会社の業績が良いため、役員に対して「役員賞与」を出したい場合がある。しかし、業績が良いからといって役員に一時金を支払うと、それを損金に算入することは認められない。

役員賞与の損金算入が認められるのは、原則としてそれが「定期同額給与」「事前確定届出給与」である場合だけだ。また、社会通念上妥当な額でなければならない。この記事では、役員賞与が損金算入されるための条件について詳しく見ていく。

突発的な役員賞与は損金に算入できない

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(写真=PIXTA)

「業績が良いから役員に賞与を支払おう!」と突発的に支払われる役員賞与は、損金に算入できない。中小企業は、役員の賞与を増減させることで利益を調整することが比較的容易なので、役員報酬や役員賞与については法人税法で厳しく制限されているのだ。

たとえば、期末に100万円の利益が出たので、これにかかる税金を支払うくらいなら役員に賞与を出してあげたいと思っても、それは脱税と見なされてしまう可能性がある。

もし、役員賞与の損人算入が税務署から否認されるとどうなるか?

上の例だと利益は100万円に戻り、そこに法人税が課税される。それだけでなく、役員賞与として支払った100万円は支給時に所得税が課税されているので、法人税と所得税を二重に支払わなければならなくなってしまうのだ。

役員賞与が損金として認められる条件

役員賞与が損金として認められる条件は、中小企業の場合は以下の2つだ。

1. 定期同額給与とする
2. 事前確定給与とする

定期同額給与とは?

定期同額給与とは、毎月決まった額の報酬を支払うことだ。支給時期は、1ヵ月以下の一定の期間ごとでなくてはならない。また、事業年度内のそれぞれの支給額は、原則として同額でなければならない。

一般的に、賞与は年に数回支払われるものだ。しかし、それでは支払い間隔が1ヵ月以上になってしまうため、定期同額給与にならない。

役員賞与を定期同額給与とするためには、賞与を12分割して毎月の役員報酬に上乗せするかたちにするほかない。

事前確定給与とは?

事前確定給与とは、所定の時期に所定の金額の役員賞与を支払うことをあらかじめ税務署に届出ておく給与のことである。

事前確定給与は、届出の時期が決められている。したがって「業績が良いから役員賞与を支払おう」ということはできないため、事前確定給与は損金算入が認められているのだ。

次に、定期同額給与と事前確定給与を利用する方法を見ていこう。

定期同額給与の利用方法

まずは、定期同額給与の定義を確認しておこう。

「その支給時期が1ヵ月以下の一定の期間ごとである給与で、その事業年度の各支給時期における支給額または支給額から源泉税等の額を控除した金額が同額であるもの」

たとえば、3月決算の会社で4月から3月まで12ヵ月の役員報酬が100万円なら、それら12回の報酬は定期同額給与ということになる。

給与改定を行う場合

役員報酬の改定は、事業年度の開始から3ヵ月以内のものについて認められる。決算が3月なら、6月30日までであれば役員報酬を改定できる。改定前および改定後における役員報酬の額は、「改定前は毎月100万円、改定後は毎月130万円」など、毎月同額でなくてはならない。

そのほか、以下の理由がある場合も役員報酬の改定は認められる。

・職制上の地位の変更などのやむを得ない事情がある
・会社の経営状況が著しく悪化した

株主総会での決議が必要

役員報酬を決定あるいは改定する場合は、株主総会での決議が必要だ。役員賞与を給与に上乗せする場合も、やはり株主総会で決議する。

定期同額給与を利用する場合は、株主総会での決議があれば税務署に届け出る必要はない。

事前確定届出給与の利用方法

事前確定届出給与に関する届出書を提出する期限

事前確定届出給与を利用するためには、税務署に対して「事前確定届出給与に関する届出書」を提出する必要がある。提出期限は、以下のいずれかのうち最も早い日と決められている。

1. 株主総会で役員賞与についての決議をした日から1ヵ月を経過する日
2. 会計期間開始日から4ヵ月を経過する日
3. 新設法人の場合は設立の日から2ヵ月を経過する日

3月決算の会社が、5月25日に株主総会において役員賞与について決議したとすると、1.は6月25日、2.は7月31日となるため、提出期限は6月25日になる。

役員賞与の額をあらかじめ決めておけば、「利益が出たから役員賞与を払う」などといった利益調整ができなくなる。そのため、事前確定届出給与は損金算入が認められているのだ。

事前確定届出給与に関する届出書は、仮に内容に変更がなくても、事前確定届出給与を支給する事業年度ごとに毎年提出しなければならない。

事前確定届出給与に関する届出書の記載内容

事前確定届出給与に関する届出では、届出書と付表を提出する。届出書と付表の記載内容は、以下のとおりだ。

【届出書】

図1

・法人の納税地や法人名、法人番号、代表者氏名、代表者住所など
・届出の対象が連結子法人である場合は、連結子法人の法人名や所在地、代表者氏名、代表者住所など
・事前確定届出給与に係る株主総会等の決議をした日、および決議をした機関等(株主総会、報酬委員会、取締役会など)
・事前確定届出給与に係る職務の執行を開始する日
・臨時改定事由を届け出る場合は、臨時改定事由の具体的な内容と臨時改定事由が生じた日
・付表番号の最初と最後の番号
・事前確定届出給与を定期同額給与としない理由、および事前確定届出給与の支給時期を付表の支給時期とした理由
・該当する届出期限

【付表】

図2

・事前確定届出給与対象者の氏名、役職名
・事前確定給与届出に係る職務の執行の開始の日、職務執行期間
・事業年度
・職務執行期間開始の日の属する会計期間
・支給時期、支給額

事前確定届出給与を変更するには?

役員賞与の額を増やす、あるいは減らすためには、原則として次の事業年度まで待ち、株主総会で再度議決をすることになる。ただし、以下の2つの事由では年度内の変更が認められる。

・臨時改定事由 …役員としての職務内容や地位などが大きく変わった
・業績悪化事由 …経営状態が著しく悪化した

これらの事由により事前確定届出給与を変更する場合には、事由が発生した日から1ヵ月以内に「事前確定届出給与の変更届」を提出する。

役員賞与は社会通念上妥当な金額でなければならない

役員賞与は、定期同額給与または事前確定届出給与のかたちを取ることで損金に算入できる。賞与の額は自由に決めることができるが、社会通念を逸脱し不当に高額であると税務署に判断されると、不当に高額な部分については損金算入ができなくなるケースもある。

社会通念上妥当な役員賞与とは?

役員賞与が社会通念上妥当であるかどうかについて明確な基準は存在しないが、以下の2つの観点で総合的に判断される。

1. 定款の規定や株主総会の決議などによる「報酬限度額」の規定に適っているか
2. 役員の職務内容や法人の収益状況、同業他社や社内の他の役員の賞与と比較して妥当であるか

役員賞与を支給する際は、支給方法や金額について税理士などの専門家に事前に相談することをおすすめする。

使用人兼役員の場合

「使用人兼役員」、すなわち会社の役員であるとともに部長や次長などの職務についている人については、賞与についての扱いが通常の役員とは異なる。

使用人兼役員の使用人としての賞与については、定期同額給与や事前確定届出給与などのかたちを取ることなく、損金に算入できる。

ただし、使用人としての賞与は同じ職務を行っている役員ではない使用人と比較して、妥当な額であることが求められる。それを超える部分があれば、定期同額給与あるいは事前確定届出給与のかたちを取る必要がある。

なお、以下の役員は使用人兼役員になれない。

・代表取締役、代表執行役、代表理事および清算人
・副社長、専務、常務や、これらに準ずる職制上の地位の役員
・合名会社、合資会社、および合同会社の業務執行役員
・取締役、会計参与、監査役および幹事

また、同族会社の場合は以下の役員も使用人兼役員になれない。

・持株割合10%を超える株主グループに属している
・個人としての持株割合が5%を超えている

業績連動給与について

役員賞与を損金に算入する方法として定期同額給与と事前確定届出給与を解説したが、実はもう1つ方法がある。それは、「業績連動給与」だ。

業績連動給与とは、会社の業績に役員の給与や賞与を連動させて支給する給与のことだ。会社の業績として、利益や株価、売上高などの指標を用いる。

ただし、業績連動給与を損金算入できるのは、有価証券報告書を提出している上場企業などに限られる。中小企業では損金に算入できないため、この記事では説明を省略する。

損金算入による節税効果

役員賞与を損金に算入できれば、節税効果が生まれる。法人税の税率が30%だとして、100万円の役員賞与を支給すると、その分の法人税30万円を節税できる。

ただし役員賞与を受け取った役員は、所得税や住民税を支払わなければならない。賞与の額が多いと所得税・住民税も増えるので、役員にとってはデメリットとなることもある。

また賞与の額が多いと、社会保険料の負担も大きくなる。役員賞与を決める際は、法人税や所得税、住民税の額、社会保険料の額を鑑みて、総合的に判断すべきだろう。

役員に対する経済的利益とは?

役員に対する給与および賞与には金銭のほか、以下の経済的な利益も含まれる。

1. 資産を贈与した場合はその資産の時価
2. 資産を時価より低額で譲渡した場合は時価と譲渡額との差額
3. 債権を放棄あるいは免除した場合は、放棄・免除した債権の額
4. 無償あるいは低額で居住用の土地や家屋を提供した場合は、通常受け取るべき賃貸料と実際に徴収した賃貸料との差額
5. 無利息あるいは低率で金銭の貸付をした場合は、通常受け取るべき利息と実際に徴収した利息との差額
6. 役員などを被保険者または保険金受取人とした生命保険契約の保険料の全部あるいは一部を負担した場合は、その負担額

これらの経済的な利益は、金額が毎月おおむね一定している場合は定期同額給与に該当することになり、損金に算入できる。しかし、その他の場合は損金には算入できない。

事前確定届出給与は、給与が以下のいずれかでなければならない。

・確定した額の金銭
・確定した数の株式(出資を含む)または新株予約権
・確定した額の金銭債権にかかわる特定譲渡制限付株式もしくは特定新株予約権を交付する旨の定め

したがって上記の経済的利益以外については、事前確定届出給与として損金に算入することはできない。

そもそも「役員」とは?

ここまで役員報酬と賞与について見てきたが、そもそも「役員」とはどのような人を指すのだろうか。 ここで、法人税関連法を確認しておこう。

法人税関連法における「役員」の定義

役員は、法人税法2条、法人税法施行令7条および71条、法令解釈通達9-2-1において、以下のように定められている。

1.法人の取締役、執行役、会計参与、幹事役、理事、幹事および清算人

2.1以外で、以下のいずれかに当たる者
(1)法人の使用人以外の者で、その法人の経営に従事している者
これには、以下のような人が含まれる。

・取締役または理事となっていない総裁、副総裁、会長、副会長、理事長、副理事長、組合長など
・合名会社、合資会社および合同会社の業務執行社員
・人格のない社団などの代表者または管理人
・法定役員ではないが、法人が定款などにおいて役員として定めている者
・相談役、顧問など、その法人内における地位、職務などからみて、他の役員と同様に実質的に法人の経営に従事していると認められる者

(2)同族会社の使用人のうち、以下にあげるすべての要件を満たし、会社の経営に従事している者

・その使用人が、持株割合が50%を超える第1順位あるいは第1~第2順位、第1~第3順位の株主グループに属している
・その使用人の属する株主グループの持株割合が10%を超えている
・その使用人の持株割合が5%を超えている

会社法と法人税法では役員の定義は大きく異なる

会社法では、役員は「取締役、会計参与および監査役をいう」とだけ定めている。

また、会社法施行規則においては「取締役、会計参与、監査役、執行役、理事、監事その他これらに準ずる者をいう」と定められている。

それに対して法人税法・関連法においては、会社法で定められている役員に加え、上記(1)(2)も役員と見なされる。これらは「みなし役員」と呼ばれる、税法独自の定めである。

税法においては、「取締役」「会計参与」などの役職名だけでなく、実態として経営にかかわっているかどうかに着目し、役員であるかどうかが判断される。

したがって、みなし役員に該当する場合は、税法上は給与や賞与などは通常の役員とまったく同じ扱いになる。よって、ここまでで見てきたとおり、以下の点に注意しなければならない。

・賞与は、定期同額給与、あるいは事前確定届出給与でなければ損金不算入
・社会通念上不当に高額な給与・賞与は損金不算入

役員賞与の損金算入は一筋縄ではいかない

業績が良かったからといって役員に対して突発的に賞与を支給しても、損金には算入できない。損金に算入するためには、役員の賞与は定期同額給与または事前確定届出給与のいずれかでなければならないのだ。

また、以下についても十分注意したい。

・社会通念上不当に高額な給与・賞与は損金算入を否認されることもある
・役員に対する金銭以外の経済的利益も給与・賞与とみなされる
・役員であるかどうかの判断は、税法上は役職名だけではなく実態に即して行われる

文・THE OWNER編集部

(提供:THE OWNER