シンカー: 過去数週間で少なくとも、グローバル経済が直面する 2 点の重要なリスクが大きく低下した。これは市場にとっては大きな変化だが、経済成長予測には大きく影響しないとみられる。弊社は依然として、米国が短く浅いリセッションに入る(おそらく2020年中頃)と見込んでいる。ただ、リセッションは構造的な景気後退というよりは速度調整的なものとなり、その後2021年には、世界中で足並みを揃えて景気が上向くと弊社は見込んでいる。
グローバル・レポートの要約
●SG世界経済見通し(12/04):リスクは急低下したが、米国主導の景気減速が待つ
リスクは急低下したが、米国主導の景気減速が待つ
過去数週間で少なくとも、グローバル経済が直面する2点の重要なリスクが大きく低下した。それは「合意無きブレグジット(英国のEU離脱)」と「米国と中国の貿易紛争激化」である。これは市場にとっては大きな変化だが、経済成長予測には大きく影響しないとみられる。下方リスクが小さくなっても、弊社は依然として、米国が短く浅いリセッションに入る(おそらく2020年中頃)と見込んでいる。その際には、企業収益性の圧迫が背景になるとみている。これによって、グローバルGDP成長率が抑制されることは明らかだが、米国に追随してリセッション入りすると予測されるのは、ドイツ、スイス、メキシコだけである。その後2021年には、(世界中で)足並みを揃えて景気が上向くと弊社は見込んでいる。
貿易戦争は転換点を迎えた?希望を持てる方向
米国の保護主義的な政策がエスカレートして18カ月ほど経つが、転換点を迎えたとみられる。米国が自動車に追加関税を課さないことがかなり明らかになっている。これはEU、日本、韓国などにとって大変安心できることだ。それよりも確実性が低いのは、米国と中国がいわゆる「フェイズ1合意」に達するかどうかである。弊社は、可能性は十分にある(50%)とみているが、そうした段階には以前から達している。米中両国とも、合意をまとめるという意味では力を発揮できていない。一方で、グローバル貿易が底打ちしたという証拠が増えつつある。ただ、貿易を巡る不確実性は残り、米国リセッションを弊社自身が予測していることから、弊社も堅調な回復は見込んでいない。
「不確実性と投資」の関係は全く不透明
「広がった不確実性」により企業の投資プロジェクトが棚上げになっている、少なくとも遅れているというのが、広く共有されたストーリーである。これ自体は筋が通っているが、実態は各国ごとに大きく異なることを弊社は指摘したい。米国や英国では(投資の勢いが)弱いことが明らかだが、ユーロ圏や日本、(それほどではないが)中国では、いまのところ投資が非常に底固い。とはいえ様々な先行指標が、投資の勢いが今後弱まる可能性があると示している。
各国中央銀行は小休止…長く足を止めることはない
利下げの波が訪れたり、その他の手段による何らかの追加緩和が実施された後に、現時点では大半の中央銀行が小休止する(例外はインドRBIなど非常に少ない)と弊社は見込んでいる。弊社がフォローしている22の中央銀行を合計すると、現在(11月18日)までに政策金利が900bp引き下げられた。これはグローバル金融スタンスが十分に緩和されたといえる規模で、効果を確かめる期間が採られる見込みだ。だが弊社は、米国景気が減速するにつれて、FRBが来春には利下げを再開、FFレートをさらに合計で100bp引き下げると見込んでいる。世界の大半の中央銀行もそれに加わる(追随する)とみられる。ただユーロ圏、日本をはじめ多くの国・地域では金融政策拡大の余地が狭いか実質的には無く、財政政策に焦点が当たると見込まれる。とはいえ数少ない例外(英国や韓国)を別にすれば、財政政策拡大は及び腰かつ遅れたものになるだろう。弊社はドイツでさえも、控えめな財政緩和を見込んでいるに過ぎない。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司