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メルカリ
株式会社メルカリは「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」をミッションに、個人間(CtoC)で簡単かつ安全にモノを売買できるフリーマーケットアプリ「メルカリ」を展開する日本企業だ。創業から5年後の2018年に東証マザーズ市場への上場を果たした。2018年6月期の連結売上は357億円なのに対し、上場日の終値に基づく時価総額は7000億円を超えるなど、非常に高い期待が寄せられている。「誰かには価値があるのに「捨てる」をなくす」という発想自体が斬新なサービスだが、プロダクトのカスタマー体験(CX)が非常に優れていることでも有名だ。
① 世界基準でカスタマー体験(CX)の改善に取り組む
メルカリジャパンのCEO田面木宏尚氏は言う。
「選択肢がいろいろあるなら、便利さを頭で理解して満足するのではなく、心で満足するサービスを使いたいですよね? 心で満足した体験は必ず周囲の人に伝播します。心に残るプロダクト体験を設計し、心で満足してもらえるサービスにすることが僕の考えるメルカリのゴールです」
カスタマー体験を良くすることは「メルカリのお客さまの気持ちを十分に理解すること」そのもの。しかしお客さまはあまり本音を語ってくれないし、多種多様な声の中から「これはサービス改善の種だ」と思われる声を探し出して最適解を見つけるのは至難の業だ。そこでメルカリでは、できる限り多様な形でVoCを集めることと、集めたVoCをできる限りの多くの人で読み込むことをしている。
ひとつの例が「VoC読み込み合宿」という取り組みだ。文字通りオフサイトの合宿形式で、チームに分かれて全員で事前に読んできたVoCを再度読み込み、一日中さまざまな角度から討議してお客さまの声を評価し、その中からプロダクト改善の最適解を見つけていく。
もう一つの例は「メルカリサロン」と呼ばれるオフラインのイベントだ。メルカリのお客さまに実際に集まっていただき、さまざまな意見を直接聞く座談会の場だ。そこにはメルカリのプロダクトマネジャーやカスタマーサービスのメンバーが同席する。
できる限り多様なVoCを集めるため、カスタマーサービスに届く声やサロンで直接聞く意見のほか、NPSやCSAT(Customer Satisfaction の略。顧客満足度。プロダクトへの満足度合いを数値化する指標)など世界基準のプログラムも活用している。また、山田進太郎会長も小泉文明社長もお客さまからの電話を取って実際の声を直接聞くし、田面木氏もサロンに参加してお客さまの意見を直接聞く。田面木氏は言う。
「先日、60歳以上のお客さまがお集まりになったサロンに参加しました。面白かったのは、共通の趣味をもつ人とのやり取りから『こんなものを好きと思ってくれる人がいるんだ』という発見をし、出品者と購入者が仲良くなって文通が始まったというんです。売買だけでなく、お客さま同士がコミュニケーションを楽しんでいらっしゃるというのは嬉しい発見でした」
メルカリでは、カスタマー体験を良くする取り組みを始める時に大切にすることがある。それは、声をあげてくれたお客さまへ改善したことをきちんと伝えるところまでのクローズドループが回る仕組みを「プログラム」としてまず先に作ることだ。なぜなら、プログラムが無い中でVoCを集めても、ただ「聞く」だけで改善につながらないことが多いからだ。
こうした一つ一つのことすべてが、メルカリという優れたカスタマー体験をもたらすプロダクトに直結している。
② テクノロジー「以外」もメルカリの大切なプロダクト価値
メルカリは、テクノロジーだけでなく、配送というリアルな部分もプロダクトとして強化する必要があると考え、アプリを上市して半年後には配送の強化に着手した。田面木氏は言う。
「CtoCのプラットフォーム(テクノロジー)を提供するだけでは、より多くの人に使ってもらえないと思うんですね。より多くの人に使ってもらうサービスになるためには、手間を極力無くしていくことがとても大切です。配送は、手間を解消するだけでなく、いつでもどこからでも安心・安全に発送できるという、とても大切なプロダクト体験を担う部分です」
そうして生まれたのが「らくらくメルカリ便」や「ゆうゆうメルカリ便」、そして「匿名配送」だ。読者の皆さんの中にも、こうしたメルカリ独自の配送の良さからメルカリを使い続けている人も多いだろう。補足すると、らくらくメルカリ便や、ゆうゆうメルカリ便を使えば、全国一律料金で配送でき、また2次元コードを使うことで伝票へ宛名を記入する手間も不要で発送できる。日本全国の提携したコンビニエンスストアや宅配ロッカーPUDO(らくらくメルカリ便)、全国の郵便局(ゆうゆうメルカリ便)など、現在約7万8000ヵ所の配送拠点が整備されている。メルカリ便を使うと、出品者・購入者ともにお互いの住所や氏名などの個人情報を伝えることなく匿名で配送できる。
重要なポイントは、テクノロジー「以外」の部分、特に「手間要らずで安心・安全に配送できる」ことは、「誰かには価値があるのに「捨てる」をなくす」が目的のメルカリというプロダクトの重要な価値だという点だ。
こうした配送価値を提供するためのパートナー企業、具体的にはヤマト運輸、セブン―イレブン、JCBは、実は当初「CtoCとは提携しない」という姿勢だった。その壁をのり超えてメルカリが提携できた秘訣はカスタマーサポート(同社では「カスタマーサービス」と呼ぶ)にある。同社はカスタマーサポート機能が充実していることを数字も用いて時間をかけて丁寧に説明し理解してもらうことで、大手企業であるパートナーの不安要素を一つ一つ解消していった。一般的に、カスタマーサポートはコストセンターと位置付ける企業が多い。しかしメルカリのカスタマーサービスは、お客さまがプロダクトを使い続けることに直結するためプロフィットセンターの位置付けだ。
③ カスタマーサクセスは全社員がお客さまのためになることを追求すること
メルカリに「カスタマーサクセス」という名の部門は存在しない。それでもこうした優れたプロダクトが開発され価値を上げ続けているのは、カスタマーセントリックな企業文化、即ちカスタマーサクセスは特定の部門だけではなく組織全体が実行することという価値観が浸透しているためだ。
田面木氏は言う。
「カスタマーサクセスは、お客さまからのお問い合わせ対応業務を行う部門だけのミッションではありません。プロダクト、マーケティング、カスタマーサービス、PR、エンジニアリング、コーポレートなど会社全体を通してお客さまと向き合う体制とマインドを持つことが前提です。社員全員がお客さまの視点で、自分の役割からお客さまのためになることを果たしていく、これがカスタマーサクセスです」
経営陣やプロダクト、マーケティングなど横断的に組織を巻き込みながらカスタマーサクセスに取り組むことは、多様なステークホルダーの合意形成が必要なため、時には困難を伴う。しかしメルカリでは、組織横断的にカスタマーの声をプロダクト開発に取り込む体制を追求している。
たとえば、アプリ「メルカリ」に寄せられる問い合わせや取引メッセージの監視、トラブル対応などを行うカスタマーサービス部門の中に、メルカリ内の取引データやお問い合わせ内容を分析してプロダクト開発をサポートする「Customer Service Product(CSP)」が存在する。CSPはプロダクト部門のパートナーとしてお客さま目線でのサービス改善や新機能企画をフィードバックしたり、新機能や仕様変更でのお客さま対応やリスクを想定して開発側の負担を軽減したりなど、プロダクトとカスタマーサービスの架け橋となる役割を担う。
一方、プロダクト部門の中には「Customer Reliability Engineering(CRE)」が存在する。グーグルが2016年に始めた専門職であるCR Eを参考にしたメルカリのCREは、安心・安全な取引を通じてお客さまにサービスを信頼してもらうことを目的に、「そもそも問い合わせが発生しない」ようなアプリの使いやすさの改善や、トラブルにつながる商品を自動的に発見しマーケットを健全化するモニタリングツールの開発などを包括的に行う専門チームだ。メルカリのCREは、AIなどのデジタル技術を活かしてお客さまの手間を大胆に省くなど、カスタマーのニーズにより近づくために優先して注力することが決まった象徴的なプロジェクトでもある。
このようにメルカリでは「お客さまのために」があらゆる部門の原動力になっている。お、メルカリジャパンCEOの田面木宏尚氏によるインタビュー動画もぜひ併せてご覧いただきたい。