事業を大きくしたい場合、海外でビジネスをしたい、そう考える経営者は多いだろう。人口が減少していく日本よりも、経済成長率が高く、今後の伸びしろが期待できる海外に目を向けるのは当然だ。日本での事業が一段落した人であれば、海外進出を検討した人も多いのではないだろうか。

しかし、すべての企業が成功しているわけではないし、多くの企業は海外進出に失敗して撤退しているという事実もある。では、海外進出で成功する企業、失敗する企業、いったい異なる部分は何なのだろうか。具体的な事例を紹介しながら、それぞれの特徴を解説する。

今後労働力も消費も減少していく日本、そして伸びていく世界

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(写真=Vasin Lee/Shutterstock.com)

2019年に日本で生まれる子どもの数が90万人を割る、という報道が世間をにぎわしたのは記憶に新しいだろう。日本で生まれる子どもの数は急速に減速しており、労働生産人口はどんどん減少していくことが予想される。現在も人手不足は日本企業にとって大きな問題となっているが、この問題はさらに加速していく見込みだ。

高齢化社会になると、基本的に消費は停滞することが多い。人口そのものが減っていくことから、消費の面でも今後は縮小していくことが予想される。つまり、日本はこの先、労働力も消費も減少していき、国内だけでビジネスを拡大するのは難しくなってくる時期がやってくるのだ。

一方、海外を見てみよう。ヨーロッパなど一部先進国では同じように人口減少や高齢化の問題はあるもの、アフリカや南米、東南アジアなどでは引き続き出生率は高い。地域によって差はあれど、世界の人口は増加していくことが推計されている。海外に焦点を当ててみると、今後拡大する市場と、比較的安価な労働力が多くあるのだ。もし、自分の企業が国内で停滞気味であれば、海外に打って出るのは、大きなチャンスといえるだろう。

増えている中小企業の海外進出

現状、そういった魅力ある海外市場に売って出ていく企業は多い。日本全体で見ると、1980年以降、輸出額は右肩上がりで成長している。対外直接投資額についても、バブル崩壊後に一時は低迷するも、2000年以降は再び右肩上がりで成長している。

中小企業だけを例にとっても、海外進出は加速している。直接海外輸出している企業、対外直接投資をしている企業というのは、徐々に増えつつあるのだ。業種でいうと、生産用機械器具製造業や化学工業などが特に積極的に海外への輸出・投資を行っている。

また、海外子会社を保有している割合を見ても、徐々に中小企業が海外子会社を保有する割合は増えている。1990年代前半には10%以下だったものが、今は10%を超えており、製造業に至っては20%近くまで増えているのだ。もはや中小企業といえど、国内だけでビジネスを完結させるのは、難しくなりつつある、といえるだろう。

海外進出における成功ポイントとは?

一言で海外進出といっても、決して簡単なものではない。なぜなら、日本で事業を行う場合、日本の法律や税制の下で事業を行う。われわれが日本人であり、普段日本で暮らしている以上、そこまで戸惑うことはないだろう。

しかし、ひとたび海外で事業を行おうとすると、進出する国の法律やルールに従う必要もある。国によっては法律が未整備なところも多く、日本でビジネスを行うのに比べ、難しい部分があるケースも多いだろう。そういった中でビジネスをする際、どれだけ日本で成功していたとしても、海外では一筋縄ではいかないものだ。

では、実際に海外進出で成功するには、どのような点に留意すればよいのだろうか。主なポイントを、事例とともに解説する。

きちんと販売先を確保する

海外を市場とする場合、最も大事なのは、販売先を確保することだろう。中小企業庁の「中小企業白書2014年版」によると、海外進出で売上高が伸びた企業が、販売先の確保が十分に取り組めているのに対し、売上高が伸びなかった企業は、販売先の確保がうまくいっていない、十分に取り組めていないというケースが多かったそうだ。

国内と異なり、海外の場合は、営業を行うことがそもそも難しい。与信管理や銀行取引なども、日本企業と同じようにいくわけではない。現地企業との競争もある。そのため、ある程度の知識とリソースが必要になるのだ。

直接取り組むのではなく、代理店を使うという戦略で、成功したケースもある。工場用の機械や工具の卸売企業である株式会社丸越は、1970年代からシンガポールへの輸出を行っていたが、海外拠点への人員確保の難しさや、販売先の拡大が困難だったことから、現地のパートナー企業とのパートナー戦略に転換した。一方、自社サイトを英語やスペイン語、イタリア語でも見られるようにするなど、海外向けのマーケティングを強化したことで、これまで取引がなかったエリア・国からも問い合わせが来るようになり、海外取引先を10倍程度まで拡大することができたのだ。このように、自社にこだわるのではなく、最適な取引形態を探すというのも、成功のポイントだといえるだろう。

現地のニーズを正しく把握する

現地のニーズをきちんと把握するということも大事だ。日本で成功している商品だからといって、海外でニーズがあるとは限らない。特にBtoCの商品の場合、生活様式や嗜好が異なるため、参入するのには注意が必要だ。一方、きちんとニーズを把握すれば、日本にない商品を販売することもでき、大きなビジネスチャンスを得ることができる。

うまく現地のニーズをとらえたのが、日本では調理用ソースなどのOEMを手がける「グルメストーリー」という会社だ。サウジアラビアで肥満が増加しており、ヘルシー志向、日本食人気が高まっていることを確認した同社は、中東エリアでのドレッシングの販売に乗り出した。イスラム圏での販売のため、ハラール認証をとり、さらに、商圏を富裕層や外国人が多く、外国企業にも門戸が開かれているドバイに定めた。

そこで販売したドレッシングは、真珠パウダー入り、有田焼の容器、杉の木箱入りなど、ぜいたくを尽くした、1本10万円のものだ。1本10万円のドレッシングは、日本だとまず需要はないが、ドバイでは4日間の見本市で30本も売れたのだ。日本では考えられない商品であっても、きちんと市場ニーズさえ満たせば、海外での販売ができるという事例といえるだろう。

自社の強みを再確認する

海外と日本では嗜好や商習慣が異なるため、海外進出する際は、現地のニーズをよく知り、そこに合わせたビジネスを展開する必要がある。一方で、自社の強みをきちんと理解し、それを海外市場でも生かすことで、成功した事例もある。ただ商習慣を合わせただけでは、現地企業と競合してしまうため、自社の持つ強みを生かすことも重要だ。

歯科治療関連機器の製造・販売を行う長田電機工業は、70ヵ国に輸出を行っている。イスラエルでは市場シェア30%超を獲得するなど、海外進出に成功した一社といってよいだろう。同社の強みは、高い品質と迅速かつ手厚いメンテナンスの体制だ。品質においては、宮内庁にも納品実績があり、信頼度が高い。ラインによる生産ではなく、医師の要望を生産に反映できる生産体制をとっていることも高品質の一因だ。

また、メンテナンスにおいても、アメリカでは依頼を受けて3日以内にメンテナンスを行うという仕組みを構築し、絶大なる信頼を得ている。海外進出する際は、機械だけでなく、このメンテナンスのノウハウも一緒に進出しているのだ。特にイスラエルの歯科医師には高い評価で、2014年にはイスラエルの歯科系学会にも出展している。品質の高さだけでなく、メンテナンスの仕組みという強みを海外展開できたのが、同社の成功要因といえるだろう。

海外進出する際に気をつけたい2つのポイント

海外進出で失敗した企業は、どのような点でつまずき、失敗に至ったのだろうか。大企業であっても、必ず海外でうまくいくとは限らない。失敗の事例を見てみよう。

現地でビジネスができない、意思決定が遅い

基本的には、ビジネスは現地・現場で意思決定をすることが最も確実である。とはいえ、海外子会社や海外拠点の場合、意思決定を行うのが日本になってしまうことがあり、それが原因でビジネスがうまくいかない、というのはよくあるケースだ。

世界60ヵ国以上でビジネスを行うリクルートも、過去、中国での進出で苦戦したことがある。2001年にゼクシィ事業で中国に参入し、2003年には現地パートナーと合弁企業を作った。しかし、プランニングをしたのが経営企画で、実際にビジネスを行う人ではなかったため、次第に本社が現地法人にアドバイスするようになったそうだ。結果、想定通りに成果を上げられず、早期撤退に追い込まれてしまった。

この反省を機に、リクルートでは、2010年ごろからは、M&Aによる海外市場への参戦を行っている。「現場を最もよく知る人に任せる」というポリシーに沿って、事業部がM&Aを主導し、M&A後も事業部から現地に人を派遣して、原則的には現地でビジネス判断を行うようにしている。結果、現在は60ヵ国以上でビジネスを行うことができている。

海外の場合は、その場その場でのビジネス判断を求められることも多い。スピードがないと競合に後れを取ることもある。もちろん、海外だけで進められないケースもあるが、極力現地で任せる仕組みをとることが大事だといえるだろう。

競合調査やマーケティングの見通しが甘い

日本である程度ポジションがあって、さらに海外のブランドを買収し、ある程度の知名度を持った状態で参入したとしても、決してうまくいくわけではない。競合やマーケティングの見通しが甘く、撤退を余儀なくされた事例もある。

大手ビール会社のキリンは、2011年に、ブラジルのビール会社である、スキンカリオールを買収し、ブラジルでの事業展開を進めた。同社はブラジルでは市場シェア15%、2位のシェアだったが、3位のペトロポリスが攻勢をかけ、市場シェアを奪われてしまったのだ。さらには、首位を独走するアンハイザー・ブッシュ・インベブとの価格競争が激化、ブラジルの好景気が長く続かない、レアル安などの想定外の事態が続き、なかなか思うように業績を伸ばすことができなかった。結果、2015年度では上場来初の赤字決算になってしまった。2017年に770億円で売却したものの、買収金額は3,000億円で、ブラジル事業は失敗したといえるだろう。

失敗の背景にあるのは、見通しの甘さだ。もともとキリンが買収した際のEV/EBITDA倍率(どれくらい割高で買収したかどうかの指標。倍率が高いほど割高)は約16倍で、同業平均の12倍より割高だった。ブラジルでのビール消費の伸びなど、魅力的な材料にばかり目を奪われ、こういったリスクの見通しが甘かった部分があるといえるだろう。大企業の場合、資金力があるため失敗してもやり直しがきくが、中小企業の場合は一度の大失敗が命取りになる可能性もある。リスクに関しては、保守的に見積もるくらいがちょうどよいかもしれない。

海外事業がうまくいかない!撤退する際のポイントを解説

海外事業は不確定要素が強く、うまくいかないケースが多いことがわかっただろう。もしうまくいかなければ、撤退を考える必要がある。撤退のときは、どのような点に注意すればよいのだろうか。

進出する際のリスクを抑える

一番のポイントは、進出する際に、できるだけリスクを抑えて進出することだ。そうすれば、仮に進出に失敗したとしても、リスクは限定的になるからである。

その方法の一つとして考えられるのが、他社と一緒にではなく、できるだけ資本は単独で参加することだ。もちろん、国によっては、現地会社と合弁を組む必要があるなど、独資で出資することが難しいこともある。しかし、日本の企業同士の共同出資という形をとると、事業がうまくいかない場合でも、単独で方向転換したり、撤退の判断を行ったりする際でも、パートナーと合意形成しながら進める必要がある。そうなると、自社の意思が反映されなかったり、意思決定が遅くなって損失が拡大したりする可能性がある。できるだけ意思決定を自社だけで行う仕組みを作ることが重要だ。

初期負担を抑えることも重要だ。例えば、補助金を活用する、自社ですべて機能を担うのではなく、外部パートナーを部分的に活用するなどが方法として考えられる。撤退を判断する基準の一つとして、「投資資金を回収したかどうか」が判断基準になるケースもあるだろう。初期投資が少なければ少ないほど、その分回収も早く、撤退判断が容易にできるようになる。

撤退時のプランを決めておく

海外進出で失敗したとしても、撤退できず、損失が拡大したというケースもある。撤退は、撤退したいと思ってすぐにできるわけではない。例えば中国では、経営陣全員が撤退に合意しなければ撤退できず、従業員に補償金を払わなければいけないケースもあるなど、一筋縄ではいかない場合が多い。

撤退時の損失を最小限に抑えるためには、撤退時のプランを決めておくことも重要だ。もともと撤退までに1年かかると見積もっていた場合とそうでない場合とでは、撤退時の判断のしやすさが異なってくる。現地の法律や商慣習を理解する際には、撤退に関する法律や商慣習も併せて理解し、海外進出の判断基準にするとよいかもしれない。

国内の事業に影響を及ぼさないようにする

海外進出で最も危惧すべきなのは、国内の本業に悪影響を与えることである。ビジネスの発展のために行った海外事業が国内にマイナスの影響を及ぼせば、それこそ本末転倒といえるだろう。例えば、会社として出資するのではなく、個人として会社と切り離して出資すれば、海外事業がうまくいかない場合であっても、日本の会社に影響を及ぼすことはない。出資ではなく、貸付金という形にすれば、さらにリスクを低減できるかもしれない。最小限、国内の事業に影響を及ぼさないようプランニングすることも重要だ。

海外進出する際は、前例で学びながら慎重に進出したい

魅力が大きい海外進出だが、決してすべての企業がうまくいっているわけではなく、失敗したというケースも少なくない。リクルートやキリンのような大企業でさえ、海外進出で痛い目にあった過去があるのだ。一方、中小企業であっても、成功している企業もある。

もし、海外進出を検討する際は、過去の企業が、どのようなポイントで成功したか、失敗したかを分析しながら、慎重に検討を重ねた方がよいだろう。しかし、どれだけ検討を重ねても、不確定要素が大きいことは忘れないでおきたい。撤退することを想定するのは難しいかもしれないが、常にその可能性を頭に置いておくことも、リスクを小さくする上では重要だといえるだろう。

文・THE OWNER編集部

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