(本記事は、野村洋文氏の著書『健康寿命は歯で決まる!』イースト・プレスの中から一部を抜粋・編集しています)
今も昔も、口臭は悩みの種
スメルハラスメント(スメハラ)なる言葉が、世間をにぎわせております。スメルハラスメント、ご存じない方のために説明しますと、臭いを原因として、周囲に不快な思いをさせる行為を言います。
その中には当然、口の臭いである、口臭も含まれています。職場を退職する理由として、口臭を含むこのスメルハラスメントが挙がるようになるほど、現在、社会問題となりつつあります。
社会全体の清潔志向が強まり、生活の場の清潔さの要因として「臭い」が上位に位置づけられたため、特に、口臭を気にする人が増加してきているのです。市販されている、口臭予防剤の種類の多さを見ても、関心の高さがうかがわれますね。
古今東西、人間が口臭で悩んでいたのは明らかで、釈迦の戒律をまとめた「律蔵」という仏典には、「僧たちは口が臭かったので、釈迦は、歯木(昔の歯ブラシのようなもの)を噛むようにさとした」と記されております。
さらに、我が国でも、平安時代末期の、「病草紙」という当時の病やその治療法がかかれた絵巻物には、美しい女性に言い寄ってきた男が、彼女のひどい口臭にあわてふためき、逃げ出す話がかかれております。
また、古代ローマ帝国では、口に対する衛生意識が想像以上に高かったようでして、口臭予防のドロップスを一般市民が普通になめていました。ちなみに、ドロップスをずっとなめ続けているというのは、溶けるまで口の中に砂糖を供給していることになりますから、むし歯になりやすい環境をつくっている状態ではありますよ。ご注意ください。
余談ですが、30円で30分なめ続けられるフレーズのドロップスにチュッパチャプスがあります。チュッパチャプスはスペインのバルセロナが発祥でして、あのインパクトのあるロゴをデザインしたのは、サルバドール・ダリというシュルレアリスムの巨匠です。
話を戻しましょう、そのぐらい、口臭は人間にとって耐えられないものでして、「スメハラ」というフレーズの登場は、遅すぎたと言っても過言でないのです。
実際、僕はほぼ毎日、患者さんと接しておりますが、口臭でお悩みの方の実に多いことに驚かされます。「歯みがきを一生懸命しています。洗口剤で念入りにうがいをしております。しかし、一向に口臭が無くなりません。どうすれば良いのでしょうか?」と、心細げにため息をつかれる方に毎日のように出くわします。
そんな方のために、この章では、口臭に関しての正しい知識をお教えしたいと思います。さらに、読み終えた後、口臭に関して世の中に流布している俗説(胃が悪いと口臭がする、など、実際に胃の中の臭いが食道をとおって口から出ることはありません)に振り回されることは無くなるでしょう。
えっ! 口臭と香水は同じ!?
では、何故、口臭が発するのでしょうか? その前に、口臭の成分についてお話ししますね。
口臭の成分で、高頻度に検出されるのは、硫黄化合物というもので、硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルサルファイドがこれにあたります。いきなりややこしい名前を出してすみません。
端的に言いますと、硫黄の化合物です。硫黄と聞いてピンとくるものがあるのではないでしょうか?そうです、温泉に行くと、ツーンとした臭いがしますよね。その主成分です。
この硫黄化合物に、その他の微量な成分が混入し、独特の口臭になります。
香水がさまざまな成分をブレンドして独特の匂いとなるように、不快な臭いも、これらの成分が口腔の湿気とも混合されて、独特の臭いになるのです。また、臭気に対する個人の感覚なので、感受性に差があります。香水も人によって好みがあるように、不快な臭いの感じ方にも個人差があります。
ちなみに、デパートの1階に化粧品売り場が多い理由をご存じでしょうか? 香水などの匂いがフロアに充満してしまうので、その匂いを外に逃がしやすくするためのようです。
さて、口臭の発生に重要な役割を果たしているのが唾液です。唾液の量と性状が、口臭に大いに関わっています。
まずは、唾液の出る仕組みにしばしお付き合い願います。唾液は、口の中に自分勝手にビチャビチャ出ているわけではありません。視覚、聴覚、臭覚、そして味覚などの刺激により、自律神経(さまざまな臓器・器官の働きを調節しており、自分の意志では調整できない)の交感神経もしくは副交感神経を介して、3つの大唾液腺と7つの小唾液腺という袋から分泌されます。
唾液には、サラサラした唾液と、ネバネバした唾液がありまして、サラサラ唾液は、副交感神経が主に支配しており、気分が落ち着いている時に分泌されます。ネバネバ唾液の方は交感神経が主に支配しており、ストレスを感じたり、疲れていたりすると分泌されます。
サラサラ唾液が多く分泌されると、口臭の原因である悪玉菌が食道に洗い流され、結果、口臭の予防になります。その一方で、ネバネバ唾液の分泌が盛んになると、悪玉菌は口腔内に滞ってしまいます。さらにネバネバの元であるムチンという物質を悪玉菌が好むため、菌が繁殖して、サラサラ唾液が分泌されている時と比べると相対的に口臭は強くなります。
コーヒーと牛乳は口臭の原因だった!
口臭の身近な原因として、まず、食べ物、飲み物が挙げられます。ニラ、ネギ、ニンニクを食べた後の口の臭い、おわかりいただけますね。僕もニンニク、ニラ、大好き人間でして、バクバク食べてしまいますが、翌朝の代償は大きく、まさに後悔先に立たずです。これらの食材の成分に含まれる硫黄化合物が、主たる口臭の原因です。
意外と思われるかもしれませんが、コーヒーも口臭の原因になります。イメージ的に、口臭消しに一役買っている感じがしますが、実際は真逆です。
コーヒーに含まれるカフェインが主な原因です。カフェインの興奮作用で、交感神経が優位になると、先ほど述べたように、ネバネバ唾液が分泌され口臭が発生しやすくなります。
さらに、コーヒーには利尿作用があります。この作用により、体内の水分が奪われるとと同時に、口腔内の唾液も奪われ(唾液の99.5%は水分です)、口の中が乾燥して潤いが無くなり、悪玉菌が停滞して、口臭が発生してしまうのです。
今度、意識してコーヒーをお飲みくださいませ。口の中がネバネバし、乾燥していることに気づかれますよ。
また、舌の表面は拡大して見ると、舌乳頭というじゅうたんの毛のような凸凹で覆われております。その凸凹の隙間に焙煎したコーヒー豆の粒子が停滞することで口臭を発生させると言われています。
今流行りの「エナジードリンク」も口臭の原因になりますから気を付けてくださいね。カフェインが多く含まれています故、コーヒーと同様の理由から口臭の原因になるのです。
そのコーヒーは、イスラムからヨーロッパに伝えられました。そこで開花し、カフェ文化を生み出したのですが、特にイギリスで大流行しました。コーヒーに砂糖を入れて飲む習慣が定着すると、砂糖の消費量が、爆発的に増加します。
その結果、みなさん、むし歯で悩まされるようになりました。どうにかして、その苦しみ、悩みから救ってあげたい、その願いが歯科医療を発展させました。ちなみに、歯科医療はイギリスから、と言われております。
実は、牛乳も口臭の原因になります。以前、「二日酔いには牛乳が良い」という説に飛びつき、泥酔した翌朝、ガブガブと、牛乳を食道に流し込んだ記憶がよみがえりました。実際は、牛乳にアルコール分解能力があるわけではなく、アルコール分解で大量のタンパク質を使用した肝臓に、牛乳に含まれるタンパク質を与えることで助けてあげる、という解釈が医学的に正しいようです。
話を戻しまして、牛乳に限らず、ヨーグルトのような乳製品も、硫黄化合物を含んでいるため、口臭の原因になります。また、舌の上に停滞しやすい形状であることも、臭いを助長させてしまうのです。
人と会う直前にニンニクを口にされる方は、あまりいらっしゃらないと考えますが、意外な伏兵であるコーヒーと牛乳、には気を付けてくださいませ。
ストレスとダイエットも口臭の原因!
他の口臭の原因として、ストレス、心配事、緊張が挙げられます。
先ほど述べました唾液と交感神経、副交感神経、そして悪玉菌との関係を思い出してください。ストレスや心配事で、身体が緊張状態になると、交感神経が優位に働きます。そうなると、サラサラ唾液の分泌が抑えられ、口の中をネバネバ唾液が支配します。その結果、悪玉菌が我が物顔に振る舞い、口臭が発生してしまうのです。
恐怖映画を観ている最中は、間違いなく口臭は強くなりますよ。カップルで劇場観覧される場合は、ご注意くださいませ。
さらに、ストレスや緊張に関係するのですが、実際には口臭がないのにもかかわらず、自分で口臭がすると思い込んでしまうと、本当に口臭が発生してしまう場合があります。
客観的に口臭が感じられないにもかかわらず、仕事場の同僚や配偶者から、個人的な感情、もしくは口げんかでの言葉のあやから、「口が臭い」と吐かれ、自分は口臭がある、それが他人に迷惑をかけているかもしれない、と悩んでしまうケースです。その不安、緊張から、先に述べました交感神経が優位になり、ネバネバ唾液の支配下に置かれ、本当に口臭が発生するという悪循環に陥ってしまうのです。
そして、是非、知っていただきたいのが、ダイエット中に口臭が発生する事実です。
まず、お腹がすいてくると、脳が勝手に頑張って食べさせようとして、交感神経が優位になります。そうなると、またまた、ネバネバ唾液が大手をふって暴れ出します。もう、おわかりですね。口臭が発生してしまうのです。空腹時は、口臭に要注意なのです。
そう、ダイエット中は、空腹が続いている状態ですから、口臭が発生しやすくなるのです。
また、唾液の働き以外でも、お腹がすくと通常の糖を使用してエネルギーをつくる糖代謝以外に、脂肪を使用してエネルギーをつくる脂肪代謝が生じるため、副産物でアセトンという物質が発生します。
このアセトンという物質はリンゴの腐ったような甘酸っぱい臭いがしますので、口臭の原因になります。
糖尿病の方も、脂肪代謝の結果、アセトンを発生しますので、口臭が生じてしまいます。
逆に、口臭が消えない、のどが渇く、という症状が続くようでしたら、糖尿病の可能性を疑って内科医にご相談ください。
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