jasper Wu)
スタンフォード大学による「d.school」でデザイン思考を学び、デザイン思考のワークショップファシリテーターとしてキャリアをスタート。またプライベートでは「増し増し.inc」を立ち上げ、"Unlock your creativity" をテーマにデザインワークショップやトレーニングなどを行う。
見崎 大悟(みさき・だいご)
工学院大学工学部機械システム工学科准教授。
東京都立大学大学院 工学系研究科 機械工学専攻 博士課程修了。 2015年~2016年に、Stanford University, Center for Design Research, Visiting Associate Professorとしてデザイン思考の研究を行う。

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