(本記事は、前川孝雄氏の著書『50歳からの逆転キャリア戦略 「定年=リタイア」ではない時代の一番いい働き方、辞め方』PHP研究所の中から一部を抜粋・編集しています)

複業にチャレンジして経験値の幅を広げる

副業
(画像=Foxy burrow/Shutterstock.com)

メガバンクなど大企業にも拡大する副業解禁の流れ

「キャリアプラン・腕試し」のステップに入ったら、副業にチャレンジするのも有効です。自分の強みを磨き、市場価値を高めながら、第二、第三の職業人生をどうするかという現実的なキャリアプランを構想したとき、「このプランを実現するにはもっと経験値の幅を広げておかなければ」と感じることもあるはずです。そこで、今の会社に在籍しながら、もう一つ新しい職場で仕事をする複業経験は大きなプラスになります。

ちなみに「副業」ではなく「複業」とは、プロフェッショナルとして、異なる複数の仕事を持ち、それぞれの仕事で市場価値を発揮し、評価を受け、相応の対価を稼ぐことを指します。いわゆるお小遣い稼ぎ、サイドビジネス的なニュアンスのある「副業」とは別物と考えてください(文中では、企業動向などの説明には一般用語としての「副業」を使用します)。

政府が副業・兼業を原則として認める方向性を打ち出したのが2017年。今や「社員の成長やモチベーション向上につながる」「社員のセカンドキャリアの形成に資する」などの理由から、大企業でも副業の解禁が進んでいます。メガバンクでも解禁が始まるなど、今後もこの動きは拡大していくと見られています。

この流れは自律型人材を目指すミドルにとっては歓迎すべきもの。自社が副業を解禁しているなら積極的に活用し、複業にチャレンジしましょう。

そのときにポイントになるのが、どのような仕事を選ぶかです。今と同じ業種・職種では苦労は少ないでしょうが広がりもありません。複業経験を第二、第三の職業人生につなげていくためには、自分のキャリアプランに関連する仕事であること、今とは違う領域の仕事であること、磨いてきた強みが活かせる仕事であることなどが条件となります。

「複業家」としてメディアにも多数取り上げられているサイボウズの中村龍太さんは、サイボウズに所属しながら、野菜の生産・販売を行う会社でも働き、その成果としてIT×農業のイノベーションを実現しました。

複数の仕事に携わることによってビジネスの面でも相乗効果が生まれ、本人のキャリアの可能性も広がったこの中村さんのような働き方は、これからの複業の一つの理想形だと私は考えます。

リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査~日本の働き方を考える2018」によると、副業をしていない層より副業をしている層のほうが、仕事を通じた成長実感を持つ割合は5.3%も高くなっています。

また副業の目的として「生計を維持するため」とした層で成長実感を持つのは29.5%にとどまるのに対して、「社会貢献したいため」は48.0%、「新しい知識や経験を得るため」は47.9%、「様々な分野の人とつながり、人脈を広げるため」は45.0%と成長実感が非常に高くなっています。

こうして考えを深めていくと、お小遣い稼ぎや副収入を目的とした「副業」ではなく、様々な会社や仕事を兼業する「複業」でもなく、自分の強みを必要とされる場が多数あって働きがい、さらには幸福を感じられる「福業」を目指すことがミドル・シニアには必要なのだとも思います。

ちなみに、私が営むFeelWorksも副業はOKにしており、仲間たちには単なる小遣い稼ぎではなく、自分の強みが活かせてキャリア形成につながる福業ならどんどんやりなさい、と話しています。大切な仲間たちに福業で働いてほしいと願うからです。

そのため、勤務時間も1日7時間×勤務日数分の月内時間を自己裁量でやりくりできるスーパーフレックス制も導入し、複数の企業で働いたり、会社経営する社員もいます。月3日まで在宅勤務もOKです。ただし、自由と責任はセットですから、それぞれの担う役割や成果には必ずコミットしてもらうようにしています。

フリーランスとして複業を始める道もある

50歳を超えていることを考えると、収入を伴う副業の選択肢は現実にそれほど多くはありません。ですから、ここはお金にはこだわらず、自分のキャリアプランに沿って経験値を広げることを重視して、仕事を探したほうがいいでしょう。

例えば、NPO法人や介護・福祉、農業などの人材が足りていない分野であれば、報酬は決して高くはありませんが、ミドルでもニーズがあります。

また、副業の定義からは外れますが、知人の会社などで無償で働かせてもらうという選択肢もあると思います。この場合は丁稚奉公のイメージですね。本業で一定の収入がキープできていれば、これも可能なはずです。

ドワンゴやカドカワなどの社長を務めた川上量生さんが、スタジオジブリの鈴木敏夫さんに弟子入りされたことがありましたが、これも収入というより、キャリア形成のために学びたかったからだと思います。

その時点である程度個人でやれる自信がついていれば、トライアルでフリーランスとして働くことを考えてもよいでしょう。

フリーで仕事をする場合に重要なのは、どんなに安くても報酬をいただくこと。前述の丁稚奉公のパターンとは違って、フリーは、会社の看板を外して一人のプロフェッショナルとして仕事を請け負うわけですから、安くても報酬をいただくことに意味があります。

依頼するほうも無償だったり安ければそれだけの期待値しかないため、アウトプットに対して厳しい評価やフィードバックはしないものです。「タダなら仕方ないか」「まぁ安かったしこんなものかな」という具合ですね。だから無償で働いてしまうと、プロフェッショナルとして仕事をする緊張感がなくなってしまうのです。これでは次につながりません。

最初は1件500円でもいいのです。そして、実績を積みながら徐々に料金を上げていく。そのときに大切なのは、依頼があったときには「なぜ自分に発注したのですか」と聞くことです。私も独立当初は必ず聞いていました。

すると、「あなたはこの分野に詳しいから」「学者の理論の解説ではなく、現場で経験のある人の話を聞きたかった」といった答えがお客様から返ってきます。そういった評価がプロフェッショナルとしての自分の強みを知り、市場価値を測る目安になります。それに従って料金を上げていくのです。自分の価値を知り、相応の対価を要求することもプロフェッショナルの仕事の一つです。

さらに、フリーの場合は、仕事を選ぶことも大切です。依頼があれば何でも受けるというやり方をしていると、次第にただの便利屋みたいな存在になりかねません。自分のキャリアビジョンにつながる仕事なら受ける、つながらないならいくら報酬が高くても受けないというプライドを大事にしてください。

働く場が複数あることは精神的なセーフティーネットになる

福業は、ミドルにとって新たなターニングポイントにもなり得ます。組織の外に出て、多様な人や新たな仕事と出会う中で、自分自身で気づかなかった自分の強みや持ち味が見え、また新たな関心が生まれる可能性があるからです。今後のキャリアプランを描き直すきっかけを得ることもできるのです。

再びサイボウズの事例を紹介しましょう。社長の青野慶久さんと対談させていただいた際に伺ったエピソードです。大手銀行からサイボウズに転職してきた50代のベテラン社員・松村克彦さんの事例です。

彼は大変優秀で指示された仕事は完璧にこなします。しかし、大企業での働き方が染みついていて、上から与えられた役割や仕事の指示がないと何をしていいかわからない。そこで、青野社長は一度会社を離れ、複業をするよう提案しました。松村さんは自分が会社に必要がないと宣告されたと勘違いし、ひどく落ち込みます。

しかし、社長命令なので、なんとか自分のやりたいこと、やれる仕事は何かを一生懸命内省し、見つける努力をしました。その結果、社会的マイノリティーを支援する非営利活動の支援にやりがいを見出し、生き生きと働くようになった。その分野での有名人にまで成長でき、やがて会社に還元されることも視野に入ってきた、とのことです。

青野社長は、これを「カッパ(組織という虚構)の呪縛からの解放」と表現されています(詳しくは、私が営むFeelWorksが運営するサイト「人材育成ジャーナル」に対談記事が掲載されていますので、ご覧ください)。

やりがいと手応えが感じられる福業は、結果として、ミドルに二つのセーフティーネットをもたらします。一つは、経済的なセーフティーネット。お金が第一ではないとはいえ、複数の収入源が得られることは安心につながります。一つの職場で収入減や失職の恐れがあってもほかで補うことができれば、経済的不安が軽減されるからです。

もう一つは、精神的なセーフティーネット。一つの職場にしか所属していないと、その職場の上司の評価や同僚との人間関係に一喜一憂することになります。自己効力感を感じにくくなることもあるでしょう。

しかし、複数の仕事があれば、一つの職場で業績や評価が不調でも、ほかで評価される可能性もあり、気持ちを楽に保てます。また、一社に依存していないため、心を病むほど苦しむくらいなら、離職の選択もしやすいのです。

このように副業のメリットを考えていくと、やはりミドルにとっては、幸福をつかむための「福業」と表現すべきですね。

50歳からの逆転キャリア戦略 「定年=リタイア」ではない時代の一番いい働き方、辞め方
前川孝雄(まえかわ・たかお)
㈱FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師。1966年、兵庫県明石市生まれ。大阪府立大学、早稲田大学ビジネススクール卒。㈱リクルートで『リクナビ』『就職ジャーナル』などの編集長を務めたのち、2008年に㈱FeelWorks設立。「上司力研修」「50代からの働き方研修」などで400社以上を支援。2017年に㈱働きがい創造研究所設立。一般社団法人企業研究会研究協力委員、ウーマンエンパワー賛同企業審査員なども兼職。

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