毎日の生活の中で、人間は無数の「判断」を下している。

何時に起きるか、何を食べるか、どの仕事を優先するか、誰と会うか、何を学ぶか。中には、判断を下しているという認識すらない、無意識の判断もあるだろう。

すべての判断が結果として収束し、一つの人生という結果をもたらす。

「判断」という観点で、成功者と一般人とでは何が違うのだろうか。社会心理学者・アッシュの実験を紹介し、「判断力」に影響を与える同調圧力について解説する。

営業ケーススタディ(18)――富裕層が判断を誤らない理由

成功者が持つ正しい判断力を身に付けるには?アッシュの同調実験から学ぶ【営業心理学#18】
(画像=miniwide/shutterstock.com,ZUU online)

富裕層の別荘地で過ごす、非日常な時間

新幹線から普通列車に乗り換え、約束の駅につく。改札を出ると冷たい風が吹き付け、及川圭佑(37)は身震いした。

及川は人材コンサルティング会社で働く採用コンサルタントだ。5年連続で営業成績トップを独走中で、社長からの信頼も厚い。

1ヵ月ほど前、及川は顧客である経営者の吉田から富裕層が集う社交パーティに誘われた。そこで出会った初老の男性・東條に気に入られ、吉田とともに東條の別荘に招待を受けたのだった。

駅前のロータリーに、吉田の車が止まる。あいさつをして乗り込むと、吉田はいつもどおり陽気な調子で話し掛けてきた。

「この間からいろいろ連れ回してしまって悪いね」

「そんなことないですよ、非日常的な経験をたくさんさせていただいて、感謝しています」

恐縮して答える及川に、吉田は「それならよかった」と満足そうにうなずく。

会話をしているうちに、雪景色が美しい山奥の温泉街にたどり着いた。2階建てのログハウスの前で車が止まる。中に入ると、くつろいだ服装の東條が出迎えてくれた。

「及川さん、1ヵ月ぶりですね。東京からはるばる、よく来てくれました」

前回のパーティで、東條はもともと自身で経営していた会社の社長の座を息子に譲り、現在は別の事業を始める準備をしていると聞いていた。今日は東條の息子も来ているそうで、及川は名刺交換をしてあいさつを交わした。

室内には火の灯った暖炉があり、光沢のある革のソファが置かれている。無垢材の家具とペルシャじゅうたんが、ぬくもりの感じられる空間を演出していた。

東條は季節に応じて4つの別荘地を使い分けているらしい。家具はすべてヨーロッパからの直輸入というこだわりようだ。

「私は8年前に妻に先立たれました。ここは初めて妻と旅行した思い出の地でもあります。妻との時間を思い出すため、ここを冬の別荘地に選びました」

東條はそんな思い出を語ってくれた。

昼食は、地元の食材を生かしたフレンチコースだった。次々と運ばれてくる料理に舌鼓を打ちながら、ゆったりと会話を楽しむ。

成功者が持つ正しい判断力を身に付けるには?アッシュの同調実験から学ぶ【営業心理学#18】
(画像=Olha Sydorenko/shutterstock.com,ZUU online)

密室で「正しい判断」ができる人の割合は?

コースも終盤に差し掛かった頃、及川が心理学を学んでいるという話から、東條が興味深い実験について教えてくれた。

「社会心理学者のアッシュは、実験室に7人のサクラと1人の被験者を集め、18種類の問題を用意しました。問題は、モデルと同じ図形を選ぶなど、簡単で明らかに正解が分かるものです」

「アッシュはこのうち、12問でサクラに不正解を答えさせました。被験者は、自分以外がサクラだとは知りません。自分以外の全員が不正解を選ぶ中、果たして正しい答えを選び続けられた人はどのぐらいいると思いますか?」

東條に問われ、及川は考え込んだ。吉田が先に答える。

「周りに流される人がいるとしても、1割程度じゃないですか?だって、正解は誰の目にも明らかなんでしょう」

吉田の答えを聞き、及川も「さすがに過半数は正解を答えられるだろう」と思った。

あなたはどれを選ぶ?

(1)正解を選べた人は75%いた
(2)正解を選べた人は50%いた
(3)正解を選べた人は25%しかいなかった

アッシュが明らかにした恐るべき同調圧力

「正解を選び続けた人は75%、少なくとも50%はいるのではないでしょうか?」

吉田、及川の答えを聞き、東條はほほ笑んでこう言った。