やりたい事業があるが、実現するための資金調達で融資や出資を期待しにくい場合、クラウドファンディングを利用する方法がある。実際、資金調達の方法として、融資や社債発行などのほかにクラウドファンディングを利用する事業者が増加傾向だ。
企業や資金ニーズによっては、従来の資金調達法のほうがよい場合もある。本記事では、企業がクラウドファンディングを上手く活用するための方法やメリットやデメリットについて解説する。
目次
クラウドファンディングとは?
クラウドファンディングとはクラウド(群衆)とファンディング(資金調達)が合わさった造語である。インターネットを通して自分、もしくは企業の活動や作りたい商品・サービスを発信することで、それに共感した人や活動を応援したいと思ってくれる人から資金を募る仕組みだ。資金が集まれば、運営側に一定の手数料を支払い、残りをプロジェクトの運営資金として使用することができる。
矢野経済研究所「2022年度版国内クラウドファンディングの市場動向」によると、2021年度の国内クラウドファンディング市場規模は、新規プロジェクト支援額ベースで前年度比11.1%減と推計された。
これは、クラウドファンディングの市場規模が拡大するにつれ、2017~2018年ごろに複数の貸付型のクラウドファンディング運営企業で行政処分が相次いだこと、2020年度において新型コロナウイルス関連プロジェクトの支援額が増加した反動などが要因だ。
一方で、規制強化による業界の健全化・適正化の進展、新規参入、また株式型で一部規制緩和が進んだことなどにより、2022年度のクラウドファンディング市場規模を前年度比16.3%増の1,909億8,200万円と見込まれている。
2016年の新規支援額ベース額は約745億5,100万円であったため、5年間で約26倍に拡大したことになる。
クラウドファンディングが資金調達法として広がった背景
企業が資金調達をする方法として、従来から融資、社債発行、株式発行が主に利用されている。しかし、融資は金融機関が与信判断・融資実行するにおいて事業内容の評価(プロジェクト内容)よりも担保・保証の有無、信用力の高さ等に重きを置く傾向がある。また、社債発行は引受証券会社による引受が前提であり、社債の償還確実性、投資家需要の量等を勘案して引受判断される。株式発行も同様だ。
裏を返せば、企業の将来性が高くてもすでに堅実な財務基盤が整っていなければ資金調達をしにくいということだ。一方、クラウドファンディングは基本的にプロジェクトの内容、実現可能性、企業の将来性で判断される傾向があるため、従来の方法で資金調達しにくい事業者を中心に広がったと考えられている。
クラウドファンディングの4つの種類
実はクラウドファンディングには、その内容から4つの種類(タイプ)に分けられる。ここでは順にその種類を解説していく。
寄付型クラウドファンディング
一般的にクラウドファンディングのイメージとして一番強いのがこのタイプだろう。いわゆる「プロジェクト」の趣旨に賛同する人たちに、自身の夢や目的、あるいはその意義を訴えて共感してもらい資金を拠出してもらうというもの。出資者の見返りは実利的なところはほとんどないかもしれない。つまり起案者にとってはリターンを用意する必要がないということになる。
出資者は、このプロジェクトに参加したという自己肯定感を求めるのが一般的だ。そのためプロジェクトの実行者は、例えば出資者の名前をどこかに掲載するなど、プロジェクト実施後の内容報告をしっかりと出資者に発信するなどの「気持ちで返す」というものが必要になるだろう。
購入型クラウドファンディング
リターンという見返りがない寄付型から一歩進めたタイプがこの購入型である。このタイプにはさまざまなリターンが考えられ、ある意味クラウドファンディングの醍醐味を一番感じられるものといえるだろう。起案者が自分たちのアイデアや夢を語り出資を募るのは寄付型と同じだが、そのリターンの内容でよりそのプロジェクトの魅力を増幅させるという形だ。
例えば自身が手掛ける映画製作と上映、自身が制作する絵本展示会、マニアにはたまらないコミュニティスペースの設置などの商品を他者に先駆けて提供するリターンなどは、出資者に金銭以上の満足感を与える。大規模なイベントや施設の立案であればその入場資格やプレオープンへの招待、また限定品の優先提供やナンバリングされたレアな製品の提供などもその例の一つだ。
融資型(ソーシャルレンディング)クラウドファンディング
先の寄付型や購入型のクラウドファンディングは非投資型クラウドファンディングと呼ばれる。それに対して文字通り投資として存在するのが融資型と呼ばれるクラウドファンディングだ。日本ではソーシャルレンディングと呼ばれるほうが多いかもしれない。リターンは明確に金銭であり、利率や条件で出資者が選んでいく投資商品である。
仕組みは、小口の出資金をまとめる事業者Aが存在し大口資金として事業者Aがその資金を必要とする企業に貸し付ける。直接のリターンは事業者Aが受取、それを小口出資者ごとに分配する。クラウドファンディングという名前ではあるが、完全に投資商品であるので当然金融庁の監視下に置かれる。
ここで留意しておきたいのは、この事業者Aは起案者ではないということだ。起案者は別にいる。融資型が寄付型や購入型のそれとは全くことなるのは、出資者は起案者の顔が見えないということだ。
株式投資型クラウドファンディングの仕組み
投資型のクラウドファンディングの中でもう一つあるタイプが株式投資型である。株式投資型クラウドファンディングは、ベンチャー、あるいは小規模の企業・個人・団体などが将来性豊かなプロジェクトを提案して出資を募り、「未公開株」をリターンとして発行するというものだ。この未公開株が上場したり、M&Aによって売却益が発生したりした際は株保有者もその「見返り」を手にすることができる。
ある意味、出資者にとっては購入型の「夢」と投資型の「高利回り」の双方の「いいとこ取り」で出資を募りやすいと考えられる。しかし、実際の金融商品を取り扱うことから金融商品取引法の規制対象となる。加えて、投資家保護としてや日本証券業協会の自主規制対象となり、株式を発行するクラウドファンディング業者の財務状況、事業計画、資金使途などの審査を受けることが必要だ。
その他、投資勧誘や投資金額などさまざまな規制を受けることは知っておくべきだろう。
クラウドファンディングで資金調達をするメリット
クラウドファンディングは出資を募る事業者、出資をする人のそれぞれにメリットがある。ここでは事業者がクラウドファンディングで資金調達をする主なメリットを確認していこう。
資金調達へのハードルが低い
新規事業に取り組むためには資金が必要であるが、資金調達が容易にできない事業者は少なくない。特に、以下のようなことで事業のスタートアップまでいたらない人たちは今まできっと数えきれずいただろう。
・アイデアは面白いはずなのに実績がないので信用がない
・資金もないし賛同者も周りにいない
・銀行はリスクを極端に嫌うし共感者がどこにいるかは分からない
クラウドファンディングの大きなメリットの一つは、実績がなくてもアイデアを評価してもらいやすいことだ。また、サイトに起案を登録して全世界に自身のアイデアを披露および発信できる、融資審査で金融機関が求めるような書類作成が不要など、資金調達へのハードルが低く、取り組みやすい。
単独では実現が難しいプロジェクトにも挑戦しやすい
仮に金融機関の融資を得られたとしても、プロジェクト達成までにかかる期間や資金回収見込みによっては融資額が制限される可能性が考えられる。しかし、クラウドファンディングの場合、プロジェクトの内容が良ければ多額の資金を調達できる可能性がある。単独で実現が難しいようなプロジェクトでも挑戦しやすいことはメリットだ。
返済リスクがない
非投資型のクラウドファンディングは「寄付型」と「購入型」があるというのは先に説明したとおりである。寄付型は当然であるが、購入型もプロジェクトで実現した製品やサービスを提供するのが一般的だ。資金提供者に対して利子や配当といった金銭を提供したり、融資のように返済したりする必要がない。
資金繰りによって返済が滞ってしまうといったリスクがないため、安心して資金調達に望めるだろう。
つながる魅力
起案者と出資者の関係で見ると、株式投資も企業の成長を支援して出資するものである。しかし、一般的に株式投資は出資者の目的が自分の資産を増やすことであり、また株主より集めた資金は企業の運営全体に使われるという点でクラウドファンディングとは異なる。クラウドファンディングは「出資者=支援する人」という構造だ。
そのため商品の企画・アイデアに共感・共鳴する人が出資するという構図となる。結果的に出資を募る段階で多くの共感者やファンといえる人たちとつながることができ、かつ出資者自らがSNSなどで自身の周辺に広告活動をしてくれる可能性がかなり高いのだ。
クラウドファンディングで資金調達するデメリット
クラウドファンディングの主なデメリットも紹介しておこう。
アイデアが盗まれるリスクがある
クラウドファンディングには多くの募集案件が掲載されている。画期的なアイデアの商品開発、地元の資産を有効活用する企画、個人的な趣味や、社会的意義を問う案件など。出資側に回らずとも、それを閲覧するだけで人間の創意工夫、想像力の豊かさに触れることができて楽しいだろう。しかし同時にこれは起案者側にはデメリットにもなりる。
人々のアイデアが見放題ということは、それを誰かが模倣することもアレンジすることも自由なのだ。つまり“アイデアを盗まれる”リスクがあるというわけだ。
資金調達できるかどうか不確実
融資やローンは金融機関の審査結果にもよるが、申し出企業と金融機関で協議・交渉し合意した金額を調達確実に提供することができる。しかし、クラウドファンディングでは期待どおりに資金調達ができるかどうか、できるとしても必要額に達するまでの正確な日時は不明だ。
そもそもAll or nothingであれば、期間内に目標金額が達成しなかった場合、入金額は0円である。All-inであっても「どのくらいの金額が手に入るのか」については誰にも分からない。しかし、企画を実現するためのさまざまな準備は進めなければならず、準備を進めた結果、プロジェクトを開始できないという可能性もある。
キャンセル不可のリスク
当たり前ではあるが、資金が集まればプロジェクトは実行しなければならない。「やっぱりいろいろ問題があることが分かったのでこの案は取りやめます」とはいえないのだ。「お金を集めて実行しない」のは詐欺行為である。逆に出資する側からも「やっぱりあの出資は取り消したいので返金して欲しい」という要求も基本は不可だ。
宣伝しなければ資金は集まらない
クラウドファンディングを使えば、信用力のない個人や団体、組織でも容易にある規模の資金が調達できる。しかしプロジェクトへの共感や資金提供を得るためには、知ってもらうための活動が必要なのだ。自身の起案をクラウドファンディングにアップしただけでは十分ではなく、それを宣伝・告知する努力が必要なのである。
クラウドファンディング事業者は各案件に担当者をつけるのが主ではあるが、「その案件のために全力投球」というわけにはいかない。「自分の起案を宣伝するのは自分」「お金を集めたければ自身の活動でクラウドファンディングに掲載されていることを告知する」ということを前提において進めよう。
手数料がかかる
クラウドファンディングは融資などと違い、一部のタイプを除いて返済・利子・配当支払といった金銭的な負担が少ない。しかし、クラウドファンディング業者を利用するためには手数料がかかる。手数料額は、クラウドファンディング業者によって異なるが、募集額の10~20%が一般的だ。なお、手数料は仮に資金調達ができない場合でも徴収される。
資金調達をクラウドファンディングで行う方法
クラウドファンディングとは何かが理解できてきたら、あとは実行あるのみだ。実際クラウドファンディングを行う(資金を調達する)場合はどのような手順で進めればいいのだろうか。ここでは代表的な手順を6つ説明していこう。
クラウドファンディング簡単手順ガイド1目標の設定
まずはプロジェクトの内容を決めよう。自分がやりたいプロジェクトや事業に必要な金額から、調達希望額を決めるのだ。また達成したい期間やどのタイプのクラウドファンディングを利用するかもあらかじめ決めておきたい。厳しい銀行融資を受けるわけではないが、だからといってノープラン、ノーアイデアでいいというわけではないのは当然のことだ。
クラウドファンディング簡単手順ガイド2利用サイトを決める
いざクラウドファンディングを行おうとすると、そのサービス事業者の多さに驚くはずだ。有名なサイトもあるし、新興サイトは各自差別化のために工夫を凝らして特徴を押し出している。各サイトでの強みはどうか、手数料の違いなど細かい条件をチェックしてプランを載せるサイトを決めよう。
クラウドファンディング簡単手順ガイド3プロジェクト案の登録
利用サイトが決まったら次は「どのように訴えるか」だ。タイトルやトップビジュアルのインパクトをどこまで強めるかによって調達金額も変わってくるかもしれない。動画編集もありだろう。「どのように訴えるか、進めるか」についてはプロジェクトごとに担当者がついてくれるため、相談しながら進めるのもよいだろう。
クラウドファンディング簡単手順ガイド4審査を受ける
案件の内容やビジュアルが決まれば、次は運営サイトからの審査を受けることになる。運営サイトとしても、かかわる案件が「公序良俗に反することにならないか」などは、当然チェックするところだ。またこの審査の段階で審査するサイト側から「ここをこうすればもう少し集金力が上がりそう」「この部分を変更したほうが良いのでは」というアドバイスを受けることもある。その際は積極的に応じよう。
クラウドファンディング簡単手順ガイド5プロジェクト開始
ここでようやくプロジェクトの開始となる。いよいよ資金集めのスタートだ。ここからは不安と期待の日々がしばらく続くことになる。その日の集金額に一喜一憂することもあるだろうが、それよりもプロジェクトをより多くの人々に知ってもらうことにエネルギーを使いたい。
クラウドファンディング簡単手順ガイド6広報活動・活動報告
プロジェクトが開始したら自身の周辺にいろいろな形で広報していくことが必要だ。今の活動報告でもいいし、ダイレクトにクラウドファンディング掲載中という告知でもよい。いくらの金額が集まるかは、このような地道な草の根活動の積み重ねで決まると思っておきたい。
クラウドファンディングを利用して資金調達をする場合の支援制度
市場拡大とともに、省庁・自治体などの公的機関のなかにはクラウドファンディングを活用した資金調達支援を実施するところも増えている。具体的な支援内容は、自治体などによって異なるが、起案者がクラウドファンディングを活用して資金調達をした場合、クラウドファンディング業者に支払う手数料の一部を自治体によって助成してもらえるものもある。
例えば東京都産業労働局では40万円を上限として手数料の2分の1を助成する支援制度を実施している。その他、クラウドファンディング利用に関する相談窓口を設置したり、セミナーを開催したりしているので利用するといいだろう。このような支援制度は、地元の小規模事業者や創業希望者をサポートすることで、地域経済の発展に役立てるのが主な目的である。
東京都に限らず多くの地域で実施しているが、各自治体で提携しているクラウドファンディング業者が異なるため、利用する前に市役所や商工会議所に確認することが必要だ。
ニーズに合わせてクラウドファンディング事業者を上手く活用しよう
市場拡大とともに、起案者と出資者をつなぐクラウドファンディング業者も増えている。業者ごとに特徴が異なるため、自社のニーズに合わせて選ぶのが成功への近道だ。ここでは代表的なクラウドファンディング業者とその特徴を紹介しよう。
資金調達+ブランド力を高めたい「Makuake(マクアケ)」
オリジナリティーでは誰にも負けないという自負があって、自信の会社のブランド力を高めたいときにおすすめなのが、サイバーエージェントが運営するクラウドファンディングサイト「Makuake(マクアケ)」だ。Makuake はいわゆる購入型クラウドファンディングが主で映画や自社開発商品などを制作するために資金調達しているプロジェクトが多い。
アメーバブログの運営も行うサイバーエージェントならではの宣伝力で、自社開発商品を口コミで広げられるなども期待できるだろう。
資金調達+共感者を見つけたい「GoodMorning(グッドモーニング)」
現在検討しているアイデアが社会問題に対峙するためのものであるならば、「GoodMorning(グッドモーニング)」はおすすめのクラウドファンディングサイトだ。GoodMorningはクラウドファンディングサイト「CAMPFIRE(キャンプファイア)」の子会社であり、課題解決のためのクラウドファンディングに特化している。ユーザーも社会問題への関心が高く、共感者を集めるためにはもってこいだろう。
資金調達+手数料が気になる「Kibidango(きびだんご)」
クラウドファンディングでは目標の資金調達額を達成した場合、調達金額の10~20%を手数料として運営側に支払う必要がある。調達金額の総合計にもよるが、手数料が最も低いサイトと最も高いサイトではかなりの金額の差が出るだろう。「Kibidango(きびだんご)」は手数料が10%という業界でも低めのクラウドファンディングサイトだ。掲載プロジェクトのうち、8割が目標金額を達成していることも魅力的である。
クラウドファンディングは最強の資金調達パートナー
銀行融資や社債発行、株式発行等といった従来の資金調達方法と違い、クラウドファンディングでは、アイデアに自信があり仲間へ呼びかける強いメッセージがあれば、それを届けて資金を集めることができる画期的な資金調達方法だ。クラウドファンディング市場は順調に拡大しており、仲介役となるクラウドファンディング業者も増えている。
クラウドファンディング業者を利用することで助成金等支援制度を実施する自治体なども多く、事業者の資金調達法として見逃せない存在になっているといえるだろう。クラウドファンディングのメリット・デメリットを理解したうえで、クラウドファンディングという資金調達方法を検討してみてはいかがだろうか。
文・橘高唯史(中小企業診断士)
無料の会員登録でより便利にTHE OWNERをご活用ください
他ではあまり登壇しない経営者の貴重な話が聞けるWEBセミナーなど会員限定コンテンツに参加できる、無料の会員登録をご利用ください。気になる記事のクリップや執筆者のフォローなどマイページからいつでも確認できるようになります。登録は、メールアドレスの他、AppleIDやtwitter、Facebookアカウントとの連携も可能です。
※SNSに許可なく投稿されることはありません
(提供:THE OWNER)