(本記事は、野村洋文氏の著書『健康寿命は歯で決まる!』イースト・プレスの中から一部を抜粋・編集しています)

むし歯と歯周病のエトセトラ

歯周病
(画像=Stockbakery/Shutterstock.com)

古今東西、いつの時代でも、歯の痛みは人間にとって悩みの種。シェークスピアの『から騒ぎ』には、「いくら哲学者でも、激しい歯の痛みは我慢できない」というセリフがあります。

例外中の例外はいます。フランスの天才哲学者パスカルは、数学に没頭することで歯の痛みから逃れようとし、結果、世紀の難問を解き明かしてしまいました。「パスカルの歯痛」として知られております。天才モーツァルトは、晩年、むし歯の痛みに苦しみ、彼の最後の作品「レクイエム」は、歯痛、さらには頭痛と葛藤しながら生み出したようです。

さらにさかのぼること、ローマ帝国時代、ラルグスという皇帝のおかかえ医師がいました。彼は、「歯の虫が、むし歯の原因である」と唱えます。その虫を退治するのに、密閉空間で薬剤をガス状態にして、有害物質を駆除する、燻蒸法という方法を推し進めていました。すごく危険なイメージを抱きますが、そこまでしても治したい、古代人の歯痛に対する悲痛な叫びが聞こえてきますね。

そうそう、スパイスの種類にクローブってありますよね。身近なところではカレーに含まれているやつです。アーユルベーダというインドの伝統医学には、歯痛の鎮痛剤として利用するようにと述べられており、インド人は歯が痛くなると、クローブを歯に塗るそうです。

これは間違ってはおりません。クローブは強力な鎮痛作用と抗菌作用を有していることがわかっております故。

もう一例、初代アメリカ大統領ジョージ・ワシントンに登場いただきます。彼は20代半ば頃から歯周病に悩まされ、年を追う度に歯が抜けてしまい、大統領就任中には、すべての歯をなくしたといいます。

さてさて、「歯の痛み」は今も少し触れましたように、むし歯の痛みと歯周病の痛みが主な原因です。

手っ取り早く説明しますと、歯に穴が開いて、歯の中の神経が過敏になり痛み出すのが「むし歯」。歯自体に問題がないのにもかかわらず、歯を取り囲んでいる、歯肉や骨が炎症を起こし、挙句の果てに骨がとけてしまい、歯がグラグラ動き出し痛みを生じるのが「歯周病」。どちらもメインは、性格も性質もまったく異なる別々の細菌により引き起こされます。

本当に知りたい!? むし歯の原因

優秀なる成人君子様(!?……僕の造語です)、すみませんが、小学校の授業にタイムスリップさせてください。

むし歯は、むし歯菌がガリガリ歯をかじることで、歯に穴が開くわけではありません。むし歯とは、口の中に住み着いているむし歯菌(主に、ミュータンス菌)が、食べ物や飲み物に含まれる糖質(主に、砂糖)をエサに代謝をした結果作られる酸によって、歯が溶かされ穴が開いてしまう疾患を言います。

ところで、砂糖の主成分はショ糖です。ブドウ糖と果糖が合体してできたものです。ちなみに、ブドウ糖がたくさん結合したものがデンプン。

縄文人の歯は、世界の他の原始民族の歯と比べてむし歯が多かったようです。それは、デンプンの摂取量が多かったことに起因します。

話を戻しまして、むし歯は「酸をつくるむし歯菌(主にミュータンス菌)」、「酸に溶けやすいかどうかという歯の質」、そして「細菌のエサとなる糖質(主に砂糖)」、この三つの好ましくない条件が重なり、時間が経過することで発生するのです。

ここで、むし歯菌の性格を大まかに説明いたしましょう。まず砂糖が大好き、そして酸素が大好きです(好気性菌と言います)。球状の細菌が数珠のように繫がって生活しております(連鎖球菌と言います)。

酸素にありつけるよう、口の中の比較的目立ったところに生息しております。歯のツルツルとした表面なんかまさにそうですよね。

歯周病を起こす歯周病菌は、主にキスや、合わせ箸等による唾液感染で人から人へとうつります。無意識のうちに移しっこをしているわけです。

しかしながら、むし歯菌はその可能性はありません。人の口には常在菌という細菌たちの村々がありまして、他の細菌が入り込んでくることができないようなシステムになっております。むし歯菌もご多分に漏れず、自分たちで仲良くタッグを組んで生活しており、他の菌を押しのけて、他の村に入り込んでいく性格ではありません。

ここで大事なことを話します。食事の後、食べかすを歯につけたままにしておきますと、そこにむし歯菌をはじめとする細菌が繁殖し、歯垢(プラーク)というネバネバ物質をつくってしまいます。プラーク=むし歯菌のかたまり、とイメージしてください。

プラークがむし歯の原因と巷で言われている理由がおわかりいただけると思います。くどいですが、プラークは単なる食べかすではありませんよ。

ちなみに、一般的には女性の方が男性よりもむし歯になりやすいと言われております。歯の生える時期が女性の方が早く、それだけむし歯菌の脅威にさらされる期間が長いこと。歯の表面の硬さが男性に比べて弱いこと。そして男性よりも砂糖を含む甘いものを好む傾向がある。などが原因のようです。

痛〜い! 知覚過敏の治し方

むし歯菌が原因で、歯に穴が開き、歯の中の神経が過敏になり痛みを生じることを「むし歯」と呼称することを述べてきました。

むし歯で歯に穴が開いているわけではないのに、ピカピカの健康な歯なのに、歯ブラシの毛先が歯に触れるだけで、また、冷たい飲食物、甘いもの、を摂取した時、口を開けて風にあたった時、瞬間的に痛みを感じる場合があります。この症状を、「知覚過敏」と言います。

知覚過敏は何故起きてしまうのでしょうか?まず、生理的な現象として、加齢と共に歯肉が下がることが挙げられます。

歯肉が下がると、それに覆われていた歯の部分が露出してしまいます。その、歯と歯肉の境目部分は、エナメル質(人体の中で一番硬い物質)に覆われておらず、セメント質というものでできております。

このセメント質は、エナメル質とは比較にならないほど軟らかくて、外界の刺激を歯の内側に伝えてしまいます。それにより中にある神経が過敏になり痛みを生じてしまうのです。

生理的な現象ではなく、歯肉炎や歯周炎で歯肉が下がると、同様に痛みが生じます。

そして、知覚過敏の一番の原因に挙げたいのですが、「歯の横みがき」です。

歯の付け根部分を、必要以上に強い力で、横向きにした歯ブラシでゴシゴシ磨いてしまうことを言います。

歯と歯肉の境目は硬さ的に弱いことは述べました。慢性的に、ゴシゴシ歯ブラシでこすり続けると、その部分がくさび状に削れてきて、痛みが生じてしまいます。

この、歯の横みがき、歯の丈夫な人ほど無意識にしてしまう傾向があります。硬い毛の歯ブラシを使用されていることが多いです。硬い毛の歯ブラシでないと磨いた気がしないようなのです。

歯や歯肉の汚れを取るという本来の目的から逸脱し、腕の運動と化してしまっているのです。

この歯の横みがき、直していただくのが本当に難しい悪習癖なのですよ。心当たりのある方、今からすぐに止めてくださいね。

知覚過敏で済むならまだしも、ひどい人になると、削れるどころか、歯が根元から折れてしまうケースもあります。

また、電動歯ブラシ、音波歯ブラシの誤った使用でも知覚過敏は生じてしまいます。歯にあてておくだけで良いのに、さらに、自分で力を加えてしまうため、歯を削ってしまうことになるのです。動いているエスカレーターの上を歩いたり走ったりしているようなものですね。

むし歯で歯に穴が開いていないにもかかわらず、飲み物がしみる、歯みがきする度に、ピリピリっと歯が痛む、そんな症状が続くようでしたら、まず、知覚過敏を疑って間違いはないでしょう。

知覚過敏になってしまったら、市販の知覚過敏専用歯みがき粉に替えるのも一つの方法です。この歯みがき粉は、歯の最表層のエナメル質を傷つけないよう、含有歯磨剤量を最小限にとどめているのが特徴です。また、最近では、乳酸アルミニウム配合により、歯の中の神経に伝わる刺激をブロックする作用を有するものも出ております。

ご自身の対処法で痛みがとれない場合、歯科医院に行かれてください。知覚過敏に対処する薬を歯に塗る治療、レーザーを歯にあてる治療、などがあります。いずれも、原理は同じでして、外界からの刺激をブロックすることで、歯の中の神経に痛みを伝えないようにします。

健康寿命は歯で決まる!
野村洋文(のむら・ひろふみ)
昭和43年4月6日、埼玉県入間市生まれ。日本大学歯学部卒業、トロント大学歯学部留学。木下歯科医院副院長。中久喜学術賞受賞、歯学博士、 食と口の評論家(入間市)、社団法人オーラル・ビューティー・フード協会理事、日本摂食嚥下リハビリテーション学会会員。雑誌の口腔関連記事への監修、および、異業種と歯科医療とのコラボレーショなど、歯科業界の向上・飛躍を目指し多岐にわたり活動している。

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