(本記事は、野村洋文氏の著書『健康寿命は歯で決まる!』イースト・プレスの中から一部を抜粋・編集しています)

つら〜いドライマウス

ドライマウス
(画像=FotoDuets/Shutterstock.com)

みなさんは、激しい運動の直後、のどの渇きがひどい時に、乾ききったひものや、ぱさぱさのパンを、口の中に入れたいと思われるでしょうか?

ドライマウス(口腔乾燥症のことを言います)で苦しまれている患者さんは、食事の際、常時そのような辛い思いをされております。食事だけにとどまらず、いつも、口腔粘膜の乾燥に、違和感を覚えながら生活を送れられているのです。

話が前後しましたが、ドライマウスとは、さまざまな原因で唾液の分泌量が低下するか、まったく出なくなり、口の中が乾燥する病気です。

普段は意識しておりませんが、僕らが支障なくご飯を食べられたり、人と楽しく会話ができたりするのは、口の中を潤してくれている唾液のおかげなのです。

噛み砕いた食物の中に、唾液が混じり、食塊が口の中を自由に流れるからこそ、美味しく食事をとることができるのです。ですから、ドライマウスで唾液の分泌が無くなると、食事がうまくとれなくなりますので、食べられる料理も限定されてしまいます。

また、ドライマウスになると、味覚異常の症状が現れる場合があります。味として感じるには、舌をはじめとする口腔内の粘膜に分布する味蕾細胞からの味刺激が、正確な情報として脳に伝えられなければなりません。

ドライマウスで唾液の分泌が低下すると、味を伝達するための媒介となる液体が減少しますから、味刺激を味蕾細胞に伝えづらくなります。さらに、味蕾細胞を保護する役目も兼ねていた唾液が減少することで、口腔内の刺激がダイレクトに味蕾細胞に襲いかかり、味蕾細胞が萎縮を起こしたり、細胞数を減少させたりしてしまうことがわかっております。

ですから、何を食べても味がしない、痛くて食べづらい、楽しいはずの食事の時間が、苦痛な時間になってしまうのです。

これまでに、むし歯・歯周病の予防に、唾液の殺菌力がいかに重要な役割を果たしているかを、切々と説かせていただきました。ドライマウスで唾液の分泌が低下しますと、むし歯菌、歯周病菌をはじめとする、口腔内細菌の数が爆発的に増加してしまいます。

むし歯、歯周病の発症頻度が上昇することは言うに及ばず、誤嚥性肺炎などの全身的な疾患にも繫がってしまうのです。

唾液の分泌が減少しますので、口臭の原因になり、その口臭を気にしだすと、会話や対人関係が苦痛になってしまう、という負のスパイラルに陥ってしまうケースもあります。

また、唾液の分泌減少により、口内炎などの炎症が口の中にできると、完治するまでにかなりの時間を要してしまいます。

ドライマウスという症状が、いかに口腔機能を低下させるか、全身の健康に影響を及ぼすか、おわかりいただけたと思います。

その裏返しで、唾液が「健康で文化的な生活」を送る上で、なくてはならない物質であることをご認識いただけるとありがたいです。

ドライマウスの原因と対処法!

緊張した時やスポーツの後、一時的に口やのどが渇くことは誰もが経験することです。しかし、口の渇きを常に感じる状態が3ヵ月以上続くのが、ドライマウスです。

では、何故ドライマウスになってしまうのでしょうか? 原因をいくつか挙げてみます。

まずは、ストレスです。お話ししましたが、ストレスや緊張状態になると、交感神経が優位に働き、ネバネバした唾液に口の中が支配され、相対的に唾液の量が減ります。

ストレスが解消されれば、元の唾液量に戻りますが、ストレス状態が長く続きますと、口の渇きが慢性化し、ドライマウスになってしまうのです。

口の周りの筋肉が衰えることでも、ドライマウスになりやすくなります。噛む力が弱くなりますので、刺激が低下して唾液の分泌量は少なくなります。この現象は高齢者のみならず、近年、若者にも見られるようになってきました。軟食(軟らかい食べ物)中心の食生活で、噛む力が弱くなっているからだと言われております。

口呼吸の人はドライマウスになりやすくなります。人間は本来、鼻呼吸といい鼻で息をすることが大原則です。

しかし、悪習癖の一つ、口で呼吸をしてしまう口呼吸の人は、常時、口を開けた状態が続きますから、口が渇き、ドライマウスになってしまうのです。

それに関連して、全身の筋肉が衰えてくると、ドライマウスになりやすいと言われております。筋肉の衰えに付随して、姿勢が悪くなり、猫背で、顎が出てしまうので、結果、口で息をせざるを得なくなるためです。

そして、ドライマウスの原因で最も多いのは、薬の副作用であると言われております。

睡眠薬や精神安定剤、複数の薬を服用している人は、比較的ドライマウスになりやすいと考えられています。

自律神経の乱れに伴い、自律神経に支配されている唾液の分泌量が減少するケースと、症状緩和を目的とした、精神安定剤服用により、二重に口腔内を乾燥させてしまうのが原因です。

ちなみに更年期障害の女性もドライマウスになりやすいことがわかっております。

お酒の飲みすぎも要注意です。アルコールの飲みすぎが続くと、体内の水分バランスが崩れて、唾液の分泌量も減少し、ドライマウスを引き起こす場合があります。書きながら、わが身を振り返り、反省する次第です。

糖尿病や腎不全、そしてシェーグレン症候群(口腔や眼球の乾燥を特徴とする自己免疫疾患、難治性)も、大いにドライマウスと関連があります。裏を返せば、ドライマウスになってしまった場合、それらの全身疾患の可能性を疑われ、専門医を受診されるというのは、優等生的発想です。

ドライマウスの予防・対処法について述べます。ストレスが原因の一つに挙げられる以上、まず、自分に合ったストレス発散方法を見つけ、できるだけストレスをためないようにするのが大事です。

悩み事を一人で背負わないで、カウンセリングを受けるのもストレス解消の有効手段の一つであります。

また、噛む力を鍛えてください。

ガムを噛む習慣を身につけたり、歯ごたえのある食事を積極的にとったりするように心がけましょう。お酒の飲みすぎなど不規則な生活習慣に心当たりのある方は、お酒を控えてください。

耳下腺マッサージをすることで、サラサラした唾液の分泌を多くしましょう。また、顔面マッサージも、口の周りの筋肉を鍛えられますので、是非、取り入れてください。

ドライマウスの症状が出たら、悲観せずに、まずは、歯科医院、または、大学病院の口腔外科や、ドライマウス専門外来を訪れてください。

ドライマウスの治療には、基本、人工唾液や口腔内軟膏、洗口剤、保湿ゲルが対症的に用いられており、治療薬としては、唾液分泌促進薬が比較的高い治療効果を示しております。また、何種類かの漢方薬や唾液腺ホルモンなどが内服薬として処方されるようです。

反復しますが、口やのどの渇きが長期間続いている、食事をとることが難しくなった、口臭が気になるようになった、話しづらくなってきた、などの症状が出始めましたら、一人で悩まずに、流布している多くの情報に惑わされずに、まずは、専門医療機関に相談してください。

健康寿命は歯で決まる!
野村洋文(のむら・ひろふみ)
昭和43年4月6日、埼玉県入間市生まれ。日本大学歯学部卒業、トロント大学歯学部留学。木下歯科医院副院長。中久喜学術賞受賞、歯学博士、 食と口の評論家(入間市)、社団法人オーラル・ビューティー・フード協会理事、日本摂食嚥下リハビリテーション学会会員。雑誌の口腔関連記事への監修、および、異業種と歯科医療とのコラボレーショなど、歯科業界の向上・飛躍を目指し多岐にわたり活動している。

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